郷を掠めれば衆を分かち、地を廓て利を分かつなり、県けて権あれば而く動くなり。

其七4-3

掠郷分衆、廓地分利、縣權而動。

lüè xiāng fēn zhòng、kuò dì fēn lì、xiàn quán ér dòng。

解読文

①敵里を奪い取れば多人数の正攻法部隊に割り当て、陣地を開拓して統治して兵糧と飼料を各部隊に配分するのであり、開拓した陣地を繋ぎ止めて全軍の権勢が生じれば、自軍が行動し始めた時、敵軍に危険を感じさせることができるのである。

②開拓した陣地を繋ぎ止める時は、しばらく自軍で官職を代行するのであり、場所を見分けて木を伐採して広い田畑を開拓し、兵糧と飼料を配分すれば敵里の人民を感動させるのである。

③陣地の外周の状態を判別して、木を伐採する場所の面積を広くすれば都合が良いのであり、しばらく自軍を待機させて、兵士達を働かせることができるのである。

④木を伐採して何もなくがらんとした場所に、親しくなった元敵里の人民を受け入れた正攻法部隊を出現させて、兵士達の士気が旺盛で切れ味の鋭い武器になったと判別した時、自軍の旗を掲げれば全軍の権勢が生じるのであり、自軍が行動し始めた時、敵軍に危険を感じさせることができるのである。
書き下し文
①郷を掠(かす)めれば衆を分かち、地を廓(ひろげ)て利を分かつなり、県(か)けて権あれば而(よ)く動くなり。

②県(か)けるに権(けん)するなり、郷を分かちて掠(りゃく)して衆(しゅう)なる地を廓(ひろげ)て、利を分ければ而(すなわ)ち動かすなり。

③廓(かく)の地を分(ぶん)として、掠(りゃく)する郷の分を衆(しゅう)たれば利(よろ)しきなり、権(かり)に県(か)けしめて而(よ)く動(どう)せしむなり。

④掠(りゃく)して廓(かく)なる地に、分(ぶん)を郷(う)ける衆あらしめて、利(と)しと分かつに、県(か)ければ権あるなり、而(よ)く動くなり。
<語句の注>
・「掠」は①奪い取る、②③④(木を)きる、の意味。
・「郷」は①里、②③場所、④享受する、の意味。
・1つ目の「分」は①割り当てる、②見分ける、③面積の単位、④よしみ、の意味。
・「衆」は①多くの人々、②③広い、④多くの人々、の意味。
・「廓」は①②開拓する、③外周、④何もなくがらんとしたさま、の意味。
・「地」は①領土、②田畑、③状態、④場所、の意味。
・2つ目の「分」は①②配分する、③判別する、④見分ける、の意味。
・「利」は①②豊かさ、③都合が良い、④鋭い、の意味。
・「県」は①②繋ぎ止める、③維持する、④掲げる、の意味。
・「権」は①権勢、②しばらく官職を代行又は兼任する、③しばらく、④権勢、の意味。
・「而」は①~できる、②条件の関係を表す接続詞、③④~できる、の意味。
・「動」は①其五5-3④「動」、②感動させる、③働く、④其五5-3④「動」、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は「・・・分利、縣權而動。」のみ、ここでは欠落箇所について新訂孫子(岩波)の原文に従った。なお、「掠郷分衆」について孫子(講談社)は「指嚮分衆」とするが、“七書孫子”の原文も「掠郷分衆」だったため「掠郷分衆」を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「衆」の“多くの人々”は、其五1-1①「衆」等同様に「多人数部隊」と考察。さらに其五1-3②「全軍の正攻法部隊は多人数部隊」の記述も踏まえれば、「(多人数の)正攻法部隊」と解読できる。④も同様に解読。

・「地」の“領土”は、侵略戦争を仕掛けて奪い取った敵里等であり、戦争が終結する前であるため、この時点では領土になっていないと解釈できる。そのため、「陣地」と解読した。なお、戦争が終結した後は、この陣地は自国の領土となる。

・「廓」の“開拓する”は、「陣地」を開拓することだが、其七3-3①「都市以外の敵里を経由して治める」を踏まえれば、開拓して統治することがわかる。結果、「開拓して統治する」と補って解読。

・「利」の“豊かさ”は、其二3-4①「資力は国に求め、兵糧は敵を利用する」及び其二3-9①「敵国で得る穀類一鍾の価値は、自国から輸送する兵糧二十鍾分に匹敵し、敵国で得る豆がらと藁一石の価値は、自国から輸送する豆がらと藁二十石分に匹敵する」に基づけば、「兵糧と飼料」と解釈できる。結果、「兵糧と飼料」と解読。②も同様に解読。

・「県」の“繋ぎ止める”は、開拓した陣地を離反させないことと考察。結果、「開拓した陣地を繋ぎ止める」と解読。

・「権」の“権勢”は、其三4-5①「権」の「全軍の権勢」の意味を積み上げていると考察。結果、「全軍の権勢」と解読。④も同様に解読。

・「動」は、其五5-3④「動」の「軍隊が行動し始めれば敵軍に危険を感じさせる」と同意と考察。結果、話の流れに合わせて「自軍が行動し始めた時、敵軍に危険を感じさせる」と解読。④も同様に解読。

<②について>
・「県」の“繋ぎ止める”は、①「県」の「開拓した陣地を繋ぎ止める」の意味を積み上げていると考察。結果、「開拓した陣地を繋ぎ止める」と解読。

・「場所を見分けて木を伐採する」は、其六6-3⑦「将軍は、自軍の兵士達を働かせて敵国の貧しい地区で木を伐採して豊かな地区にするのである」に関連する記述と考察。

<③について>
・「廓」の“外周”は、「陣地」の外周と考察。話の流れに合わせて「陣地の外周」と補って解読。

・「県」の“維持する”は、しばらく兵士達を働かせる文意になっているため、自軍を待機させることと解釈できる。結果、使役形で「自軍を待機させる」と解読。

<④について>
・1つ目の「分」の“よしみ”は、②「敵里の人民を感動させる」に基づけば、親しくなった敵里の人民と考察。結果、「親しくなった元敵里の人民」と補って解読。

・「利」の“鋭い”は、其七6-2②「早朝の旺盛な士気は切れ味の鋭い武器」を指すと考察。結果、「利しと分かつ」で「兵士達の士気が旺盛で切れ味の鋭い武器になったと判別する」と解読。

・「県」の“掲げる”は、人目につくように高く上げる意味であり、開拓した広い場所に配置した自軍を主語と解釈すれば、「自軍の旗を掲げる」と補って解読できる。

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