其二3-9
故知將務食於敵。食敵一鍾、當吾廿鍾、萁秆一石、當吾廿石。
gù zhī jiāng wù shí yú dí。shí dí yī zhōng、dāng wú niàn zhōng、qí gǎn yī shí、dāng wú niàn shí。
解読文
①戦略を理解している将軍は、必ず敵国の町、村、里、集落を自軍が生活する拠り所とする。敵国で得る穀類一鍾の価値は、自国から輸送する兵糧二十鍾分に匹敵し、敵国で得る豆がらと藁一石の価値は、自国から輸送する豆がらと藁二十石分に匹敵する。 ②自軍に兵糧を送り届ける任務と敵に識別された輸送部隊は、敵の獲物となって災いが生じる。攻撃してくる敵兵一人に輸送部隊の気持ちを集中させて輸送を阻んだ時は自国の兵糧二十鍾分が、ひとまとまりの大きな豆がらと藁が出現した時は自国の豆がらと藁二十石分が、まさに輸送部隊の荷物から消えるだろう。 ③自国から兵糧を送り届けさせれば災いが生じると理解している将軍は、陣地にした町、村、里、集落において耕作することに力を尽くす。陣地にした町、村、里、集落で耕作する時、穀類一鍾分を種子にすれば自軍は兵糧二十鍾を得るのであり、その豆や稲の茎を大きくすることだけに集中すれば、自軍はきっと豆がらと藁を二十石分得るだろう。 ④投資して利益を得る道理を理解している将軍は、陣地にした町、村、里、集落を必ず扶養してから耕作する。自軍の兵糧二十鍾分で扶養して、陣地にした町、村、里、集落で穀類一鍾分の種子を使って耕作し、自軍の豆がらと藁二十石分で扶養して、大きくなった豆や稲の茎をまとめる。 |
書き下し文
①故を知る将は務めて敵に食(は)む。敵の食一鍾(しょう)は、吾が廿(ねん)鍾(しょう)に当たり、萁(き)と秆(かん)一石は、吾が廿(ねん)石に当たる。 ②食を将(おく)る務めと知らるるものは、敵の於(う)たりて故あり。敵する一に鍾(あつ)めしめて当たるに吾が廿(ねん)鍾(しょう)、一なりて石なる萁(き)と秆(かん)あるに吾が廿(ねん)石、当(まさ)に食(しょく)すべし。 ③将(おく)れしめば故ありと知るものは、敵に食(は)むに務める。敵に食(は)むに、一鍾(しょう)を当(あ)てれば吾は廿(ねん)鍾(しょう)あるなり、萁(き)と秆(かん)は石たること一にすれば当(まさ)に吾は廿(ねん)石あるべし。 ④故を知るものは敵に務めて将(やしな)い、食(は)む。吾が廿(ねん)鍾(しょう)を当てて敵に一鍾(しょう)を食(は)み、吾が廿(ねん)石を当てて石たる萁(き)と秆(かん)を一にす。 |
<語句の注>
・「故」は①たくらみ、②③災い、④道理、の意味。 ・「知」は①理解する、②識別する、③④理解する、の意味。 ・「将」は①将軍、②③送り届ける、④扶養する、の意味。 ・「務」は①必ず、②仕事、③力を尽くす、④必ず、の意味。 ・1つ目の「食」は①生活の根拠とする、②穀類の食糧、③④耕作する、の意味。 ・「於」は①~を、②カラス、③~において、④~を、の意味。 ・1つ目の「敵」は①②③④戦争や競争で対抗する相手、の意味。 ・2つ目の「食」は①穀類の食糧、②欠ける、③④耕作する、の意味。 ・2つ目の「敵」は①戦争や競争で対抗する相手、②攻撃する、③④戦争や競争で対抗する相手、の意味。 ・1つ目の「一」は①数の名、②一人、③④数の名、の意味。 ・1つ目の「鍾」は①単位名(一升の六百四十倍)、②気持ちを集中する、③④単位名(一升の六百四十倍)、の意味。 ・1つ目の「当」は①二つの物がちょうど匹敵する、②阻む、③④(同価値として)担保にする、の意味。 ・1つ目の「吾」は①②我々の、③我々、④我々の、の意味。 ・1つ目の「廿」は①②③④数字の二十、の意味。 ・2つ目の「鍾」は①②③④単位名(一升の六百四十倍)、の意味。 ・「萁」は①②まめがら、③④豆の茎や枝、の意味。 ・「秆」は①②藁、③④イネ科の植物の茎、の意味。 ・2つ目の「一」は①数の名、②ひとまとまりの、③専らに集中する、④まとめる、の意味。 ・1つ目の「石」は①単位名(一升の百倍)、②③④大きい、の意味。 ・2つ目の「当」は①二つの物がちょうど匹敵する、②③きっと~であろう、④(同価値として)担保にする、の意味。 ・2つ目の「吾」は①②我々の、③我々、④我々の、の意味。 ・2つ目の「廿」は①②③④数字の二十、の意味。 ・2つ目の「石」は①②③④単位名(一升の百倍)、の意味。 |
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「故知將務食於敵、食敵一鍾、當吾二十鍾、𦮼秆一石、當吾二十石。」と「知」を「智」、「廿」を「二十」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。なお、孫子(講談社)の原文は、「萁」を「𦮼」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」でも「𦮼」が元々記述されていた漢字としている。本来は「𦮼」を採用するべきだが、「旺文社漢和中辞典」では「𦮼」の別体が「萁」であるとされており、また常用されていないため、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の置き換えた漢字に従って「萁」を採用した。 ・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。 <①について> ・「故」の“たくらみ”は、其七4-3①「敵里を奪い取れば多人数の正攻法部隊に割り当て、陣地を開拓して統治して兵糧と飼料を各部隊に配分するのであり、開拓した陣地を繋ぎ止めて全軍の権勢が生じれば、自軍が行動し始めた時、敵軍に危険を感じさせることができるのである」でまとめられている侵略戦争における基本戦略を指すと考察。但し、解読文は簡潔に「戦略」とした。 ・1つ目の「敵」の“戦争や競争で対抗する相手”は、1つ目の「食」の“生活の根拠とする”意味を踏まえれば、其二3-4③「陣地を治める者達を定住させて、敵国だった町、村、里、集落において自軍の食糧を増し加える」等に基づいて「敵国の町、村、里、集落」と解読できる。なお、2つ目の「敵」は、陣地にした状態と解釈して「陣地にした町、村、里、集落」と解読。 ・「敵の食一鍾は、吾が廿鍾に当たる」の直訳は“敵の穀類一鍾は、自国の二十鍾に匹敵する”となる。前半の記述で「敵国の町、村、里、集落を自軍が生活する拠り所とする」とあるため、“敵の穀類一鍾”とは、敵国の町、村、里、集落から自軍が得る食糧となる穀類一鍾だと解釈し、「敵国で得る穀類一鍾」と補って解読できる。それに対して“自国の二十鍾”とは、其二1-2①「千里先の敵国に将軍が兵糧を輸送すれば、国内の財貨を失う」に基づけば、「自国から輸送する兵糧二十鍾」と補って解読できる。つまり、この記述は「敵国で得る穀類一鍾」の価値を説いていると考察できるため、「敵国で得る穀類一鍾の価値は、自国から輸送する兵糧二十鍾分に匹敵する」と解読した。「萁と秆一石」も同様に解読。 <②について> ・「於」の“カラス”は、其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」と考察。なお、其五3-2①の記述内容は、奇策部隊が獲物となった敵部隊の虚を突いて攻め取る教えだが、ここでは自国から兵糧を輸送している者達が獲物となる。結果、簡潔に「獲物」と解読。 <③について> ・1つ目と2つ目の「敵」の“戦争や競争で対抗する相手”は、①2つ目の「敵」と考察して「陣地にした町、村、里、集落」と解読。 ・「一鍾」は、①「穀類一鍾」の「穀類」の意味を積み上げていると考察し、「穀類一鍾」と解読。 ・1つ目の「当」の“担保にする”は、将来の食糧不足に対する向けた担保として「穀類一鍾」から「兵糧二十鍾分」を得ることと解釈できる。つまり、「穀類一鍾」を種子にすることと考察できる。結果、「種子にする」と解読。 ・「廿石」は、①「豆がらと藁二十石分」の「豆がらと藁」の意味を積み上げていると考察し、「豆がらと藁二十石分」と解読。 ・「萁と秆」の直訳は“豆の茎や枝と稲の茎”となる。これは直前で記述された「穀類一鍾分を種子」して栽培した二十鍾分の穀類の茎等と考察できる。結果、話の流れをわかりやすくするために「その豆や稲の茎」と解読した。 <④について> ・「故」の“道理”とは、③「耕作する時、穀類一鍾分を種子にすれば自軍は兵糧二十鍾を得るのであり、その豆や稲の茎を大きくすることだけに集中すれば、自軍はきっと豆がらと藁を二十石分得る」から導かれる教えであり、“投資して利益を得る”ことと考察。結果、「投資して利益を得る道理」 ・1つ目と2つ目の「敵」の“戦争や競争で対抗する相手”は、③1つ目と2つ目の「敵」と考察して「陣地にした町、村、里、集落」と解読。 ・「陣地にした町、村、里、集落を必ず扶養」は、「投資して利益を得る道理」の投資を実践することであり、その具体的な内容は後半で記述されている「自軍の兵糧二十鍾分」と「豆がらと藁二十石分」と考察できる。 ・1つ目と2つ目の「当」の“担保にする”は、自軍からの要望に対して同価値のものを提供することと考察。「投資して利益を得る道理」に合わせて「投資する」と解読しても良いが、話の流れをわかりやすくするために「陣地にした町、村、里、集落を必ず扶養」に合わせて「扶養する」と解読した。 ・「一鍾」は、③「穀類一鍾分を種子にすれば自軍は兵糧二十鍾を得る」の意味を積み上げていると考察し、「穀類一鍾分の種子」と解読。 ・「萁と秆」は、③同様に解釈して「豆や稲の茎」と解読。 |