其二3-4
取用於國、因糧於敵。故軍食可足也。
qŭ yòng yú guó、yīn liáng yú dí。gù jūn shí kĕ zú yĕ。
解読文
①資力は国に求め、兵糧は敵を利用する。だから、兵士達は満足できるだけ食べることができるのである。 ②敵国の町、村、里、集落を経由して奪い取ることで、敵を兵糧の頼みとする。敵国の町、村、里、集落が衰えているならば、敵国から奪い取って陣地にした時、その敵人民に食事を与えれば、満足して自軍の占領を許すのである。 ③陣地を治める者達を定住させて、敵国だった町、村、里、集落において自軍の食糧を増し加える。駐屯して自軍の兵士達が耕作すれば、陣地にした町、村、里、集落の人民は満足し、自国の統治を許すのが道理である。 ④陣地にした町、村、里、集落を統治して維持することに力を尽くすのであり、敵を順応させて兵糧を求めるのである。町、村、里、集落の人民と馴染みになれば、自軍への編制を実践して兵士数を多くするべきである。 |
書き下し文
①用は国に取り、糧(かて)は敵に因(よ)る。故に、軍は足りて食う可きなり。 ②国に用(よ)りて取り、敵に糧(かて)を因(よ)る。故(ふ)るならば、軍するに食らわせれば、足りて可(き)くなり。 ③国を用いるものを取れしめ、敵に於(お)いて糧(かて)を因(かさ)ねる。軍して食(は)めば、足りて可(き)く故なり。 ④国すること用いるを於(な)し、敵を因(よ)らせしめて糧(かて)を取ること於(な)す。故たれば、軍すること食(な)して足る可きなり。 |
<語句の注>
・「取」は①求める、②攻め取る、③手に持つ、④求める、の意味。 ・「用」は①資力、②経由する、③治める、④力を尽くす、の意味。 ・1つ目の「於」は①~に、②③~を、④~である、の意味。 ・「国」は①独立した国家、②地区、③領地、④国家として維持する、の意味。 ・「因」は①利用する、②頼みとする、③増し加える、④順応する、の意味。 ・「糧」は①②③④食糧、の意味。 ・2つ目の「於」は①~に、②~を、③~において、④~である、の意味。 ・「敵」は①②③④戦争や競争で対抗する相手、の意味。 ・「故」は①だから、②衰える、③道理、④馴染み、の意味。 ・「軍」は①兵士、②陣取る、③駐屯する、④軍隊に編制する、の意味。 ・「食」は①食べる、②人に食事を与える、③耕作する、④実践する、の意味。 ・「可」は①~できる、②③許す、④~すべきである、の意味。 ・「足」は①②③満足するさま、④多い、の意味。 ・「也」は①②③④断定の語気、の意味。 |
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する ・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。 <①について> ・特に無し。 <②について> ・「国」の“地区”は、其一2-5④「地」の”地区“と同意であり、汙直の計によって自国の陣地にし、統治していく「敵国の町、村、里、集落」と解読。 ・「用りて取る」の“経由して攻め取る”対象は、「用」の “経由する”の意味が其七3-3①「都市以外の敵里を経由して治めない将軍は、陣地を手に入れることを利点と思うことができない」を指すと推察できることから、「敵国の町、村、里、集落」であり、「軍争」に関連する記述とわかる。其七1-2①「敵国の里を奪い合って陣取ることが難しい理由は、陣地にする敵里を経由して自国による統治をその人民に認めさせる時、巧みに敵軍からの攻撃を制止する必要があるからである」等に基づき、「奪い取る」と解読。 ・「故」の“衰える”は、「敵国の町、村、里、集落」が衰えていることと考察。類似した記述が其十一3-2②「郊外の町、村、里等を奪い取ってもひなびていれば滞在して手厚く与えるのであり、兵士達が何度も耕作すれば全軍の食糧は十分に備わるだろう」にある。結果、「故るならば」で「敵国の町、村、里、集落が衰えているならば」と解読。 ・「敵人民に食事を与える」は、①「資力は国に求める」に基づき、出陣前に国から受け取った財貨を使って行うと推察できる。 ・「可」の“許す”事柄は、自軍が奪い取って陣地にしたことと考察し、簡潔に「占領」と補った。 <③について> ・「取」の“手に持つ”は、「敵国の町、村、里、集落」が「陣地を治める者達」を持つことであり、これを”保持する“意味と解釈すれば「定住させる」と解読できる。 ・「駐屯して自軍の兵士達が耕作すれば、陣地にした町、村、里、集落の人民は満足し、自国の統治を許す」は、其十一3-2③「全軍は、山の麓の木を伐採することで、あり余る広く平坦な場所を出現させて滞在した上で、兵士達が何度も耕作するのである」等に基づいて解読。 <④について> ・「国」の“国家として維持する”は、③「陣地にした町、村、里、集落の人民は満足し、自国の統治を許すのが道理」に基づいて、「陣地にした町、村、里、集落を統治して維持すること」と解読。 ・「町、村、里、集落の人民と馴染みになれば、自軍への編制を実践して兵士数を多くする」は、其二4-2①「敵に勝ちて而は強を益す」の「敵を抑えて自軍の強大さが増加する」を実践することである。また、其十一5-6①「味方になった元敵兵達によって兵士数を増やした全軍を集合させて、この全軍を敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」に直面させるのである」とあり、敵国に対して其三1-3①「せめぎ合うことなく敵軍を抑えつける」を実現するための戦力にするのだとわかる。 |