其十一5-6
聚三軍之衆、投之於險。此謂將軍之事也。
jù sān jūn zhī zhòng、toú zhī yú xiǎn。cǐ wèi jiāng jūn zhī shì yĕ。
解読文
①味方になった元敵兵達によって兵士数を増やした全軍を集合させて、この全軍を敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」に直面させるのである。全軍を統率する将軍は、このように考えて戦争に赴くのである。 ②全軍を統率する将軍は、陣地にした元敵里等の広く平坦な場所に布陣するのであり、守りを堅固にして戦地「死地」に臨むのである。将軍は、これを告げて、陣地にした元敵里等を軍事に協力させるのである。 ③陣地にした元敵里等を軍事に協力させる将軍は、兵士達を使って、数多くある穀物等の蓄えを何度も布陣する場所に運ぶのである。陣地にした元敵里等の人民は、軍隊に対して服従させて、任務を教えて守りを堅固にするのである。 ④自軍の兵士達と任務を教えた元敵人民に対して、役人を使って穀物等の蓄えから配給するのである。吉凶や縁起を占う兵士は、戦地「死地」を災難として告げるのであり、軍営から去る兵士達や元敵人民が出現するのである。 ⑤吉凶や縁起を占う兵士は、将軍の考えていた計画を殺して台無しにするのである。吉凶や縁起を占う兵士が、占いのために陣取った会合場所に多くの兵士達を寄せ集めた時、配給する役人は、占いに関わった兵士達に対して「危険な行為である」と告げて、連行して払いのけるのである。 ⑥将軍は、占いに関わった兵士達に対して「戦地「死地」に直面した時、不安定な状態になって自軍に災いが起こる」と何度も教えるのであり、普通の状態にして集合させて全軍に編制するのである。 ⑦占いを捨てて普通の状態になった兵士達に対して将軍の考えていた計画を教えれば、服従して任務に従事するのであり、全軍は勢いを生じるのである。将軍は、獲物となった敵部隊を驚かす奇策部隊を、周囲を取り囲むように隙間なく配置させるのである。 ⑧軍隊の勢いを集積した全軍が戦地「死地」に直面した時、対峙した敵軍を驚かせるのであり、獲物となった敵部隊を数多く出現させるのである。このように軍事を実践する者を将軍と呼ぶのである。 |
書き下し文
①之に衆(おお)くする三軍を聚(あつ)めて、之を険に投(いた)らしむなり。軍する将は、此(か)く謂(おも)いて事に之(ゆ)くなり。 ②之は、聚(しゅう)の衆なる三に軍するなり、険たりを於(な)して之に投(いた)るなり。将は、此を謂(い)いて、之に軍に事(つか)えしむなり。 ③之は、軍をして衆(おお)き聚(じゅ)を三たび之に投ずるなり。此は、軍に之(お)いて将(したが)わしめて、事を謂(おし)えて険たりを於(な)すなり。 ④軍と之に、衆をして三たび聚(じゅ)に投(おく)るなり。事(つか)える之は、此を険と於(な)して謂(い)うなり、軍を将(ゆ)く之あるなり。 ⑤之は軍を事(し)するなり。之の、軍する三に衆を聚(あつ)めるに、之は此に、険と於(な)すと謂(い)いて、将(ともな)いて投(はら)うなり。 ⑥将は、此に、之に投(いた)るに、険たりを於(な)して軍は事に之(いた)ると三たび謂(おし)えるなり、衆に之(ゆ)かしめて聚(あつ)めて軍するなり。 ⑦此に軍を謂(おし)えれば、将(したが)いて之に事(こと)とするなり、三軍は聚(じゅ)あるなり。之は、於(う)を険たらしむ之を衆たりて投ずるなり。 ⑧之を聚(あつ)める三軍の之に投(いた)るに険たらしむなり、衆(おお)き於(う)あらしむなり。此(か)く軍を事(こと)とする之を将と謂(い)うなり。 |
<語句の注>
・「聚」は①集合させる、②村落、③④蓄え、⑤寄せ集める、⑥集合させる、⑦軍勢、⑧集積する、の意味。 ・「三」は①「三軍」で“全軍”、②三番目という序数、③④何度も、⑤三番目という序数、⑥何度も、⑦⑧「三軍」で“全軍”、の意味。 ・1つ目の「軍」は①「三軍」で“全軍”、②布陣する、③④兵士、⑤陣取る、⑥軍隊に編制する、⑦⑧「三軍」で“全軍”、の意味。 ・1つ目の「之」は①②③④⑤代名詞、⑥変わる、⑦⑧代名詞、の意味。 ・「衆」は①数を増やす、②広い、③数が多い、④群臣、⑤多くの人々、⑥普通の、⑦あまねきさま、⑧数が多い、の意味。 ・「投」は①直面する、②のぞむ、③届ける、④与える、⑤払いのける、⑥直面する、⑦投げ入れる、⑧直面する、の意味。 ・2つ目の「之」は①②③代名詞、④彼ら、⑤⑥代名詞、⑦彼ら、⑧代名詞、の意味。 ・「於」は①~に、②③④~とする、⑤~である、⑥~とする、⑦⑧カラス、の意味。 ・「険」は①苦難、②③守りが堅固であるさま、④災難、⑤危ういこと、⑥状況が安定していない、⑦⑧人を驚かすようなさま、の意味。 ・「此」は①このように、②③④⑤⑥⑦代名詞、⑧このように、の意味。 ・「謂」は①考える、②告げる、③教える、④⑤告げる、⑥⑦教える、⑧名付け呼ぶ、の意味。 ・「将」は①②将軍、③服従する、④去る、⑤連れて行く、⑥将軍、⑦服従する、⑧将軍、の意味。 ・2つ目の「軍」は①軍を統率する、②軍事、③軍隊、④軍営、⑤軍事、⑥軍隊、⑦⑧軍事、の意味。 ・3つ目の「之」は①赴く、②代名詞、③対して、④彼ら、⑤代名詞、⑥ある地点や事情に達する、⑦代名詞、⑧彼、の意味。 ・「事」は①戦争、②奉仕をする、③任務、④先生について学問を修める、⑤刺す、⑥事故、⑦従事する、⑧実践する、の意味。 ・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。 |
<解読の注>
・中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。 ・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。 <①について> ・1つ目の「之」は、其十一5-4②「与」の「味方になった元敵兵達」を指示する代名詞と解読。 ・2つ目の「之」は、「軍」の「全軍」を指示する代名詞と解釈。話の流れに合わせて「この全軍」と解読。 ・「険」の“苦難”は、兵士達にとっての苦難と解釈すれば、其十一1-1①「敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」」と解釈できる。結果、「敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」」と解読。 ・2つ目の「軍」の“軍を統率する”の“軍”は、「全軍」を指すと考察。結果、「全軍を統率する」と解読。 <②について> ・1つ目の「之」は、①「将」の「全軍を統率する将軍」を指示する代名詞と解読。 ・「聚」の“村落”は、“村”とあるため其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」の村を指すと仮定できるが確かではない。また、自軍が統治した地区に赴く文意であるため、陣地にする代表的な地区である里とした(軍争篇参考)。なお、ここでは文意より自軍が陣地にした里等を指すと解釈できる。結果、「陣地にした元敵里等」と解読。 ・「三」の“三番目という序数”は、其一2-1①で三番目に説かれた内容「第三は場所」を指すと考察。結果、「場所」と解読。⑤も同様に解読。 ・「衆なる三」は、「三」を「場所」と解釈すれば“広い場所”となる。この広い場所は「陣地にした元敵里等」にあるため、其十一3-2③「全軍は、山の麓の木を伐採することで、あり余る広く平坦な場所を出現させて滞在した上で、兵士達が何度も耕作するのである」の「あり余る広く平坦な場所」を指すと考察できる。結果、「広く平坦な場所」と解読。 ・2つ目の「之」は、①「険」の「敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」」を指示する代名詞と解釈。但し、冗長にならないように「戦地「死地」」と解読。⑥⑧も同様に解読。 ・3つ目の「之」は、「聚」の「陣地にした元敵里等」を指示する代名詞と解読。 ・「此」は、「聚三軍之衆、投之於險」を指示する代名詞と解釈。ここでは簡潔に「これ」と解読。 ・「事」の“奉仕をする”は、「陣地にした元敵里等」に「広く平坦な場所」を提供する等、協力させることと考察。結果、使役形で「協力させる」と解読。 <③について> ・1つ目の「之」は、②「将」の「将軍」を指示する代名詞と解釈。この将軍は、陣地にした元敵里等を軍事に協力させることを踏まえて、「陣地にした元敵里等を軍事に協力させる将軍」と補って解読。 ・「聚」の“蓄え”は、其十一3-3①「町、村、里等の元敵人民に対して恭しく生活の面倒をみてこき使うことが無ければ、敵人民は自軍に対する怒りを捨て去って穀物を山のように蓄えることに尽力する」及び其十一3-3②「将軍は、穀物等の生活必需品や財物について出納管理で厳密に損失を防いで元敵人民を煩わしてはならない」に基づいて、「穀物等の蓄え」と補って解読。④も同様に解読。 ・2つ目の「之」は、②「三」で記述された「広く平坦な場所」を指示する代名詞と解釈。但し、この場所に布陣することを踏まえて、「布陣する場所」と簡潔に解読。 ・「此」は、任務を教える意味合いより、①1つ目の「之」の「味方になった元敵兵達」の内、其十一3-3⑦「下働きの者達に武器を駆使する方法を用心深く修練させて、自軍の兵士達と共に勇気を累積させる」と記述された「陣地にした元敵里等」の「下働きの者達」を指すと解釈できる。結果、ここでは「陣地にした元敵里等の人民」と包括的に解読。 <④について> ・1つ目の「之」は、③「此」の「陣地にした敵里等の人民」を指示する代名詞と解釈。この元敵人民には任務を教えたことを踏まえて、冗長にならないように「任務を教えた元敵人民」と言い換えて解読。 ・「衆」の“群臣”は、文意より其十一3-11②「戦地「死地」に達する出撃命令を出す日は、役人を使って兵士達に配給させるのである」の役人を指すと考察。結果、「役人」と解読。 ・「投」の“与える”は、其十一3-11②「戦地「死地」に達する出撃命令を出す日は、役人を使って兵士達に配給させるのである」の配給を指すと考察。結果、「配給する」と言い換えた。 ・「事える之」の直訳は“先生について学問を修めた彼ら”となる。これは其十一3-11③「出撃する日時の吉凶や縁起を占う兵士達」の内、占いの技術を持った兵士を指すと考察。結果、「吉凶や縁起を占う兵士」と解読。 ・「此」は、②2つ目の「之」の「戦地「死地」」を指示する代名詞と解読。 ・2つ目の「之」の“彼ら”は、「軍と之」の「自軍の兵士達と任務を教えた元敵人民」を指すと考察。結果、「兵士達や元敵人民」と簡略化して解読。 <⑤について> ・1つ目と3つ目の「之」は、④3つ目の「之」の「吉凶や縁起を占う兵士」を指示する代名詞と解読。 ・「軍を事する」の直訳は“軍事を刺す”となる。これは自軍の軍事を殺して台無しにすることと解釈すれば、其七6-1①「考えていた計画を強制的に取る」に類似した記述と考察できる。結果、「将軍の考えていた計画を殺して台無しにする」と解読。 ・「軍する三」は、「三」を「場所」と解釈すれば“陣取る場所”となる。これは「吉凶や縁起を占う兵士」が陣取る場所であるため、其十一3-11③「占いの会合場所」を指すと考察。結果、「占いのために陣取った会合場所」と補って解読。 ・2つ目の「之」は、④「衆」の「役人」を指示する代名詞と解釈。この役人は配給を行うことを踏まえて、「配給する役人」と補って解読。 ・「此」は、1つ目の「之」の「吉凶や縁起を占う兵士」と「衆」の「多くの兵士達」を合わせた人々と考察。結果、「占いに関わった兵士達」と解読。 <⑥について> ・「此」は、⑤「此」の「占いに関わった兵士達」を指示する代名詞と解読。 ・「軍は事に之る」の直訳は“軍隊は事故に達する”となる。これは占いによって軍隊に災いが起こると告げたのだと解釈。結果、「自軍に災いが起こる」と解読。 ・「衆に之かしむ」の直訳は“普通に変わらせる”となる。これは「占いに関わった兵士達」を普通と言える状態にすることと考察。結果、「普通の状態にする」と解読。 ・1つ目の「軍」の“軍隊に編制する”の“軍隊”は、「全軍」を指すと考察。結果、「全軍に編制する」と解読。 <⑦について> ・「此」は、⑥「此」の「占いに関わった兵士達」を指示する代名詞と解釈。この兵士達は普通の状態にして全軍に編制していることを踏まえて、「占いを捨てて普通の状態になった兵士達」と解読。 ・2つ目の「軍」の“軍事”は、⑤2つ目の「軍」同様に解釈して「将軍の考えていた計画」と解読。 ・3つ目の「之」は、③「事」の「任務」を指示する代名詞と解読。 ・1つ目の「之」は、⑥「将」の「将軍」を指示する代名詞と解読。 ・「於」の“カラス”は、其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」と考察。結果、話の流れに合わせて「獲物となった敵部隊」と解読。⑧も同様に解読。 ・2つ目の「之」の“彼ら”は、「獲物となった敵部隊」を驚かす存在であるため「奇策部隊」と解読。 ・「衆たりて投げる」の直訳は“あまねく投げ入れる”となる。これは、其五2-9②「正攻法部隊の周囲を取り囲んで制止している奇策部隊は、周囲をじっくり見ていない敵部隊を取り囲んだ状態をつくり、容易く攻め取れる状態に至らせて行き詰まらせることができた時、一斉に出撃するのである」等に基づけば、周囲を取り囲むように隙間なく奇策部隊を配置させることと考察できる。結果、「周囲を取り囲むように隙間なく配置させる」と補って解読。 <⑧について> ・1つ目の「之」は、⑦「聚」の「勢い」を指示する代名詞と解釈。わかりやすく「軍隊の勢い」と解読。 ・「険」の“人を驚かすようなさま”の“人”は、戦地「死地」で対峙した敵軍を指すと考察。結果、使役形で「対峙した敵軍を驚かせる」と補って解読。 ・3つ目の「之」の“彼”は、将軍を指すが、ここでは存在の意味と解釈。結果、話の流れに合わせて「者」と解読。 |