家の公に用は之いるに、破る車と罷める馬あり、甲と冑あり、矢と弩あり、戟と楯あり、蔽う櫓あり、丘なる牛と大なりとせしむ車あり、十の七は其れ去る。

其二3-8

公家之用、破車罷馬、甲冑矢弩、戟楯蔽櫓、丘牛大車、十去其七。

gōng jiā zhī yòng、pò chē bà mǎ、jiǎ zhòu shǐ nŭ、jǐ dùn bì lú、qiū niú dà chē、shí qù qí qī。

解読文

①国家の公務である戦争のために経費を使う時は、敵国を突き進む戦車と敵軍を退ける馬があり、鎧と兜があり、矢と弓があり、矛と楯があり、覆い防ぐ大きな盾があり、主に農耕に利用する大きな牛と立派だと思わせる上級武将の戦車があり、経費の七割をこのような内訳で失う。

②国家の公務で戦争に対して力を尽くせば、馬は疲労して、鎧、兜、矢、弓、矛、楯、覆い防ぐ大きな盾、戦車は壊れて、大きな牛はいなくなり、全兵士数の七割はたぶん失うだろう。

③国家の公務として侵略戦争に赴く時は、各部隊の動かし方を分析して敵国から町、村、里、集落を奪って陣地を増やせば、鎧と兜、矢と弓、矛と楯、覆い防ぐ大きな盾、主に農耕に利用する大きな牛と立派だと思わせる上級武将の戦車は完全な状態なままであり、敵国は領地の七割を失って何もできない状態になるだろう。

④自国の朝廷は、敵国から町、村、里、集落の七割を奪い取って陣地にすれば、兜と鎧を着た敵兵を集めて罪を許し、陣地開拓に貢献した自軍の兵士達には、矛と弓は正しく真っすぐにして欄干の横木や手摺りにして、牛を飼っている小さな土山には障壁と物見櫓を設置し、その陣地の広い範囲に水車で水を汲む設備を完備することに力を尽くさせ、その兵士達には奪い取った陣地に住まいを構えさせるのである。
書き下し文
①家の公に用は之(もち)いるに、破る車と罷(や)める馬あり、甲と冑(ちゅう)あり、矢(し)と弩(ど)あり、戟(げき)と楯(じゅん)あり、蔽(おお)う櫓(ろ)あり、丘(きゅう)なる牛と大なりとせしむ車あり、十の七は其れ去る。

②家の公に之(お)いて用いれば、馬は罷(つか)れて、甲、冑(ちゅう)、矢(し)、弩(ど)、戟(げき)、楯(じゅん)、蔽(おお)う櫓(ろ)、車は破れて、大きい牛は丘(きゅう)たり、車の十の七は其れ去らん。

③家の公に之(ゆ)くに、車を破りて馬すれば、甲と冑(ちゅう)、矢(し)と弩(ど)、戟(げき)と楯(じゅん)、蔽(おお)う櫓(ろ)、丘(きゅう)なる牛と大なりとせしむ車は十たり、其の七を去りて罷(ひ)たらん。

④公は、其の七を去(おさ)めれば、車は冑(ちゅう)ある甲(こう)を馬して罷(や)め、破(は)する車は、戟(げき)と弩(ど)は矢(ただ)しくして楯(じゅん)たり、牛ある丘は蔽(おお)いと櫓(ろ)あり、大いに車すること十たるに用いらせしめ、之に家せしむなり。
<語句の注>
・「公」は①②③公務、④朝廷、の意味。
・「家」は①②③国家、④住まいを構える、の意味。
・「之」は①使う、②対して、③赴く、④代名詞、の意味。
・「用」は①経費、②③④力を尽くす、の意味。
・「破」は①突き進む、②壊れる、③分析する、④尽くす、の意味。
・1つ目の「車」は①②戦車、③④中国将棋の駒の一つ、の意味。
・「罷」は①退ける、②疲労したさま、③無能な者、④罪人を放免する、許す、の意味。
・「馬」は①②馬、③④数取り、の意味。
・「甲」は①②③兵士が身につける革又は金属製の防護用具(鎧)、④鎧を着た兵士、の意味。
・「冑」は①②③④兵士が頭にかぶった防具(兜)、の意味。
・「矢」は①②③弓につがえて射る武器(矢)、④正しく真っすぐなさま、の意味。
・「弩」は①②③④引き金装置を備えた弓(弓)、の意味。
・「戟」は①②③④長い柄の先端に矛の刃先を取り付けたもの(矛)、の意味。
・「楯」は①②③身を防ぎ守る武具の一つ(楯)、④欄干の横木、てすり、の意味。
・「蔽」は①②③覆い防ぐ、④障壁、の意味。
・「櫓」は①②③大きな盾、④物見やぐら、の意味。
・「丘」は①大きい、②空のさま、③大きい、④小さな土山、の意味。
・「牛」は①②③④体は大きく農耕に利用されて食用になる牛、の意味。
・「大」は①立派であると思う、②規模が大きい、③立派であると思う、④広い範囲で、の意味。
・2つ目の「車」は①戦車、②中国将棋の駒の一つ、③戦車、④水車で水を汲む、の意味。
・「十」は①②数の名、③④完全なさま、の意味。
・「去」は①②③失う、④収蔵する、の意味。
・「其」は①このように、②たぶん、③④敵の代名詞、の意味。
・「七」は①②③④数の名、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「公家之費、破車罷馬、兵戟矢弩、甲冑楯櫓、丘牛大車、十去其七。」と「用」を「費」とし、「甲冑矢弩、戟楯蔽櫓」は「兵戟矢弩、甲冑楯櫓」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「家の公」の直訳は“国家の公務”だが、この公務は記述内容から戦争とわかる。結果、「国家の公務である戦争」と解読。②も同様に解読。

・「敵軍を退ける馬」は、其九4-10①「強く命令して駆り立てて前進することは、敵を後退させる要因になるのである」で前進していく部隊が乗る馬と考察した。敵を後退させる部隊が馬に乗っているならば、「強く命令して駆り立てる」対象はその部隊の兵士達だが、その兵士達は乗っている馬に対して「駆り立てる」のだと解釈できる。

・「主に農耕に利用する大きな牛」は、其二3-4③「駐屯して自軍の兵士達が耕作すれば、陣地にした町、村、里、集落の人民は満足し、自国の統治を許すのが道理」等で記述されている、陣地にした町、村、里、集落で自軍が行う耕作が主な目的と考察。なお、②から乳を飲んでいたことがわかるため、食用にすることも視野に入れて“主な”と補っておいた。

・「立派だと思わせる上級武将の戦車」は、其九4-5④「限られた高貴な地位であり、さらに特出した敵の指揮官は、戦車に乗って近くまで来襲するのである」に基づき、「上級武将」と補って解読した。

・「十の七」は「七割」の意味であり、経費の金額と考察して「経費の七割」と解読。

<②について>
・2つ目の「車」の“中国将棋の駒の一つ”は兵士一人と解釈するが、話の流れを考慮すれば「十の七」の「七割」の意味を受けて「(自軍の)全兵士数」と解読できる。

・「国家の公務で戦争に対して力を尽くす」とは、孫子兵法が推奨する汙直の計によって陣地を開拓していく戦略ではなく、敵軍と真っ向から戦闘していく戦争を指すと推察する。

<③について>
・1つ目の「車」の“中国将棋の駒の一つ”は部隊一つ一つと解釈して、「各部隊」と解読。

・「馬」の“数取り”とは数をかぞえる事であり、数をかぞえれば数値は増えていく。これは、其七4-3①「敵里を奪い取れば多人数の正攻法部隊に割り当て、陣地を開拓して統治して兵糧と飼料を各部隊に配分するのであり、開拓した陣地を繋ぎ止めて全軍の権勢が生じれば、自軍が行動し始めた時、敵軍に危険を感じさせることができるのである」に基づき、奪った里等は陣地にすることと考察し、「敵国から町、村、里、集落を奪って陣地を増やす」と解読した。なお、其七4-3の「里」は代表例に過ぎず、孫子兵法に登場する陣地にする地区は「町、村、里、集落」があるため、「町、村、集落」を補っている。
その結果、「破」の“分析する”は、「車」の“中国将棋”の意味を踏まえれば、「陣地を増やす」ための「各部隊」の「動かし方」を分析するのだと考察できる。結果、「車を破りて馬する」で「各部隊の動かし方を分析して里等を奪って陣地を増やす」と解読。

・「罷」の“無能な者”は、陣地を奪われた敵国の状態と考察し、「(敵国が)何もできない状態」と解読。

・「其の七を去る」は、「七」を①②同様の解釈を積み上げていると考察して「七割」と解読すれば“敵は七割を失う”となる。これは、自軍が敵国の里等を奪って陣地にしたことによって、相対的に敵国は七割の領地を失うのだと考察できる。結果、「敵国は領地の七割を失う」と解読。

<④について>
・「七」は、③同様に「七割」と解読。

・「去」の“収蔵する”は、③「敵国から町、村、里、集落を奪って陣地を増やす」とほぼ同意と考察し、「敵国から町、村、里、集落を奪い取って陣地にする」と解読。

・「馬」の“数取り”は、陣地にした町、村、里、集落で戦っていた敵兵を捕らえて数えることと考察し、簡潔に「集める」と解読した。

・1つ目の「車」の“中国将棋の駒の一つ”は兵士一人と解釈できるが、話の流れは敵国の町、村、里、集落を奪い取った兵士達を指しているため「自軍の兵士達」と解読した。その結果、「破する車」は“尽くした自軍の兵士達”となり、「敵国から町、村、里、集落を奪い取って陣地にする」に尽くした兵士達を指すと解釈できる。結果、「破する車」は「陣地開拓に貢献した自軍の兵士達」と解読。

・「之」は、1つ目の「車」の「陣地開拓に貢献した自軍の兵士達」を指示する代名詞と考察するが、簡潔に「その兵士達」と解読。

・「兵士達には奪い取った陣地に住まいを構えさせる」は、類似した記述が其九4-23⑧「完全な状態に保って敵国を抑えつけて大いに大いに家屋を立てて定住すれば、敵国への侵略戦争が終わる」にある。

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