汙たらしめて直に之く道を知りて、先んずる者は勝たらしむなり。此、争いて軍して之いる法なり。

其七4-4

先知汙直之道者勝。此軍爭之法也。

xiān zhī wū zhí zhī dào zhě shèng。cǐ jūn zhēng zhī fǎ yĕ。

解読文

①敵軍の進路を妨害して陣地にする敵里に直進する戦略を理解して、敵軍よりも先制して敵里に行き着く将軍は、全軍の権勢を盛大にするのである。これが、先を争って敵里に陣取って利用するお手本である。

②全軍の権勢を盛大にする将軍は、先に気持ちが通じ合う諸侯を瞿地に出現させて敵軍の進路を妨害するのであり、陣地にする敵里に直進して統治するのである。このように敵里に駐屯して自国の考え方に合致させようとすれば、言い争う敵人民が出現するのである。

③陣地にした敵里を統治する将軍は、その敵里の統治を損なう敵人民の考え方や態度を改めさせることを第一にして抑制するのである。真心のある法規や決まりによってたしなめることで考え方や態度が変われば、そこで自軍の兵士にするのである。

④このように真心のある法規や決まりを使えば、軍隊は兵士数で差を出して権勢を生じるのであり、戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理を使って敵国を抑える将軍が、既に敗北した状態の敵将軍に自分達は兵士数が少なく虚弱な軍隊だと理解させた時、素直に降伏するのである。
書き下し文
①汙(う)たらしめて直に之(ゆ)く道を知りて、先んずる者は勝(しょう)たらしむなり。此、争いて軍して之(もち)いる法なり。

②勝(しょう)たらしむ者は、先ず知あらしめて汙(う)たらしむなり、直に之(ゆ)きて道(おさ)めるなり。此(か)く軍して法(のっと)らしめんとすれば、争う之あるなり。

③道(おさ)める者は、直を汙(けが)す之を知(い)えしむこと先にして勝つなり。法に争(いさ)めて之(ゆ)けば、此(ここ)に軍たるなり。

④此(か)く法を之(もち)いれば軍は争(へだ)たるなり、道を之(もち)いて勝つ者は、先たるものをして汙(う)と知らしむに直たるなり。
<語句の注>
・「先」は①先制する、②先に、③第一にする、④既に他界したさま、の意味。
・「知」は①理解する、②友人、③病気が治る、④理解する、の意味。
・「汙」は①②滞って流れない水、③物事を損なう、④水溜まり、の意味。
・「直」は①②思いのかなう場所、真っすぐなさま、③思いのかなう場所、④性格が素直なさま、の意味。
・1つ目の「之」は①②赴く、③彼ら、④使う、の意味。
・「道」は①方法、②③統治する、④道理、の意味。
・「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「勝」は①②盛大な、③抑制する、④抑える、の意味。
・「此」は①代名詞、②このように、③そこで、④このように、の意味。
・「軍」は①陣取る、②駐屯する、③兵士、④軍隊、の意味。
・「争」は①先を争う、②言い争う、③たしなめる、④差が出る、の意味。
・2つ目の「之」は①代名詞、②彼ら、③変わる、④使う、の意味。
・「法」は①手本、②合致する、③④其一2-7①「法」、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「先知迂直之道者。此軍爭之法也。」と「勝」が入らず、「汙」を「迂」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「汙たらしめて直に之く道」は、其七1-4①「汙たらしめて直に之く計」の「敵軍の進路を妨害して陣地にする敵里に直進する戦略」と同意と考察。結果、「敵軍の進路を妨害して陣地にする敵里に直進する戦略」と解読。

・「先」の“先制する”は、其七1-4①「先」で記述された「敵軍よりも先制して敵里に行き着く」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵軍よりも先制して敵里に行き着く」と解読。

・「勝」の“盛大な”は、其七4-3①「開拓した陣地を繋ぎ止めて全軍の権勢が生じれば、自軍が行動し始めた時、敵軍に危険を感じさせることができる」からの話の流れを踏まえると、「勝たらしむ」で「全軍の権勢を盛大にする」と解読。②も同様に解読。

・「此」は、「先知汙直之道者勝」を指示する代名詞と考察。結果、ここでは話の流れに合わせて「これ」と解読。

<②について>
・「知あらしむ」の直訳は“友人を出現させる”となる。“友人”は、其七2-1③「気持ちが通じ合う諸侯に分岐路にある瞿地を占領させる」で記述された「気持ちが通じ合う諸侯」を指すと考察。また、出現させる場所は瞿地とわかる。結果、結果、「気持ちが通じ合う諸侯を瞿地に出現させる」と解読。

・「汙」の“滞って流れない水”は、①「汙」の「敵軍の進路を妨害する」と同意と考察。結果、使役形で「敵軍の進路を妨害する」と解読。

・「直に之く」は、①「直に之く」の「陣地にする敵里に直進する」と同意と考察。結果、「陣地にする敵里に直進する」と解読。

・「法」の“合致する”は、敵人民の考えを自国に合致させることと考察。結果、使役形で「自国の考え方に合致させる」と解読。

・2つ目の「之」の“彼ら”は、話の流れより、陣地にした敵里の人民と考察できる。結果、「敵人民」と解読。

<③について>
・「道める者」は、②「道」で記述した「陣地にする敵里に直進して統治する」のいみを積み上げていると考察。結果、「陣地にした敵里を統治する将軍」と補って解読。

・「直」の“思いのかなう場所”は、①②「直」の解釈に基づき、話の流れに合わせて「その敵里」と解読。

・1つ目の「之」の“彼ら”は、陣地にした敵里の人民と考察。結果、「敵人民」と解読。

・「汙」の“物事を損なう”は、②「言い争う敵人民」が自国による統治を損なうことと解釈。結果、「統治を損なう」と解読。

・「知」の“病気が治る”は、統治を損なう敵人民の考え方や態度を改めさせることと考察。結果、使役形で「考え方や態度を改めさせる」と解読。

・「法」は、其一2-7①「法」の「法規やお手本」と同意と解釈。ここでは特に其十一7-7②「好き勝手にする敵人民にも真心のある法規や決まりを与えて誠実に実行すれば、自国に対する思いを厚くするのである」等で記述される「真心」の表現が適当と判断し、「真心のある法規や決まり」と解読。④も同様に解読。

・2つ目の「之」の“変わる”は、自国による統治を損なう敵人民の考え方や態度が変わることと考察。結果、「考え方や態度が変わる」と解読。

<④について>
・「争」の“差が出る”は、其七2-1④「争」で記述された「兵士数で差を出して権勢を生じる」の意味を積み上げていると考察。結果、「兵士数で差を出して権勢を生じる」と解読。

・「道」の“道理”は、兵士数で差を出して権勢を生じた自軍が、其三1-3①「せめぎ合うことなく敵軍を抑えつける」文意とわかる。さらに、其七2-5④「完全な状態を保って何度も敵里を奪い合うのであり、気持ちが通じ合う諸侯に分岐路にある瞿地を占領させるお手本を使って戦争を終えるのである」を踏まえると、完全な状態を保って敵里を何度も奪い取って権勢を生じた上で、最終的には其三1-1①「戦略、戦術のお手本は、自他を問わず、国家を完全な状態に保つことを上策」を実現して敵国を降伏させる文意と解釈できる。つまり、常に容易く打ち破れる相手を抑えつけることが、自他を問わず完全な状態を保てる道理に繋がると考察できる。結果、この解釈内容がわかるように「戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理」と補って解読。

・「先」の“既に他界したさま”は、兵士数で差を出して権勢を生じた自軍に対して既に敗北した状態の敵将軍を指すと考察。結果、「先たるもの」で「既に敗北した状態の敵将軍」と解読。

・「汙」の“水溜まり”は、少量の水と解釈できる。それに対して、兵士数で差を出して権勢を生じた自軍は、水に置き換えれば大量の水と解釈できる。これは虚実の教えで表現すれば、敵軍が「虚」であり、自軍が「実」である。これを踏まえれば、「兵士数が少なく虚弱な軍隊」と解読できる。

・「直」の“性格が素直なさま”は、敵将軍が素直になることであり、話の流れより「直たり」で「素直に降伏する」と解読できる。

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