五十里にして利りて争えば、則ち上将は厥するなり、半ば至るも法されて以むなり。

其七2-5

五十里而爭利、則厥上將、法以半至。

wŭ shí lǐ ér zhēng lì、zé jué shàng jiāng、fǎ yǐ bàn zhì。

解読文

①五十里先の敵里に陣取ることを強く求めて先を争うならば、上級武将は降伏して額を地につけて敵将軍を礼拝するのであり、大軍十万の半分が敵里に行き着いても、その兵士達は処刑されて戦争を終えるのである。

②上級武将が、五十里先の敵里に陣取ることを強く求めて先を争った結果、大軍十万が半分になった事態を憂い悲しむならば、兵士達に頭を下げて前進することを願うが、兵士達が軍律を守らなくなり、軍隊は不完全な状態で敵里に行き着くのである。

③兵士達が軍律を守らなくなり、軍隊が不完全な状態で敵里に行き着いた状況を憂い悲しむ上級武将は、軍隊を完全な状態にしようとして五倍にした褒美の品によって兵士達に競わせようとするが、小さい木がころがり落ちるに等しく軍隊には勢いが生じないのが道理である。

④非常に高くそびえ立った山から丸い石を転がして動かすに等しく堅固な自軍を前進させて敵兵達を恐れ震えさせる道理を利点として用いる上級武将は、完全な状態を保って何度も敵里を奪い合うのであり、気持ちが通じ合う諸侯に分岐路にある瞿地を占領させるお手本を使って戦争を終えるのである。
書き下し文
①五十里にして利(むさぼ)りて争えば、則ち上将は厥(けつ)するなり、半ば至るも法されて以(や)むなり。

②而(なんじ)の利(むさぼ)りて争うに、十の五たること里(うれ)れば、則ち厥(けつ)して上(すす)むこと将(こ)うも、法すこと以(や)めて半たりて至るなり。

③法すこと以(や)めて半たりて至ること里(うれ)える而(なんじ)は十たらんとして五にする利に争(そう)せしめんとするも、厥(けつ)を上げて将(すす)める則(そく)なり。

④厥(けつ)を上げて将(すす)める則(そく)を利として而(なんじ)は、十たりて五たび里を争うなり、半に至らしむに法(のっと)りて以(や)めるなり。
<語句の注>
・「五」は①②数の名、③五倍にする、④何度も、の意味。
・「十」は①②数の名、③④完全なさま、の意味。
・「里」は①長さの単位、②③憂い悲しむ、④住民の集落(里)、の意味。
・「而」は①順接の関係を表す接続詞、②③④あなた、の意味。
・「争」は①②先を争う、③取り合う、④奪い合う、の意味。
・「利」は①②利益を強く求める、③富、④利益あるものとして用いる、の意味。
・「則」は①②~ならば、③④道理、の意味。
・「厥」は①ぬかずく、②頭を下げる、③小さな木、④石、の意味。
・「上」は①等級や品質が高い、②前に進む、③④低い所から高い所へ至る、の意味。
・「将」は①軍隊などを率いる長、②願う、③④車を押す、の意味。
・「法」は①法律に従って処刑する、②③法を守る、④手本とする、の意味。
・「以」は①②③④終える、の意味。
・「半」は①二分の一、②③不完全な、④中間、の意味。
・「至」は①②③行き着く、④来る、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「五十里而爭利、則厥上將、法以半至。」と「厥」を「蹶」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「利」の“利益を強く求める”は、其七2-3①「」同様に「敵里に陣取ることを強く求める」と解読。

・「上将」は、其七2-3①同様に「上級武将」と解読。

・「厥」の“ぬかずく”は、其七2-3①「上級武将は捕虜にされる」よりも被害の少ない事態に上級武将が陥っていると解釈できる。“ぬかずく”は額を地につけて礼拝する意味であるため、敵将軍に降伏した状態を描写していると考察できる。結果、「降伏して額を地につけて敵将軍を礼拝する」と補って解読。

・「半」の“二分の一”は、話の流れより、其七2-4①「大軍十万」の半分と考察。結果、「大軍十万の半分」と解読。

・「至」の“行き着く”は、話の流れより「敵里に行き着く」と補って解読。②③も同様に解読。

<②について>
・「而」の“あなた”は、話の流れより①「上将」の「上級武将」を指すと考察。結果、「上級武将」と解読。③④も同様に解読。

・「利」の“利益を強く求める”は、①「五十里先の敵里に陣取ることを強く求める」の意味を積み上げていると考察。結果、「五十里先の敵里に陣取ることを強く求める」と解読。

・「十の五たり」は、①「半」の“二分の一”を指すと考察。結果、「大軍十万が半分になる」と解読。

・「厥」の“頭を下げる”は、上級武将が半分となった軍隊の兵士達に頭を下げる場面と考察。結果、「兵士達に頭を下げる」と解読。

・「法すこと以める」の直訳は“法を守ることを終える”となる。上級武将が兵士達に頭を下げた状況を踏まえると、上級武将の権威が失墜して兵士達が軍律を守らなくなったと考察できる。結果、「兵士達が軍律を守らなくなる」と解読。③も同様に解読。

<③について>
・「利」の“富”は、其七2-3②1つ目の「」同様に「褒美の品」と解読。

・「厥を上げて将める則なり」の直訳は“小さい木を高い所に運んで押す道理である”となる。まず、この“小さい木”は、其五5-2①「丸太や石がころがり落ちるに等しく軍隊に勢いを生じさせて動かす」から類推すれば、“小さい木を高い所に運んで押す道理”は小さい木がころがり落ちても軍隊にはほとんど勢いが生じない道理を説くと解釈できる。結果、「小さい木がころがり落ちるに等しく軍隊には勢いが生じないのが道理である」と解読。

<④について>
・「厥を上げて将める則」の直訳は“石を高い所に運んで押す道理”となる。これは其五5-4①「人民を羊の集まりを導くように軍隊を動かす優れた将軍は、丸太と石の道理を技術として使うのであり、非常に高くそびえ立った山から丸い石を転がして動かすに等しく敵兵達に逃亡したい気持ちを生じさせる堅固な自軍で前進させた時、敵軍に危険を感じさせるやいなや敵兵達が恐れ震える理由は、軍隊に勢いが生じたからである」で記述された「丸太と石の道理」を用いるのだと考察。結果、要点だけを簡潔に「非常に高くそびえ立った山から丸い石を転がして動かすに等しく堅固な自軍を前進させて敵兵達を恐れ震えさせる道理」と解読。

・「半に至らしむ」の直訳は“中間に来させる”となる。敵里を奪い取る戦略に関する記述と解釈できるため、其七2-1③「気持ちが通じ合う諸侯に分岐路にある瞿地を占領させる」ことを指すと考察できる。つまり、“中間”とは「分岐路にある瞿地」である。結果、「気持ちが通じ合う諸侯に分岐路にある瞿地を占領させる」と言い換えた。

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