不いに勝える可きは己に在り、勝つ可きは適に在る。

其四1-2

不可勝在己、可勝在適。

bù kĕ shèng zaì jǐ、kĕ shèng zaì shì。

解読文

①大いに戦争に持ち堪えられる準備は将軍に依存し、敵国が戦争で負かすことができる状態に変わる時は敵軍に依存する。

②敵軍を観察して優れた長所があれば、将軍は自軍が優勢になる戦地に布陣することを大いに利点とする。

③将軍は、自軍が優勢になる戦地に布陣すれば、敵軍に大いに優れた長所があっても持ち堪えて、奇策部隊が隠れている場所に誘導する。

④将軍は、誘導してきた敵を打ち破った奇策部隊に攻め取った敵兵を大いに見舞わせて、自軍に順応させて敵軍よりも兵士数を増やす利点に依存するのである。
書き下し文
①不(おお)いに勝(た)える可きは己に在り、勝つ可きは適に在る。

②適を在(み)て勝(しょう)たる可あれば、己は勝(しょう)に在ること不(おお)いに可とす。

③己は、勝(しょう)に在れば、不(おお)いに可あるも勝(た)えて、可たる在(ざい)に適(ゆ)かせしむ。

④己は、勝つ可に不(おお)いに在(と)わしめ、適(したが)わせしめて勝(まさ)る可に在るなり。
<語句の注>
・「不」は①②③④大いに、の意味。
・1つ目の「可」は①~できる、②③④長所、の意味。
・1つ目の「勝」は①持ち堪える、②③景色の優れた土地、④敵を打ち破る、の意味。
・1つ目の「在」は①依存する、②③位置する、④見舞う、の意味。
・「己」は①②③④自分、の意味。
・2つ目の「可」は①~できる、②③④長所、の意味。
・2つ目の「勝」は①戦いで負かす、②優れたさま、③持ち堪える、④越える、の意味。
・2つ目の「在」は①依存する、②観察する、③居場所、④依存する、の意味。
・「適」は①②敵、③至る、④順応する、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「不可勝在己、可勝在敵。」と「適」を「敵」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「不いに勝える可き」は、其四1-1①「不いに勝える可き為」の「大いに戦争に持ち堪えられる準備」と同意と考察し、「大いに戦争に持ち堪えられる準備」と解読。

・「己」の“自分”は、謀攻篇後半三句の流れから将軍について説くと推察して「将軍」と解読。②③④も同様に解読。

・「勝つ可き」は、其四1-1①「適の勝つ可きに之くに」の「敵国が戦争で負かすことができる状態に変わった時」と同意と考察し、「敵国が戦争で負かすことができる状態に変わる時」と解読。

<②について>
・1つ目の「勝」の“景色の優れた土地”は、自軍が利点を得て優勢になるから優れた景色に見えるのだと解釈し、「自軍が優勢になる戦地」と解読。③も同様に解読。

・「自軍が優勢になる戦地に布陣することを大いに利点とする」は、地刑篇で説かれている「戦地の型」を利用することを指すと推察する。

<③について>
・1つ目の「可」の“長所”は、②2つ目の「可」の「(敵軍の)優れた長所」を指すと解読。

・「可たる在に適かせしむ」の直訳は“長所である居場所に至らせる”となる。この文意から推察すると、其三5-3②「多人数部隊は、孤立させる敵部隊を識別して、敵軍の攻撃を持ち堪える戦術に力を尽くすのである」、其三5-3③「少人数部隊は、孤立させた敵部隊を打ち破って自軍に寝返らせる戦術を覚え、自軍の兵士数を増やすのである」を指すことがわかる。また、前者は正攻法部隊であり、後者は奇策部隊である。
つまり、直前にある「敵軍に優れた長所があっても持ち堪える」軍隊は正攻法部隊であり、敵を至らせる“長所である居場所”とは奇策部隊が隠れている場所となる。結果、奇策の戦術とわかるように「奇策部隊が隠れている場所に誘導する」と解読。

<④について>
・「勝つ可」の直訳は“敵を打ち破る長所”となる。この“長所”は、③2つ目の「可」の「奇策部隊」と同意と考察し、解読。また、“敵”とは③「奇策部隊が隠れている場所に誘導する」で誘導してきた敵であり、奇策部隊が攻め取る相手と考察。結果、話の流れに合わせて「誘導してきた敵を打ち破った奇策部隊」と解読。

・1つ目の「在」の“見舞う”の相手は、奇策部隊が打ち破って攻め取った敵兵と考察し、「攻め取った敵兵」と補った。

・2つ目の「勝」の“越える”は、奇正の戦術によって自軍の兵士数を増やす記述であるため、自軍の兵士数が敵軍を越えることと解釈できる。結果、「敵軍よりも兵士数を増やす」と解読。

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