能の千里に行くも畏れること不きは、无人の地に行けばなり。

其六2-1

能行千里而不畏、行无人之地也。

néng xíng qiān lǐ ér bù wèi、xíng wú rén zhī dì yĕ。

解読文

①有能な将軍が千里先に赴いても、恐ろしい目に合わない理由は、敵軍が存在しない場所に流れていくからである。

②千里先に赴くことができても、大いに恐ろしい目に合う理由は、敵軍から離れていくことを蔑ろにして戦地に至るからである。

③むしろ将軍は必ず敵里に赴いた方が良い。大いに敬服すれば、ほどなく、この敵里の人民に自軍を無視させるのである。

④将軍が敵里の人民を怖がらせることが無ければ、非常に数多くの里を運行できるのであり、自軍が非常に数多くの里を運行しても敵軍には侮らせて戦地に到達するのである。
書き下し文
①能の千里に行くも畏(おそ)れること不(な)きは、无人(むじん)の地に行けばなり。

②能(よ)く千里に行くも不(おお)いに畏(おそ)れるは、人より行くこと无(なみ)して地に之(いた)ればなり。

③能(むし)ろ而(なんじ)は千に里に行くなり。不(おお)いに畏(おそ)れば、行(ゆくゆく)、之の地の人に无(なみ)せしむなり。

④而(なんじ)の畏(おそ)れしむこと不(な)ければ、千なる里を能(よ)く行(めぐ)るなり、行(めぐ)るも人に无(なみ)せしめて地に之(いた)るなり。
<語句の注>
・「能」は①有能な人、②~することができる、③むしろ~した方が良い、④有能の人、の意味。
・1つ目の「行」は①②③赴く、④運行する、の意味。
・「千」は①②数の名、③必ず、④非常に数が多いさま、の意味。
・「里」は①②長さの単位、③④住民の集落、の意味。
・「而」は①②逆接の関係を表す接続詞、③④あなた、の意味。
・「不」は①②~しない、③大いに、④無い、の意味。
・「畏」は①②恐ろしい目に合う、③敬服する、④怖がる、の意味。
・2つ目の「行」は①流れる、②離れてゆく、③ほどなく、④運行する、の意味。
・「无」は①存在しない、②蔑ろにする(「無」より)、③無視する(「無」より)、④軽んずる(「無」より)、の意味。
・「人」は①②ある人、③民衆、④ある人、の意味。
・「之」は①助詞「の」、②ある地点や事情に達する、③代名詞、④ある地点や事情に達する、の意味。
・「地」は①其一2-5①「地」、②其一2-5②「地」、③其一2-5④「地」、④其一2-5②「地」、の意味。
・「也」は①因果関係を表す助詞、②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は「◇行千里而不畏、行无人之地也。」となり一字欠落。欠落箇所については、孫子(講談社)及び孫子(講談社)の原文より「能」を補った。また、孫子(講談社)の原文は「能行千里而不畏者、行无人之地也。」と「者」が入るが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「千里」は千里先の場所を指すと考察して「千里先」と解読。②も同様に解読。

・「无人」の直訳は“ある人が存在しない”となる。敵国への侵略において存在しない“ある人”は敵軍と推察し、「敵軍が存在しない」と解読。

<②について>
・「人」の“ある人”は、①「人」と同様に解釈して「敵軍」と解読。

・「无」は漢字「無」と同じと解釈。ここでは「無」の“蔑ろにする”意味を採用した。

<③について>
・「无」は漢字「無」と同じと解釈。ここでは「無」の“無視する”意味を採用した。

・「地」は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」を指すと考察。話の流れに合わせて「之の地」で「この敵里」と解読。

<④について>
・「畏れしむこと不し」の“怖がらせることが無い”は、③「敵里の人民に自軍を無視させる」を実現する要因と考察。そのため、「敵里の人民に」と補った。

・2つ目の「行」の“運行する”は、1つ目の「行」の「非常に数多くの里を運行できる」の意味を積み上げていると考察し、「自軍が非常に数多くの里を運行する」と補って解読。

・「人」の“ある人”は、①②「人」と同意と考察し、「敵軍」と解読。

・「无」は漢字「無」と同じと解釈。ここでは「無」の“軽んずる”意味を採用した。

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