斥の沢を絶るに、留まること無く、惟れ亟やかに去る。

其九1-8

絶斥澤、惟亟去無留。

jué chì zé、wéi jí qù wú liú。

解読文

①乾燥地にある塩分濃度の高い地下水が溜まった窪地や塩湖を横切る時は、残り続けること無く、急いで離れるのである。

②乾燥地にある塩分濃度の高い地下水が溜まった窪地や塩湖に残り続けて離れることが無く、乾燥地で度々水分を与えれば兵士達はただ死ぬばかりである。

③乾燥地で度々水分を与える将軍は、死ぬ兵士が多ければ危険が差し迫っていると考えるが、兵士達が死ぬことを蔑ろにして今まで通りにして変えないのである。

④乾燥地で度々水分を与える将軍が存在して危険が差し迫ると考えれば、非常に優れた将軍が糾弾するのであり、軍隊から離れさせて今まで通りのやり方を変えさせるのである。
書き下し文
①斥(せき)の沢(たく)を絶(わた)るに、留まること無く、惟(こ)れ亟(すみ)やかに去る。

②留まりて去ること無く、斥(せき)に亟(しばしば)沢(うるお)せば惟(た)だ絶えるのみなり。

③沢(うるお)すものは、絶えるもの斥(せき)たれば亟(きょく)たりと惟(おも)うも、去ること無(なみ)して留まるなり。

④沢(うるお)すものありて亟(きょく)たりと惟(おも)えば絶なるもの斥(せき)するなり、去らしめて留まること無けしむなり。
<語句の注>
・「絶」は①道などを横切る、②③死ぬ、④非常に優れたさま、の意味。
・「斥」は①②塩辛い土地、③多い、④糾弾する、の意味。
・「沢」は①水の溜まった窪地、②③④水分を与える、の意味。
・「惟」は①~である、②わずかに~ばかり、③④考える、の意味。
・「亟」は①急いで、②たびたび、③④危険が差し迫ったさま、の意味。
・「去」は①②離れる、③死ぬ、④離れる、の意味。
・「無」は①②無い、③蔑ろにする、④無い、の意味。
・「留」は①②残り続ける、③④今まで通りにして変えない、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「斥」の “塩辛い土地”は、「『乾燥地における塩類集積の脅威と対策』鳥取大学 乾燥地研究センター 特任教授 北村義信」で記述された「可溶性塩類を多く含む母岩が風化して形成された土壌が存在する地域」に該当すると考察。結果、「乾燥地」と解読。②も同様に解読。

・「沢」の“水の溜まった窪地”は、「『乾燥地における塩類集積の脅威と対策』鳥取大学 乾燥地研究センター 特任教授 北村義信」で記述された「塩類濃度の高い地下水が地表面近くに存在するような乾燥地」及び、「“エコナビ” 砂漠の水害-シーワ・オアシス編-オアシスの水害」で記述された「水が豊富なシーワなのですが、その水が最近オアシスの環境問題を引き起こしています。地下から湧き出た淡水は、いったん地表に出ると排水路がないため窪地に溜まり、長い歳月をかけてミネラルを多く含んだ塩湖になります」の記述に基づけば、「塩分濃度の高い地下水が溜まった窪地や塩湖」と解読できる。

<②について>
・「留」の“残り続ける”は、①「乾燥地にある塩分濃度の高い地下水が溜まった窪地や塩湖を横切る時は、残り続けること無く、急いで離れるのである」の意味を積み上げていると考察。結果、「乾燥地にある塩分濃度の高い地下水が溜まった窪地や塩湖に残り続ける」と解読。

<③について>
・「沢」の“水分を与える”は、②「乾燥地で度々水分を与えれば兵士達はただ死ぬばかりである」の意味を積み上げていると考察。結果、「沢すもの」で「乾燥地で度々水分を与える将軍」と補って解読。④も同様に解読。

<④について>
・「去」の“離れる”は、「乾燥地で度々水分を与える将軍」を解任して軍隊から離れさせることと考察。結果、使役形で「軍隊から離れさせる」と解読。

・「留まること無けしむ」は“今まで通りにして変えさせない”の否定であり、“今まで通りのやり方を変えさせる”と解釈できる。結果、「今まで通りのやり方を変えさせる」と解読。

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