之に遠くする吾は、敵は之に近づかしむなり。吾は之に迎えるなり、敵を倍して之るなり。

其九3-2

吾遠之、敵近之。吾迎之、敵倍之。

wú yuǎn zhī、dí jìn zhī。wú yíng zhī、dí bèi zhī。

解読文

①渓谷にある集落から遠く離れた自軍は、敵軍をその集落に接近させるのである。自軍が敵軍をその集落に連れて来るのであり、敵軍に背を向けた状態で集落に到達するのである。

②集落から遠く離れた自軍は防御することで敵軍を近づかせないのであり、集落に接近した敵軍から浅はかな敵兵が出現すれば災いを起こすのである。未来を予測する将軍は、浅はかな敵兵が出現した時、武力で攻め取る奇策部隊に背を向けさせるのである。

③自軍が防御すれば逃亡する敵兵達が出現して災いを起こす浅はかな敵兵となるのであり、その敵兵達が集落の人民達と親しくしようとしても歯向かわれるのである。浅はかな敵兵が防御することを逆算する奇策部隊は、浅はかな敵兵が人民達から離れた時に攻撃するのである。

④遠方の国から防御した敵軍が来襲した時は、敵将軍の寵愛する者を利用するのである。出向いて迎撃する自軍が、敵将軍の寵愛する者を攻撃すれば、逃亡する敵兵達を増やすのである。
書き下し文
①之に遠くする吾は、敵は之に近づかしむなり。吾は之に迎えるなり、敵を倍(はい)して之(いた)るなり。

②之は吾(ふせ)ぎて遠(とお)ざけしむなり、之より近(きん)あれば敵なり。迎える吾は、之あるに、敵する之に倍(そむ)かしむなり。

③吾(ふせ)げば遠ざかる之ありて之たるなり、近づかんとするも敵されるなり。之の吾(ふせ)ぐこと迎える之は、倍(そむ)くに敵するなり。

④遠より吾(ふせ)ぐもの之(いた)るに、敵の近づくもの之(もち)いるなり。迎える吾の之を敵すれば、之を倍(ま)すなり。
<語句の注>
・1つ目の「吾」は①我々、②③④防御する、の意味。
・「遠」は①隔たりが大きい、②近づかない、③避ける、④遠方の国、の意味。
・1つ目の「之」は①②代名詞、③彼ら、④ある地点や事情に達する、の意味。
・1つ目の「敵」は①戦争や競争で対抗する相手、②災いをなすもの、③歯向かう、④戦争や競争で対抗する相手、の意味。
・「近」は①接近する、②浅はかな人、③親しむ、④寵愛する、の意味。
・2つ目の「之」は①②③代名詞、④使う、の意味。
・2つ目の「吾」は①我々、②私、③防御する、④我々、の意味。
・「迎」は①迎えて連れて来る、②未来を予測する、③逆算する、④出迎える、の意味。
・3つ目の「之」は①②③④代名詞、の意味。
・2つ目の「敵」は①戦争や競争で対抗する相手、②③④攻撃する、の意味。
・「倍」は①②背にする、③外れる、④増やす、の意味。
・4つ目の「之」は①ある地点や事情に達する、②彼ら、③④代名詞、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「吾遠之、敵近之。吾迎之、敵背之。」と「倍」を「背」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目の「之」は、其九3-1③④「井」の「渓谷にある集落」を指示する代名詞と解読。

・「遠」の“隔たりが大きい”は、集落から自軍が遠く離れることと考察。結果、「遠く離れる」と解読。

・2つ目と3つ目の「之」は、1つ目の「之」同様に「渓谷にある集落」と解釈できるが、繰り返しによって冗長にならないように「その集落」と解読した。

<②について>
・1つ目の「之」は、①1つ目の「吾」の「渓谷にある集落から遠く離れた自軍」を指示する代名詞と解釈。結果、「集落から遠く離れた自軍」と解読。

・2つ目の「之」は、①1つ目の「敵」の「敵軍」を指示する代名詞と考察。この敵軍は集落に接近させた状況であることを踏まえて、「集落に接近した敵軍」と解読。

・3つ目の「之」は、「近」の「浅はかな敵兵」を指示する代名詞と解読。

・「敵する之」の直訳は“攻撃する彼ら”となる。これは“攻撃”という表現より、獲物となった「浅はかな敵兵」を武力で攻め取る奇策部隊を指すと考察できる。結果、「武力で攻め取る奇策部隊」と解読した。

<③について>
・「遠ざかる之」の直訳は“避ける彼ら”となる。これは、話の流れより其四2-1②「大いに防御して軍隊の勢いを盛大にして敵軍に向き合えば、既に滅ぼされた状態となった敵軍に自軍と対峙させることを巧みにこなすのである」に関連すると解釈できる。敵軍を既に滅ぼされた状態に追い込む“避ける彼ら”とは、敵兵達が逃亡することと考察し、「逃亡する敵兵達」と解読した。

・2つ目の「之」は、②「近」の「浅はかな敵兵」を指示する代名詞と考察。この浅はかな敵兵は、例えば其九3-1③「穴蔵に貯蔵された生活必需品や自然に発生した野生稲を切り取り、鞭打つ処罰等を行えば、集落の人民達を窮地に追い込んでわだかまりが生じる」に該当する行為があって、②「災いを起こす」のだと解釈できる。結果、「災いを起こす浅はかな敵兵」と補って解読。

・3つ目の「之」は、②「近」の「浅はかな敵兵」を指示する代名詞と解読。

・4つ目の「之」は、②4つ目の「之」の「武力で攻め取る奇策部隊」を指示する代名詞と考察。ここでは簡潔に「奇策部隊」と解読。

・「倍」の“外れる”は、「浅はかな敵兵」が防御として対抗する時、集落の人民達に危害が及ばない配慮と考察。つまり、人民達から離れることと解釈できるため、「浅はかな敵兵が人民達から離れる」と補って解読。

<④について>
・「吾ぐもの」の直訳は“防御する者”となる。遠方の国から来ているため、「防御した敵軍」と解読できる。

・「迎」の“出迎える”は、自軍から敵軍に向かっていく行為と解釈できる。結果、「出向いて迎撃する」と解読。

・3つ目の「之」は、「近」の「敵将軍の寵愛する者」を指示する代名詞と解読。

・4つ目の「之」は、③1つ目の「之」の「逃亡する敵兵達」を指示する代名詞と解読。

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