諄諄たりて閒閒として、徐して人ごとに言う者あるは、其の失う者の衆くすればなり。

其九4-24

諄諄閒閒、徐言人者、失其衆者也。

zhūn zhūn xián xián、xú yán rén zhě、shī qí zhòng zhě yĕ。

解読文

①心を込めて飽きることなく丁寧に教えて、時間をかけてゆとりある心持ちの様子で、ゆっくり歩きながら兵士達に何かを説いている者が出現する理由は、敵軍において離脱する兵士達の人数が増えているからである。

②軍と兵士の関係について心を込めて教えて、離脱したい気持ちが治まるように働きかけて、穏やかに兵士達に誓うことは、多分、過去に犯したあらゆる過ちを見逃すことである。

③しばらくの間、心を込めて教えて働きかけても、やがて、どうでもよくなって兵士達に告げることは、多分、数多くの我慢できない事柄である。

④心を込めて教えて離脱しないように働きかけても仲違いして無駄になれば、そろそろと自軍から告げることは、敵軍から離反しようとする兵士が沢山存在していることである。

⑤自軍と敵軍の違いについて心を込めて教えてこっそり支援して、自軍の将軍には思いやりがあることを知らせて安らかにさせれば、敵軍から離反しようとする兵士の人数を増やすのである。

⑥しばらくの間支援して、逃亡する時期について心を込めて教えるのであり、やがて離反しようとする兵士達に号令をかければ、多くの兵士達が敵軍から消えるのである。

⑦離反した兵士達を敵軍からそろそろと遠ざけて関係の断絶を手伝えば、離反したその兵士達が敵に関するあらゆる事柄を自軍に告げる時、飽きることなく教え続ける存在となるのである。

⑧敵軍から離反した兵士達が間者になって習熟すれば、やがて敵の群臣にしくじらせる情報を将軍に告げるのであり、心を込めて教えて将軍を助けてくれる存在となるのである。
書き下し文
①諄諄(じゅんじゅん)たりて閒閒(かんかん)として、徐(じょ)して人ごとに言(い)う者あるは、其の失(うしな)う者の衆(おお)くすればなり。

②閒(あいだ)を諄(じゅん)たりて閒(い)ゆこと諄(じゅん)し、徐(しず)かに人ごとに言(い)うことは、其れ衆を失うことなり。

③閒(しば)し諄(じゅん)たりて諄(じゅん)するも、徐(おもむ)ろに閒(へだ)てて人ごとに言(い)うことは、其れ衆(おお)き失することなり。

④諄(じゅん)たりて諄(じゅん)するも閒(ひま)たりて閒(かん)ならば、徐(おもむ)ろに人の言(い)うことは、其の失(そむ)かんとする者の衆(おお)くあるなり。

⑤間(へだ)て諄(じゅん)たりて間(ひそ)かに諄(じゅん)して、人(じん)あること言いて徐(しず)かしめば、其の失(そむ)かんとする者を衆(おお)くするなり。

⑥間(しば)し諄(じゅん)して間(かん)を諄(じゅん)たるなり、徐(おもむ)ろに人に言(げん)すれば、其の衆(おお)き者は失(う)すなり。

⑦徐(おもむ)ろに間(へだ)てて間(ひま)なること諄(じゅん)すれば、失(そむ)く者の其の衆を人に言うに諄(じゅん)なる者たるなり。

⑧間たりて間(な)れれば、徐(おもむ)ろに其の衆に失わしむこと人に言うなり、諄(じゅん)たりて諄(じゅん)する者たるなり。
<語句の注>
・1つ目の「諄」は①心を込めて教えるさま、②補佐する、③④心を込めて教えるさま、⑤⑥補佐する、⑦教えて飽きないさま、⑧助ける、の意味。
・2つ目の「諄」は①教えて飽きないさま、②心を込めて教えるさま、③④補佐する、⑤⑥心を込めて教えるさま、⑦補佐する、⑧心を込めて教えるさま、の意味。
・1つ目の「間」は①暇なさま、②二者の関係、③しばらくの間、④仲違い、⑤差異、⑥しばらくの間、⑦人の間の断絶、⑧習熟する、の意味。
・2つ目の「間」は①ゆとりがあるさま、②病気が治る、③どうでもよいさま、④無駄なさま、⑤こっそりと、⑥時期、⑦遠ざける、⑧スパイ、の意味。
・「徐」は①ゆっくり歩く、②穏やかなさま、③やがて、④そろそろと、⑤安らかなさま、⑥やがて、⑦そろそろと、⑧やがて、の意味。
・「言」は①(文献等に・・・と)説いている、②誓う、③④告げる、⑤知らせる、⑥号令、⑦⑧告げる、の意味。
・「人」は①②③人々に、④自分、⑤思いやり、⑥特定の人、⑦自分、⑧優れた人物、の意味。
・1つ目の「者」は①助詞「もの」、②③④助詞「こと」、⑤⑥仮定表現の助詞、⑦助詞「もの」、⑧助詞「こと」、の意味。
・「失」は①手放してしまう、②見逃す、③がまんできない、④⑤離背する、⑥消える、⑦離背する、⑧しくじる、の意味。
・「其」は①敵の代名詞、②③たぶん、④⑤⑥⑦⑧敵の代名詞、の意味。
・「衆」は①数を増やす、②あらゆる事柄、③④数が多い、⑤数を増やす、⑥多くの人々、⑦あらゆる事柄、⑧群臣、の意味。
・2つ目の「者」は①助詞「もの」、②③助詞「こと」、④⑤⑥⑦⑧助詞「もの」、の意味。
・「也」は①因果関係を表す助詞、②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は「◇◇閒閒、徐言人者、失其衆者也。」と二字欠落している。孫子(講談社)の原文は「◇◇閒閒、徐言人者、失其衆者也。」、新訂孫子(岩波)の原文は「諄諄翕翕、徐與人言者、失衆也。」とすることに従い、欠落二字は「諄諄」を採用した。
・この句には、八通りの書き下し文と解読文がある。①~⑧と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・「諄諄」はそれぞれ“心を込めて教えるさま”と“教えて飽きないさま”の意味を採用し、「ゆっくり歩きながら兵士達に何かを説いている者」の様子を表現していると考察。結果、「心を込めて飽きることなく丁寧に教える」と解読。

・「閒閒」はそれぞれ“暇なさま”と“ゆとりがあるさま”の意味を採用。“暇なさま”は時間を費やしている意味と解釈、“ゆとりがあるさま”は「ゆっくり歩きながら兵士達に何かを説いている者」の心持ちと解釈すれば、「時間をかけてゆとりある心持ちの様子」と解読できる。

・「言」の“(文献等に・・・と)説いている”は、遠くから敵軍を観察している場面と推察すれば、その内容ははっきりわからない。結果、「何かを説いている」と補って解読。

・「其の失う者」は直訳すると“敵が手放してしまう者”となる。これは敵軍が兵士達を手放してしまう状況を指すと考察。結果、「敵軍から離脱する兵士達」と解読。つまり、敵軍から離脱する兵士が増えており、これ以上離脱させないために説得している場面だと考察できる。

<②について>
・1つ目の「間」の“二者の関係”の“二者”は、①「敵軍において離脱する兵士達の人数が増えている」から敵軍と敵兵と推察できるが、①「ゆっくり歩きながら兵士達に何かを説いている」の“何か”に該当すると考察し、一般的な内容として「軍と兵士」に解読。

・2つ目の「間」の“病気が治る”の“病気”とは、兵士の離脱したい“病んだ”気持ちと解釈して「離脱したい気持ちを治める」と解読。

・1つ目の「諄」の“補佐する”は、文意に合わせて「働きかける」と解読した。

・「衆を失う」の直訳は“あらゆる事柄を見逃す”となる。これは、離脱する兵士達の人数を減らしたい敵軍の状況から推察すれば、過去に犯した過ち等を見逃すことと考察できる。結果、「過去に犯したあらゆる過ちを見逃す」と解読。
離脱したい気持ちの兵士達は、そもそも敵軍による統治方針、規律、待遇等に納得していない、又は、規律が厳しすぎてそもそも遵守しづらいために過ちを犯していると推察できる。もし、敵軍の統治方針、規律、待遇等に納得しており、過ちを犯しても自分の非を認めることができるならば、解読文①のように説く必要がない。そのため、過去に犯した過ちを見逃したところで根本的には何も解決していないと考察できる。

<③について>
・2つ目の「諄」の“補佐する”は、②1つ目の「諄」同様に「働きかける」と解読。

<④について>
・2つ目の「諄」の“補佐する”は、③同様に「働きかける」と解釈するが、①「敵軍において離脱する兵士達の人数が増えている」を回避したい目的を考慮し、「離脱しないように働きかける」と解読した。

・「自軍から告げることは、敵軍から離反しようとする兵士が沢山存在していること」は、この段階では離反して自軍に加わろうとしている者の有無は未知数のはずだが、離脱したい気持ちになっている敵兵に決心させやすくするために、他に離反する仲間が多いと錯覚させるのであり、欺きの一種と考察できる。

<⑤について>
・1つ目の「間」の“差異”は、離脱したがっている敵兵を自軍が説得する記述と解釈すれば自軍と敵軍の違いと考察できる。結果、「自軍と敵軍の違い」と解読。

・1つ目の「諄」の“補佐する”は、離脱したい敵兵が敵軍の待遇に不満を持っていると仮定すれば、食糧、物資、金品等を渡すことと解釈できる。結果、「支援する」と解読。⑥も同様に解読。

・「人」の“思いやり”は、其一2-6①「将とは、知あり、信あり、仁あり、勇あり、厳あるなり」の「仁」と同意であり、この“思いやり”は自軍の将軍が離脱したい敵兵に与えるものと解釈できる。結果、「人あること」で「自軍の将軍には思いやりがあること」と補って解読。

<⑥について>
・2つ目の「間」の“時期”は、話の流れより敵軍から離反しようとする兵士達が逃亡する時期と解釈できる。結果、「逃亡する時期」と補って解読。

・「人」の“特定の人”は、敵軍から離反しようとする兵士達を指すと考察。結果、「離反しようとする兵士達」と解読。

<⑦について>
・1つ目の「間」の“人の間の断絶”は、話の流れから離反した敵兵と敵軍との関係の断絶と解釈できる。結果、「関係の断絶」と解読。

・「徐ろに間てる」の直訳は“そろそろと遠ざける”だが、離反した敵兵と敵軍との関係の断絶を実現する意味合いをふくめるため、「離反した兵士達を敵軍からそろそろと遠ざける」と補って解読した。

・2つ目の「諄」の“補佐する”は、話の流れに合わせて「手伝う」と解読。

<⑧について>
・2つ目の「間」の“スパイ”は「間者」と解読。また、敵軍から離反した兵士達が「間者」になると考察。結果、「間たる」で「敵軍から離反した兵士達が間者になる」と補って解読。

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