其九4-25
數賞者、窘也。
shù shǎng zhě、jiŏng yĕ。
解読文
①敵の隊長が、度々、褒美を与えている理由は、敵軍が困難な状況に陥っているからである。 ②困難な状況に陥った敵の隊長は、褒美の品を一つひとつ挙げて兵士達に説明するのである。 ③しかし、褒美の金額を一つひとつ計算してみると、財貨が乏しくなりそうなのである。 ④財貨が乏しくなりそうになった敵の隊長は、褒美を与えないために、一つひとつの罪状を数え挙げて兵士達を責めることを尊重するのである。 ⑤優れた将軍は、困難な状況に陥れば、戦略、戦術を尊重するのである。 ⑥戦略、戦術の真価を認める将軍は、敵軍を困難な状況に追い込むのである。 ⑦自軍の将軍が、困難な状況に追い込まれていく敵軍を観賞している理由は、考えていた計画が実現していく必然性があるからである。 ⑧将軍が占いを尊重すれば、自軍が困難な状況に追い込まれるのである。 |
書き下し文
①数(しばしば)賞するは、窘(くる)しめばなり。 ②窘(くる)しむ者は賞を数えるなり。 ③賞を数えれば、窘(くる)しまんとするなり。 ④窘(くる)しまんとする者は、数(せ)めること賞(たっと)ぶなり。 ⑤窘(くる)しまば、数を賞(たっと)ぶなり。 ⑥数を賞(ほ)める者は、窘(くる)しめるなり。 ⑦窘(くる)しめらる者を賞するは、数あればなり。 ⑧数を賞(たっと)べば、窘(くる)しめらるなり。 |

<語句の注>
・「数」は①たびたび、②一つひとつ挙げて説明する、③一つひとつ計算する、④一つひとつの罪状を数え挙げて責める、⑤⑥策略、⑦必然性、⑧占い、の意味。 ・「賞」は①褒美を与える、②③褒美の品、④⑤尊重する、⑥真価を認める、⑦観賞する、⑧尊重する、の意味。 ・「者」は①因果関係「也」に対応した置き字、②助詞「もの」、③仮定表現の助詞、④助詞「もの」、⑤仮定表現の助詞、⑥助詞「もの」、⑦因果関係「也」に対応した置き字、⑧仮定表現の助詞、の意味。 ・「窘」は①②困難に合う、③④(生活や境遇が極まり)貧しい、⑤困難に合う、⑥⑦⑧困難な状況に追い込む、の意味。 ・「也」は①因果関係を表す助詞、②③④⑤⑥断定の語気、⑦因果関係を表す助詞、⑧断定の語気、の意味。 |
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する ・この句には、八通りの書き下し文と解読文がある。①~⑧と付番して、以下、それぞれについて解説する。 <①について> ・「賞」の“褒美を与える”は、その主語は軍隊を率いる将軍や隊長など地位の高い者であるとわかる。また、其九4-8「少而往來者、營軍者也」では副官が兵士の生計、又は軍の生計を管理すると記述されている。これらを踏まえて包括的に「敵の隊長」と主語を補った。 ・「窘」の“困難に合う”は、敵軍が困難に合う状況と考察。結果、「敵軍が困難な状況に陥っている」と補って解読。 <②について> ・特に無し。 <③について> ・解読文②では褒美を出し過ぎたことが発覚した前提の流れのため、冒頭で「しかし」と補った。 ・「賞」の“褒美の品”は、一つひとつ計算して褒美の支出額を計算していると考察できるため、「褒美の金額」と置き換えた。 ・「窘」の“(生活や境遇が極まり)貧しい”は、褒美の支出が多過ぎた結果と解釈。結果、未来形で「財貨が乏しくなりそうになる」と解読。④も同様に解読。 <④について> ・「数」の“一つひとつの罪状を数え挙げて責める”は、兵士達に提示した全ての褒美を与えてしまうと財貨が乏しくなるため、兵士達に褒美を与えない口実として過ちを挙げていくのだと考察。結果、「褒美を与えないために、一つひとつの罪状を数え挙げて兵士達を責める」と補って解読。なお、豪華な褒美を提示されたからこそ困難な状況であっても必死に頑張ったにも拘わらず、過ちだけ指摘されて褒美が貰えなければ、兵士達が反発することは想像に難くない。困難な状況において兵士達を奮起させる手段として過剰な褒美を提示するのは得策ではないと解釈できる。 <⑤について> ・解読文①②③④は優れていない将軍等を指し、解読文⑤⑥⑦は優れている将軍に関する記述に転換していると考察できる。結果、冒頭に「優れた将軍は」と補った。 ・「数」の“策略”は、ここでは具体的な内容がわからないため、戦略、戦術の両方を指すと包括的に解釈。結果、「戦略、戦術」と解読。⑥も同様に解読。 <⑥について> ・「窘」の“困難な状況に追い込む”は、敵軍を困難な状況に追い込むと考察。結果、「敵軍を困難な状況に追い込む」と補って解読。 <⑦について> ・「数」の“必然性”とは、其一6-1①「将来に戦争が起こりそうな時、将軍が朝廷で戦略、戦術の計画を立てて勝利を得る要因は、実現した計画が多いことにあるのである」と、其七6-4①「治して心なす者」の「合理的に行動して考えていた計画を実行する将軍」の教えを踏まえると、将軍の考えていた計画が確実に実現することと考察できる。結果、「数ある」で「考えていた計画が実現していく必然性がある」と補って解読。 ・「賞」の“観賞する”の主語は、戦略を考えた将軍と解釈できるため「自軍の将軍が」と補った。 <⑧について> ・「占いを尊重する」については、必然性の高い戦略との対比で最後に加えられた結論と解釈。古代中国では、占いで戦争に対する方針等を決めることが主流だったとされており、孫武の時代でも占いに頼る者が多かった可能性が高い。 |
