我は以いて往く可く、彼も以いて来る可ければ、通と曰う。

其十1-2

我可以往、彼可以來曰通。

wǒ kĕ yǐ wǎng、bǐ kĕ yǐ laí、yuē tōng。

解読文

①将軍は自軍を率いて敵軍のいる側に赴くことができ、敵将軍も敵軍を率いて自軍のいる側に到達できるならば、交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」と名付ける。

②交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」であれば、敵将軍が敵軍を率いて接近することを許した時、将軍は自軍を率いて逃亡できるのである。

③自軍が逃亡したに値すると敵将軍に考えさせれば、戦地の型「通」を通って行くと言うのであり、敵軍を誘導する利点があると考えるのである。

④敵軍を誘導する利点を使うことで引き寄せられた敵部隊が出現した時、将軍は奇策部隊に攻め取らせるのであり、その攻め取った敵兵達と向き合って地位や環境が良くなる内容を言うのである。
書き下し文
①我は以(ひき)いて往(ゆ)く可く、彼も以(ひき)いて来(く)る可ければ、通と曰う。

②通なれば、彼の以(ひき)いて来(きた)ること可(き)くに、曰(ここ)に我は以(ひき)いて往(ゆ)く可きなり。

③我は往(ゆ)く可しと以(おも)わしめば、通ると曰うなり、彼を来(きた)す可ありと以(おも)うなり。

④来(きた)す可を以(もち)いて往(む)かう彼あるに、我は以(な)すなり、可(あ)たりて通ずること曰うなり。
<語句の注>
・「我」は①②私、③自分の側、④私、の意味。
・1つ目の「可」は①②~できる、③~に値する、④向き合う、の意味。
・1つ目の「以」は①②~を率いて、③考える、④事を行う、の意味。
・「往」は①赴く、②③逃亡する、④引きつけられる、の意味。
・「彼」は①②彼、③彼ら、④彼ら、の意味。
・2つ目の「可」は①~できる、②許す、③④長所、の意味。
・2つ目の「以」は①②~を率いて、③考える、④使用する、の意味。
・「来」は①向こう側からこちら側に着く、②近くに及ぶ、③④招く、の意味。
・「曰」は①~と名付ける、②語気の強調、③④~と言う、の意味。
・「通」は①②往来する、交通が開けたさま、③通って行く、④地位や環境が良くなる、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「我」の“私”は、自軍を率いる将軍と考察。結果、「将軍」と解読。②④も同様に解読。

・1つ目の「以」の“~を率いて”は、将軍が自軍を率いることと考察。結果、「自軍を率いて」と補って解読。②も同様に解読。

・「往」の“赴く”は、「来」を「自軍のいる側に到達する」と解読することから類推すれば、自軍のいる側から敵軍のいる側に赴くことと考察できる。結果、「敵軍のいる側に赴く」と補って解読。

・「彼」の“彼”は、話の流れより敵軍を率いる敵将軍を指すと考察。結果、「敵将軍」と解読。②も同様に解読。

・2つ目の「以」の“~を率いて”は、敵将軍が敵軍を率いることと考察。結果、「敵軍を率いて」と補って解読。②も同様に解読。

・「来」の“向こう側からこちら側に着く”は、敵軍から自軍のいる側に到達することと考察。結果、「自軍のいる側に到達する」と補って解読。

・「通」は、其十1-1①「通」で記述された「交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」がある」の意味を積み上げていると考察。結果、「通」で「交通が開けて往来しやすい戦地の型「通」」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・特に無し。

<③について>
・「我」の“自分の側”は軍隊における“自分の側”と考察、②「将軍は自軍を率いて逃亡できる」に基づいて「自軍」と解読。

・1つ目の「以」の“考える”は、敵将軍に自軍が逃亡したと考えさせることと考察。結果、使役形で「敵将軍に考えさせる」と補って解読。

・「通」の“通って行く”は、戦地の型「通」を通って行くことと考察。結果、「戦地の型「通」を通って行く」と補って解読。

・「彼」の“彼ら”は、②「敵将軍が敵軍を率いて接近する」に基づいて「敵軍」と解読。

・「来」の“招く”は、自軍が逃亡したと敵将軍に考えさせたことによって、無人になったと思い込ませた戦地の型「通」に敵軍を誘い込むことと考察できる。結果、「誘導する」と解読。

<④について>
・「来」の“招く”は、③「来」の「敵軍を誘導する」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵軍を誘導する」と解読。

・「彼」の“彼ら”は、②「彼」同様に「敵軍」とも解釈し得るが、ここでは奇策部隊に攻め取られる文意と解釈するのが適当と推察。そこで其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」に該当すると考察。結果、話の流れに合わせて「敵部隊」と簡潔に解読。

・1つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、話の流れを踏まえれば、引き寄せられた敵部隊を奇策部隊に攻め取らせることと考察できる。結果、「奇策部隊に攻め取らせる」と解読。

・1つ目の「可」の“向き合う”は、奇策部隊が攻め取った敵兵達と対話するために向き合うと解釈。結果、話の流れに合わせて「その攻め取った敵兵達と向き合う」と解読。

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