支に刑る者は、敵の我を利すると雖も、我を出でしむこと無きなり。

其十1-7

支刑者、敵雖利我、我無出也。

zhī xíng zhě、dí suī lì wǒ、wǒ wú chū yĕ。

解読文

①枝分かれして敵軍を分断できる戦地の型「支」をお手本にする将軍は、たとえ敵軍が自軍に対しておとり部隊を使って誘ったとしても、しかしながら自軍を分断することは無いだろう。

②敵軍がただおとり部隊を使って誘うにすぎなければ、戦地の型「支」で自軍を整え治める将軍は、我を張ること無く、策を立てるのである。

③策を立てることを蔑ろにして自説にしがみつけば、敵軍がただおとり部隊を使って誘うにすぎなくても、自軍を分断して兵士達を死なせる将軍である。

④策を立てる将軍は、敵軍に自軍を侮らせて自説にしがみつかせるのである。巡り合わせ良く自軍のおとり部隊を出現させれば、敵軍からおとり部隊が出現していたとしても、しかしながら、そのおとり部隊を分断することに成功するだろう。
書き下し文
①支(し)に刑(のっと)る者は、敵の我を利すると雖(いえど)も、我を出(い)でしむこと無きなり。

②敵の雖(た)だ利するのみならば、支(し)に我を刑(おさ)める者は、我すること無く、出(いだ)すなり。

③出(いだ)すこと無(なみ)して我すれば、敵の雖(た)だ利するのみも、我を支(わ)かちて刑す者なり。

④出(いだ)す者は、無(なみ)せしめて我せしむなり。利(よろ)しく我あらしめば、敵ありと雖(いえど)も、支(わ)かつこと刑(な)るなり。
<語句の注>
・「支」は①②枝、ばらばらに分ける、③④ばらばらに分ける、の意味。
・「刑」は①手本にする、②整え治める、③殺す、④成功する、の意味。
・「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「敵」は①②③④戦争や競争で対抗する相手、の意味。
・「雖」は①たとえAであったとしても、しかしながらBであろう、②③ただ~にしかすぎない、④たとえAであったとしても、しかしながらBであろう、の意味。
・「利」は①②③利益で誘う、④巡り合わせが良い、の意味。
・1つ目の「我」は①②③④自分の側、の意味。
・2つ目の「我」は①自分の側、②我を張る、③④自らを正しいとする、の意味。
・「無」は①②無い、③蔑ろにする、④軽んずる、の意味。
・「出」は①離れる、②③④策を立てる、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。なお、「刑篇」同様に「形」は「刑」と置き換えた。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「支」は、其十1-1①「支」で記述された「枝分かれして敵軍を分断できる戦地の型「支」がある」の意味を積み上げていると考察。結果、「支」で「枝分かれして敵軍を分断できる戦地の型「支」」と解読。

・1つ目と2つ目の「我」の“自分の側”は、軍隊における“自分の側”と考察し、「自軍」と解読。

・「利」の“利益で誘う”は、其十1-6③2つ目の「」同様に解釈して「おとり部隊を使って誘う」と解読。②③も同様に解読。

・「出」の“離れる”は、軍隊を分断することと考察。結果、使役形で「分断する」と解読。

<②について>
・1つ目の「我」の“自分の側”は、軍隊における“自分の側”と考察し、「自軍」と解読。③も同様に解読。

・「支」は、①「支」同様に「枝分かれして敵軍を分断できる戦地の型「支」」と考察。但し、ここでは冗長にならないように「戦地の型「支」」と簡潔に解読。

<③について>
・2つ目の「我」の“自らを正しいとする”は、「必」の“自説にしがみつく”と同意と考察。結果、「自説にしがみつく」と解読。④も同様に解読。

・「支」の“ばらばらに分ける”は、軍隊を分断することと考察。結果、「分断する」と解読。

・「刑」の“殺す”は、話の流れより分断した自軍の兵士達を死なせることと考察。結果、「兵士達を死なせる」と補って解読。

<④について>
・「無」の“軽んずる”は、敵軍に自軍を侮らせることと考察。結果、使役形で「敵軍に自軍を侮らせる」と補って解読。

・1つ目の「我」の“自分の側”は、其十1-6②「我」の「おとり部隊」を指すと考察。結果、「自軍のおとり部隊」と解読。

・「敵」の“戦争や競争で対抗する相手”は、②「敵」で記述された「敵軍がただおとり部隊を使って誘うにすぎない」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵あり」で「敵軍からおとり部隊が出現している」と解読

・「支」の“ばらばらに分ける”は、③「支」同様に「分断する」と解釈できる。話の流れを踏まえると分断させる相手は、敵軍のおとり部隊だと推察できる。つまり、自軍のおとり部隊を使って、敵軍のおとり部隊を誘導して分断させることとなる。結果、「そのおとり部隊を分断する」と補って解読。

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