我は以いて往く可くも、彼も以いて来る可ければ、交と為す。

其十一1-5

我可以往、彼可以來者、爲交。

wǒ kĕ yǐ wǎng、bǐ kĕ yǐ laí zhě、wéi jiāo。

解読文

①自軍を率いて他国に行くことができるが、他国の諸侯も軍隊を率いて自軍が侵略中の敵国に来ることができれば、他国と行き来しやすく諸侯と同盟を取り交わす戦地「交地」と言える。

②他国の諸侯が軍隊を率いて近くまで来ることを許したのであれば、関心を引き付けられた将軍は軍隊を率いて対峙して、両将軍は互いに次の一手を考えるのである。

③将軍は過去の戦争事例から大いに戦況が一致する事例を採用するのであり、その諸侯の将軍が未来に採用する戦術を推定して、切羽詰まらせることができるのである。

④未来を考えた時にその諸侯を利点と見なすならば、戦争を終える時、将軍は贈呈して同盟を取り交わすことに同意させるのである。
書き下し文
①我は以(ひき)いて往く可くも、彼も以(ひき)いて来(きた)る可ければ、交と為(な)す。

②彼の以(ひき)いて来るを可(き)けば、往(む)かう我は以(ひき)いて可(あ)たりて、交(こもごも)為(な)るなり。

③我は往(いにしえ)より可(よ)きを以(もち)いるなり、彼の来(らい)に以(もち)いることを爲(な)して、交(こう)たらしむ可きなり。

④来(らい)を以(おも)うに彼を可と為(な)せば、以(や)むに、我は往(おく)りて交(か)うに可(き)かしむなり。
<語句の注>
・「我」は①自分の側、②③④私、の意味。
・1つ目の「可」は①~できる、②対する、③適合するさま、④同意する、の意味。
・1つ目の「以」は①②~を率いて、③採用する、④終える、の意味。
・「往」は①赴く、②ひきつけられる、③過去のできごと、④贈呈する、の意味。
・「彼」は①②③④彼、の意味。
・2つ目の「可」は①~できる、②許す、③~できる、④長所、の意味。
・2つ目の「以」は①②~を率いて、③採用する、④考える、の意味。
・「来」は①むこう側からこちら側に着く、②近くに及ぶ、③④未来、の意味。
・「者」は①②仮定表現の助詞、③助詞「こと」、④仮定表現の助詞、の意味。
・「為」は①~と言える、②考える、③推定する、④見なす、の意味。
・「交」は①其十一1-1①「交」、②互いに、③切羽詰まったさま、④取り交わす、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・「我」の“自分の側”は、軍隊における“自分の側”と考察し、「自軍」と解読。②④も同様に解読。

・「往」の“赴く”は、「交地」に他国の諸侯を援軍として連れてくる役割があることを踏まえると、軍隊を率いて(敵国ではない)他国の諸侯に赴くことと解釈できる。結果、「他国に行く」と解読。

・「彼」の“彼”は、「他国に行く」との対比を考慮すると他国の諸侯が率いる軍隊と考察できる。結果、「他国の諸侯」と解読。②も同様に解読。

・「来」の“むこう側からこちら側に着く”は、「他国の諸侯」が軍隊を率いて自軍が侵略した敵国に進軍してくることと考察できる。結果、「自軍が侵略中の敵国に来る」と解読した。

<②について>
・「往かう我」の直訳は“ひきつけられた私”となる。これは近くまで来た諸侯の軍隊に関心を向けることと考察。結果、「関心を引き付けられた将軍」と解読。

・「交(こもごも)為る」の直訳は“互いに考える”となる。両軍が対峙した状態で戦略、戦術を考えていると推察できるため、「両将軍は互いに次の一手を考える」と解読。

<③について>
・「往より可きを以いる」の直訳は“過去の出来事から適合したものを採用する”となる。“過去の出来事”は、其九5-1④「将軍は大いに戦況が一致する過去の戦争事例から未来を予測するうえに、さらに過去の勝ち戦を大いに鑑定し、その勝ち戦を恭しく細部まで再現することを決行する」の「過去の戦争事例」と指すと考察すれば、“適合したもの”は大いに戦況が一致する事例“と解釈できる。結果、「過去の戦争事例から大いに戦況が一致する事例を採用する」と解読できる。

・「彼」の“彼”は、①②「他国の諸侯」が率いる軍隊の将軍を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「その諸侯の将軍」と解読。

<④について>
・「彼」の“彼”は、①②「彼」の「他国の諸侯」と同意だが、話の流れに合わせて「その諸侯」と解読。

・1つ目の「以」の“終える”は、来襲した諸侯との敵対関係を終えることであるため、「戦争を終える」と補って解読。

・「交うに可かしむ」の直訳は“取り交わすことに同意させる”となる。これは、その諸侯を利点と見なした結果であるため、其十一1-4④「自軍が権勢を生じた時、戦うことなく相手を抑えつけて完全な状態に保てる道理を実現するのであり、敵将軍に直言して敵国を自国の配下に置いた将軍は、敵国と徳のある敵将軍も同じく、次の侵略戦争において、敵軍の進路を妨害して陣地にする敵里に直進する戦略に協力してもらうのである」を想定して同盟を取り交わすことと考察。結果、「同盟を取り交わすことに同意させる」と補って解読。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。