諸なる侯の地の三属まりて、先んじて至れば而ち得て天を下す衆に之けば、瞿と為す。

其十一1-6

諸侯之地三屬、先至而得天下之衆者、為瞿。

zhū hoú zhī dì sān shǔ、xiān zhì ér deǐ tiān xià zhī zhòng zhě、wéi jué。

解読文

①異なる爵位を持った士大夫が治める敵里等が三つ集合しており、敵軍より先制して到達すれば、その敵里等を手に入れて敵国を攻め落とす自国の軍隊に変わるならば、分岐していて陣地拡大の要所となる戦地「瞿地」と言える。

②将軍は、気持ちが通じ合う諸侯を戦地「瞿地」に到達させた上で、三つの敵里等を服従させるのである。周到に行き届いて指導する将軍は諸侯が仰ぎ頼る存在となるが、あらゆる事柄に対して命令を出す方法を具備して学習させた時、諸侯を驚き恐れさせるのである。

③その諸侯は、多くの部下達と何度も戦地「瞿地」に赴いて部下達が仰ぎ頼る先生となり、自軍の将軍が命令を出すあらゆる事柄に対して指導すれば、極限まで備わった部下達は驚き恐れて周囲を見回すことを学習するのである。

④将軍は、気持ちが通じ合う諸侯に何度も赴かせた戦地「瞿地」を任せるのであり、自軍は敵里等を陣地にする時間を手に入れることで先制して敵里等に到達するのである。その敵里等を屈伏させて自軍の兵士数を増やせば、敵軍を驚き恐れさせるのである。
書き下し文
①諸なる侯の地の三属(あつ)まりて、先んじて至れば而(すなわ)ち得て天を下(くだ)す衆に之(ゆ)けば、瞿と為(な)す。

②諸は、侯を地に之(いた)らしめて三を属せしむなり。至りて先だつ而(なんじ)は天たるも、衆に之(お)いて下(くだ)すことを得て為(まな)ばしむに、瞿(おそ)れしむなり。

③侯は、諸なる属と三たび地に之(ゆ)きて天たり、而(なんじ)の下(くだ)す衆に之(お)いて先だてば、至りて得る者は瞿(み)ること為(まな)ぶなり。

④諸は、侯に三たび之(ゆ)かしむ地を属(たの)むなり、而(なんじ)は天を得て先んじて至るなり。下(くだ)らしめて衆(おお)くするに之(いた)れば、瞿(おそ)れ為(し)むなり。
<語句の注>
・「諸」は①別の、②あなた、③多くの、④あなた、の意味。
・「侯」は①士大夫で爵位を持つ者に対する尊称、②③④諸侯、の意味。
・1つ目の「之」は①助詞「の」、②ある地点や事情に達する、③④赴く、の意味。
・「地」は①其一2-5④「地」、②③④其一2-5②「地」、の意味。
・「三」は①②数の名、③④何度も、の意味。
・「属」は①集合する、②帰属する、③部下、④委託する、の意味。
・「先」は①先制する、②③導く、④先制する、の意味。
・「至」は①行きつく、②周到に行き届いたさま、③極限にまで至る、④行きつく、の意味。
・「而」は①仮定表現の助詞、②③④あなた、の意味。
・「得」は①手に入れる、②具備する、③備わる、④手に入れる、の意味。
・「天」は①その存在にとって不可欠の対象、②③仰ぎ頼る対象、④一定の時間、の意味。
・「下」は①攻め落とす、②③命令を出す、④屈伏する、の意味。
・2つ目の「之」は①変わる、②③対して、④ある地点や事情に達する、の意味。
・「衆」は①軍隊、②③あらゆる事柄、④数を増やす、の意味。
・「者」は①仮定表現の助詞、②助詞「こと」、③助詞「もの」、④仮定表現の助詞、の意味。
・「為」は①~と言える、②③学習する、④行う、の意味。
・「瞿」は①其十一1-1①「瞿」、②驚き恐れる、③驚き恐れて周囲を見回す、④驚き恐れる、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は前半「諸侯之地三屬」が欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。なお、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)は「瞿」を「衢」とし、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文では「矍」とする。「矍」の意味は全て「瞿」に含まれるのであり、また、同じ「瞿地」に関する記述にも拘わらず其十一1-1其十一1-11は「瞿」を使用している。但し、其十一6-3でも「瞿地」の表現として漢字「矍」が使用されているため記述の誤りと断ずることはできないが、「矍」が「瞿」と同意で記述されていると判断して敢えて「瞿」に置き換えた。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・「諸なる侯」の直訳は“別の爵位を持った士大夫”となる。詳細は定かではないが、“三つ又の矛”のように道が分岐している「瞿地」であり、敵里を奪い取るための要地であることを踏まえると敵里等を治める存在が“爵位を持った士大夫”だと推察できる。結果、「異なる爵位を持った士大夫」と解読。

・「地」は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」の内、“町、村、里”が対象と推察されることを踏まえて、「敵里等」と簡潔に解読。

・「諸なる侯の地」は、「諸なる侯」を「異なる爵位を持った士大夫」と解釈し、「地」を「敵里等」と解釈すれば“異なる爵位を持った士大夫の敵里等”となる。敵里等を治める存在が“爵位を持った士大夫”という推察に基づき、「異なる爵位を持った士大夫が治める敵里等」と補って解読した。

・「天」の“その存在にとって不可欠の対象”は、敵里等にとって不可欠の対象と言える敵国と考察。結果、「敵国」と解読。

<②について>
・「侯」の“諸侯”は、其七1-2②「先を争って敵里に陣取る将軍は、気持ちが通じ合う諸侯に文書を届けて分岐路にある瞿地に布陣させ、敵軍の進路を妨害してその前進を制止するのであり、敵将軍を思い悩ませて留まらせた状態で順調に敵里を奪い取って統治し、多くの陣地を手に入れるのである」に関連する内容と解釈し、「気持ちが通じ合う諸侯」と補って解読。④も同様に解読。

・「地」は、其一2-5②「」であり、①「分岐していて陣地拡大の要所となる戦地「瞿地」」を指すと考察。結果、「戦地「瞿地」」と簡略化して解読。③④も同様に解読。

・「三」の“数の名”は、①「異なる爵位を持った士大夫が治める敵里等が三つ集合」の意味を積み上げていると考察。結果、「三つの敵里等」と解読。

・「天」の“仰ぎ頼る対象”は、戦地「瞿地」を占領させる諸侯が頼りにする存在であり、自軍の将軍と考察。結果、「諸侯が仰ぎ頼る存在」と補って解読。

<③について>
・「天」の“仰ぎ頼る対象”は、解読文②で自軍の将軍から学習させられた諸侯であり、諸侯が連れて来た部下達に指導する先生的な立場になると考察。結果、「部下達が仰ぎ頼る先生」と補って解読。

<④について>
・「天」の“一定の時間”とは、汙直の計である其七1-2②「先を争って敵里に陣取る将軍は、気持ちが通じ合う諸侯に文書を届けて分岐路にある瞿地に布陣させ、敵軍の進路を妨害してその前進を制止するのであり、敵将軍を思い悩ませて留まらせた状態で順調に敵里を奪い取って統治し、多くの陣地を手に入れるのである」に基づけば、自軍が敵里を経由して奪い取って陣地するための時間稼ぎと考察できる。結果、「敵里等を陣地にする時間」と解読。

・「衆」の“数を増やす”は、陣地にした敵里等の人民を編制することで自軍の兵士数を増やすことと考察。結果、「自軍の兵士数を増やす」と補って解読。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。