人の深き地に入りて、多き城と邑を倍すれば、重と為す。

其十一1-7

入人之地深、倍城邑多者、為重。

rù rén zhī dì shēn、bèi chéng yì duō zhě、wéi zhòng。

解読文

①敵国領土の奥深くまで侵入して、陣地にした多くの町や村等を背にしているならば、城壁の必要度が極めて高く兵士達が恐れる戦地「重地」と言える。

②敵国から町や村等を没収して長期間が経過した時、裏切る町や村等を不必要に増やせば、自軍の兵士達は恐れるのである。

③敵人民から町や村等を献上させて、その町や村等に精通して自軍の利点を出し尽くした時、陣地にした町や村等が裏切ることを憂えて城壁の築造を重視するのであり、必要度が極めて高いと考えるのである。

④思いやりを持って町や村等の所得を豊かにし、城壁を築造した中小の都城を増やして自軍を優勢にする将軍は、大事な存在と見なすのである。
書き下し文
①人の深き地に入(い)りて、多き城と邑(ゆう)を倍(はい)すれば、重と為(な)す。

②人より地を入(い)りて深くするに、倍(そむ)く城と邑の多(ま)せば、重(はばか)る為(な)り。

③人より地を入(い)れしめて深くするに、倍(そむ)くこと邑して城(きず)くこと多とするなり、重きと為(な)すなり。

④人(じん)を之(もち)いて地の入(い)りを深くし、城(きず)く邑を倍(ま)して多(まさ)る者は、重(おも)んずる為(な)り。
<語句の注>
・「入」は①入る、②没収する、③献上する、④所得、の意味。
・「人」は①②他人、③住民、④思いやり、の意味。
・「之」は①②③助詞「の」、④使う、の意味。
・「地」は①領土、②③④其一2-5④「地」、の意味。
・「深」は①内外に距離が大きい、②(時間が)長くたっているさま、③精通する、④よく茂っているさま、の意味。
・「倍」は①背にする、②③裏切る、④増やす、の意味。
・「城」は①②町、③④城壁を築造する、の意味。
・「邑」は①②村、③憂える、④中小の都城(都より小さな城市)、の意味。
・「多」は①数量がおびただしい、②不必要に増やす、③重視する、④越える、の意味。
・「者」は①②仮定表現の助詞、③助詞「こと」、④助詞「もの」、の意味。
・「為」は①~と言える、②~である、③考える、④~である、の意味。
・「重」は①其十一1-1①「重」、②恐れる、③必要度が極めて高いさま、④大事なものとみなす、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・「人」の“他人”は、敵国の君主を指すと考察した上で、敵君主は敵国そのものと解釈して「敵国」と解読。②も同様に解読。

・「人の深き地」は、「人」を「敵国」と解釈すれば“他人の内側に距離が大きい領土”となる。要は、敵国領土の本拠地に近いところであり、敵本拠地は国境から遠く内部に入り込んだ場所にあると推察できる。結果、「敵国領土の奥深く」と解読した。

・「多き城と邑を倍する」は直訳すると“多くの町と村を背にする”となる。敵国領土の奥深くに侵入している自軍は、汙直の計によって町や村を奪って陣地を広げた状態にあるため自軍の背後には陣地にした町、村、里、集落が沢山あるのだと解釈できる。結果、「陣地にした多くの町や村等を背にする」と補って解読。
なお、この「城」は謀攻篇で記述された「城壁に囲まれた都市」とは異なる。もし、其十一1-7の「城」が謀攻篇の「城」と同意であれば矛盾が発生する。その矛盾は、其三2-1①「劣る戦略、戦術は城壁に囲まれた敵都市を武力で撃つこと」とあるが、軍争によって陣地を広げていく時は「里、集落」を戦わずに抑える教えになっていることである。

<②について>
・「地」は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」であり、①「町や村等」を指すと考察。結果、「町や村等」と解読。③④も同様に解読。

・「重る為り」の直訳は“恐れるのである”となる。恐れる理由は、一度は陣地にした町や村等が戦争の長期化によって裏切れば、自軍の背後に敵がいる状態になるからである。結果、「自軍の兵士達は恐れるのである」と補って解読。

<③について>
・「人」の“住民”は、「町や村等」の住民と考察。結果、「敵人民」と解読。

・「深」の“精通するは、其九4-9②「謙虚に命令して、ことごとく自軍の優れた点となることを出し尽くすのである」の教えを実行した結果と考察。結果、「その町や村等に精通して自軍の利点を出し尽くす」と補って解読した。なお、自軍の利点を出し尽くすことで其九4-9③「屋根の低さが気にかかれば、屋敷後部の塀の高さを増やして補おうとする者が出現するのである」とあるように、町や村等に城壁が無いことを指摘する兵士が出現するのだと推察できる。

・「倍」の“裏切る”は、②「倍」で記述された「裏切る町や村等」の意味を積み上げていると考察。結果、「陣地にした町や村等が裏切る」と補って解読。

<④について>
・「深」の“よく茂っているさま”は、所得が茂ることと解釈し、「豊かにする」と解読した。

・「多」の“越える”は、自軍が敵軍よりも優勢になった状態を指すと考察し、「自軍を優勢にする」と解読。

・汙直の計を使った軍争によって陣地にした町や村は、城壁を築造することで謀攻篇に登場する「城」に強化すると考察。但し、この「城」は元々“町や村”の小さい地区であるため、「邑」で「中小の都城」の意味を採用している。この“町や村”を城に強化することで、奪い取った町や村の守りを堅固にして敵軍に奪い返されないようにすること、城壁があることで “町や村”の人民に自国の領土になった実感を与える目的もあると推察する。

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