三の軍して既に惑いて既に疑わば、至る諸なる侯は難に之く矣。是を、軍を乱されて勝なるものが引くと謂う。

其三4-6

三軍既惑既疑、諸侯之難至矣。是謂亂軍引勝。

sān jūn jì huò jì yí、zhū hoú zhī nán zhì yǐ。shì wèi luàn jūn yǐn shèng。

解読文

①軍事の災いとなる三種類の君主が軍事に関わり、軍事を担う役人達が完全に混乱し、従事している兵士達がすっかり猜疑心を抱けば、周到に行き届いた多くの爵位を持った士大夫は敵に変わるのである。これを、軍事を掻き乱されて優れた人材が自国から退避すると評論する。

②猜疑心を抱いた全軍に完全に誤った行動をさせて尽き果てれば、多くの諸侯が敵になって来襲するのである。多くの諸侯に、自国が秩序を失っていると考えさせ、自国に敵軍を盛大に引き込むのである。

③軍隊を尽き果てさせた軍事の災いとなる三種類の君主は、尽き果てた自軍と諸侯達の軍隊を比較して判断が定まらない状態に至り、最も極まった状態に達して恐れをなすのである。この事態を抑制しようとする時、謀反を起こそうとする兵士が君主に自害しろと告げるのである。

④軍事の災いとなる三種類の君主が軍事に関わろうとした時、すぐに誤魔化せば君主は完全に猜疑心を抱き、周到に行き届いた多くの爵位を持った士大夫を責める事態に至る。既に滅んだ状態の自国から退避しようとする正しい士大夫は、教育すれば軍事を正し治めるだろうか、いや、正し治めないだろう。
書き下し文
①三の軍して既に惑(まど)いて既に疑わば、 至る 諸なる侯は難に之(ゆ)く矣(なり)。是を、軍を乱されて勝(しょう)なるものが引くと謂う。

②疑う三軍を既に惑(まど)わして既(つ)きれば、諸なる侯は難に之(ゆ)きて至る矣(なり)。是れ、乱れると謂(おも)わせしめ、軍を勝なりて引く。

③軍を既(つ)けしむ三は、諸と侯を疑(なぞら)えて惑(まど)うことに既(およ)び、至りに之(いた)りて難(おそ)れる矣(なり)。是に勝たんとするに乱さんとする軍は引しろと謂うなり。

④三の軍せんとするに、既(すなわ)ち惑(まど)わせしめば既に疑い、至る諸なる侯を難(なじ)ることに之(いた)る。勝(しょう)たりて引かんとする是(ぜ)なるものは、謂(おし)えれば軍を乱(おさ)めん矣(や)。
<語句の注>
・「三」は①其三4-2①「三」、②「三軍」で“全軍”、③④其三4-2①「三」、の意味。
・1つ目の「軍」は①軍事、②「三軍」で“全軍”、③④軍事、の意味。
・1つ目の「既」は①②完全に、③尽き果てる、④すぐに、の意味。
・「惑」は①混乱する、②考えや行動を誤らせる、③判断が定まらない、④誤魔化す、の意味。
・2つ目の「既」は①すっかり、②尽き果てる、③至る、④完全に、の意味。
・「疑」は①②猜疑心を抱く、③引き比べる、④猜疑心を抱く、の意味。
・「諸」は①②多くの、③あなた、④多くの、の意味。
・「侯」は①士大夫で爵位を持つ者に対する尊称、②③諸侯、④士大夫で爵位を持つ者に対する尊称、の意味。
・「之」は①②変わる、③④ある地点や事情に達する、の意味。
・「難」は①②敵、③恐れをなす、④責める、の意味。
・「至」は①周到に行き届いたさま、②来る、③最も極まった状態、④周到に行き届いたさま、の意味。
・「矣」は①②③必然的な判断、④反語を表す、の意味。
・「是」は①代名詞、②~である、③代名詞、④正しい、の意味。
・「謂」は①人や事物を評論する、②考える、③告げる、④教育する、の意味。
・「乱」は①かき乱す、②秩序がないさま、③謀反を起こす、④正し治める、の意味。
・2つ目の「軍」は①軍事、②軍隊、③兵士、④軍事、の意味。
・「引」は①退避する、②引き寄せる、③自殺する、④退避する、の意味。
・「勝」は①優れたさま、②盛大な、③抑制する、④既に滅ぼされたさま、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は「…既疑,諸侯之…」。欠落している前後は、孫子(講談社)の原文を採用して補った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「三」は、其三4-2①「三」の「(君主が軍事の災いとなる理由の)三種類」の意味を積み上げていると考察し、「軍事の災いとなる三種類の君主」と解読。③④も同様に解読。

・「惑」の“混乱する”は、其三4-4①「惑」と同意であり「軍事を担う役人達は混乱する」の意味を積み上げていると考察し、「軍事を担う役人達は混乱する」と解読。

・「疑」の“猜疑心を抱く”は、其三4-5①「疑」と同意であり「従事している兵士達は猜疑心を抱く」の意味を積み上げていると考察し、「従事している兵士達は猜疑心を抱く」と解読。

・「周到に行き届いた多くの爵位を持った士大夫は敵に変わる」は、周到に行き届いた爵位を持った士大夫が自国を見限って、他国に寝返ることと考察。なお、周到に行き届いた者だからこそ、精緻に計画を立てることを妨害する君主が、自国を滅亡に導くと考えて見限るのだと推察できる。

<②について>
・特に無し。

<③について>
・「是」は、「三軍既惑既疑、諸侯之難至矣」を指示する代名詞と考察し、「この事態」と解読。

・「謀反を起こそうとする兵士が君主に自害しろと告げる」は、君主の首を差し出すことで兵士達が諸侯側の立場になる目論見と考察。

<④について>
・「是なるもの」の直訳は“正しい人物”となる。これは「周到に行き届いた多くの爵位を持った士大夫」と同意と考察。但し、ここでは簡潔に「正しい士大夫」と解読。

・「既に滅んだ状態の自国」とは、軍事の災いとなる三種類の君主が軍事に関わる状態を指すと考察。

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