貸うこと不き者は、其の所を敗りて錯かしめて勝つ者なり。

其四3-6

不貸者、其所錯勝、敗者也。

bù dài zhě、qí suǒ cuò shèng、baì zhě yĕ。

解読文

①戦略、戦術を誤ることが無い将軍は、敵将軍の考えていた戦略、戦術を損なって捨てさせて、敵軍を抑える者である。

②大いに戦略、戦術を誤る将軍は、充実して堅固な軍隊を装うことで敵軍よりも優勢になろうとするが、負ける者である。

③敵軍よりも優勢になろうとして負ける将軍は、敵将軍が軍隊の堅固さを向上させることに対して、大いに寛大になってしまった者である。

④敵将軍に軍隊の堅固さを向上させることを許さない将軍は、不完全となった敵軍を抑えるのである。
書き下し文
①貸(たが)うこと不(な)き者は、其の所を敗(やぶ)りて錯(お)かしめて勝つ者なり。

②不(おお)いに貸(たが)う者は、所を錯(ぬ)りて其の勝(まさ)らんとするも、敗(やぶ)れる者なり。

③勝(まさ)らんとして敗(やぶ)れる者は、其の所を錯(みが)くこと、不(おお)いに貸(ゆる)す者なり。

④其の所を錯(みが)くこと貸(ゆる)さざる者は、敗(やぶ)れる者に勝つなり。
<語句の注>
・「不」は①無い、②③大いに、④~しない、の意味。
・「貸」は①②誤る、③④寛大にする、の意味。
・1つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「其」は①②③④敵の代名詞、の意味。
・「所」は①思い、②③④虚実の代名詞、の意味。
・「錯」は①捨てて用いない、②金を溶かして塗り飾る、③④磨く、の意味。
・「勝」は①抑える、②③越える、④抑える、の意味。
・「敗」は①損なう、②③負ける、④損なう、の意味。
・2つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「不忒者、其所措已勝、勝敗者也。」と「貸」を「忒」とし、「錯」を「措」とし、「已」が入るが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「貸」の“誤る”は、其四3-5④「将軍が戦略、戦術を誤る」の意味を積み上げていると考察し、「戦略、戦術を誤る」と解読。②も同様に解読。

・「所を敗る」の“思いを損なう”は、“思い”は其四3-5④「(敵将軍の)あらゆる手立てを尽くした戦略、戦術」及び其七6-1①「軍する将は心を奪う可し」の「敵全軍を統率する敵将軍からは考えていた計画を強制的に取るのが良い」の“考えていた計画”を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「(敵将軍の)考えていた戦略、戦術を損なう」と解読。なお、“損なう”は其七6-1①「強制的に取る」と同意と考察。

<②について>
・「所を錯る」の「所」は、「錯」の塗り飾る意味より、虚実の代名詞「自軍の実」と考察できる。つまり、実態は実に達していないにも関わららず、其五1-4①「戦略、戦術を使って敵軍を凌駕する道理は、自分の方に投げられた脆い卵を目にとめて固い木槌で打つに等しく自軍に向かって来る脆い敵軍を認識して固い自軍で打ち破るのであり、充実して堅固な“実”と虚弱な“虚”の正確な判断をするからである」の「充実して堅固な“実”」を装うことと解釈。結果、わかりやすく「充実して堅固な軍隊を装う」と解読。

・「勝」の“越える”は、自軍が敵軍よりも優勢になる状態を指すと考察し、「(自軍が)優勢になる」と解読。③も同様に解読。

<③について>
・「所」は、敵将軍に磨くことを許す事柄であるため、文意より虚実の代名詞「敵軍の実」と解釈できる。結果、「其の所を錯く」で「敵将軍が軍隊の堅固さを向上させる」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・「敗」の“損なう”意味は、完全なものが不完全になることである。つまり、“不完全な状態になった敵軍を抑える”文意をわかりやすくする目的で「不完全にする」と言い換えた。

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