処を戦いて地を先んずる而の侍めれば戦く者は失し、処を戦うも地に後れる而は趨たりて戦うことに労す。

其六1-1

先處戰地而侍戰者失、後處戰地而趨戰者勞。

xiān chù zhàn dì ér shì zhàn zhě shī、hòu chù zhàn dì ér qū zhàn zhě laó。

解読文

①立場の優劣を争って戦地を先制した将軍が敵軍に諫言すれば恐れ震える敵兵達が逃亡し、立場の優劣を争っても戦地に遅れた将軍は差し迫って敵軍と優劣を争う方法について悩む。

②戦地を先制した将軍は、生きたまま敵を取得する間者が所属する奇策部隊を配置するのであり、軍隊の勢いで敵軍と優劣を争えば恐れ震える敵兵達が逃亡するのである。戦地に遅れても敵軍とせめぎ合うことを決断した将軍は恐れ震える兵士達に手柄を立てることを催促するのである。

③ひたすら軍隊の勢いで敵軍と優劣を争う将軍は、生きたまま敵を取得する間者が所属する奇策部隊を使って、恐れ震えて逃亡する敵兵達が自国に寝返る措置を行わせることを第一にする。ひたすら敵軍とせめぎ合う将軍が措置する時は、恐れ震える兵士達を慰労する志向を後回しにする。

④ひたすら軍隊の勢いで敵軍と優劣を争う将軍は、恐れ震えて逃亡する敵兵達が自国に寝返れば、真心のある法規や決まりによって諫言して導くのであり、将軍は戦地に据えて戦争させることは後回しにして慰労すれば、自国に寝返った元敵兵達には自軍の兵士として戦う気持ちが生まれるのである。
書き下し文
①処(しょ)を戦いて地を先んずる而(なんじ)の侍(すす)めれば戦(おのの)く者は失(う)し、処(しょ)を戦うも地に後(おく)れる而(なんじ)は趨(すう)たりて戦うことに労(ろう)す。

②地を先んずる而(なんじ)は、侍(じ)を処(しょ)すなり、戦えば戦(おのの)く者は失(う)すなり。地に後(おく)れるも戦うこと処(しょ)する而(なんじ)は戦(おのの)く者に労(ろう)あること趨(うなが)すなり。

③地(た)だ戦う而(なんじ)は、侍(じ)をして戦(おのの)く者の失(そむ)くこと処(しょ)せしむこと先にす。地(た)だ戦う而(なんじ)の処(しょ)するに、戦(おのの)く者を労(ねぎら)う趨(すう)は後にす。

④地(た)だ戦う而(なんじ)は戦(おのの)く者の失(そむ)けば、処(しょ)に侍(すす)めて先だつなり、而(なんじ)は地に処(お)きて戦わしむこと後にして労(ねぎら)えば戦う趨(すう)あるなり。
<語句の注>
・「先」は①②先制する、③第一にする、④導く、の意味。
・1つ目の「処」は①立場、②配置する、③措置する、④規律、の意味。
・1つ目の「戦」は①②③④優劣を争う、の意味。
・1つ目の「地」は①②其一2-5②「地」、③④ひたすら、の意味。
・1つ目の「而」は①②③④あなた、の意味。
・「侍」は①進言や諫言をする、②③目上の人に仕える人、④進言や諫言をする、の意味。
・2つ目の「戦」は①②③④(恐れや寒さのために)震える、の意味。
・1つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「失」は①②消える、③④離背する、の意味。
・「後」は①②他のものよりも後になる、③④後回しにする、の意味。
・2つ目の「処」は①立場、②決断する、③措置する、④据える、の意味。
・3つ目の「戦」は①優劣を争う、②③せめぎ合う、④戦をする、の意味。
・2つ目の「地」は①②其一2-5②「地」、③ひたすら、④其一2-5②「地」、の意味。
・2つ目の「而」は①②③④あなた、の意味。
・「趨」は①差し迫るさま、②催促する、③④志向、の意味。
・4つ目の「戦」は①優劣を争う、②③(恐れや寒さのために)震える、④戦をする、の意味。
・2つ目の「者」は①助詞「こと」、②③助詞「もの」、④仮定表現の助詞、の意味。
・「労」は①悩む、②手柄、③④慰労する、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「孫子曰、先處戰地、而待敵者佚、後處戰地、而趨戰者勞。」と「孫子曰」が入り、「侍」を「待」とし、2つ目の「戰」を「敵」とし、「失」を「佚」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「後」の“他のものよりも後になる”は、敵軍よりも後に戦地に到着することと考察。ここでは簡潔に「遅れる」と解読。②も同様に解読。

・「失」の“消える”は、有利な自軍の将軍が諫言することで恐れ震える敵兵達の一部が逃亡して消えることと考察し、「逃亡する」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・「侍」の“目上の人に仕える人”は、其十二2-3④「軍神である将軍は、生きたまま敵を取得する間者の養育係になるのである。間者を一人前にする時は、何度も戦争に連れ立って起用して、敵兵達の士気が殺がれる時機を識別することを指導して習熟させるのである」に基づき、「生きたまま敵を取得する間者」と考察。但し、ここでは奇正の戦術について説く前提があると解釈して「生きたまま敵を取得する間者が所属する奇策部隊」と解読する。③も同様に解読。

・1つ目の「戦」の“優劣を争う”は、其五5-4④「荒々しい軍隊の勢いで優劣を争って敵軍を劣勢にさせる優れた将軍は思いやりの才能がある」等の意味を積み上げていると考察し、「軍隊の勢いで敵軍と優劣を争う」と解読。③④も同様に解読。

<③について>
・2つ目の「戦」の“(恐れや寒さのために)震える”は、①②「失」の「逃亡する」意味を積み上げていると考察して、「恐れ震えて逃亡する」と補って解読。④も同様に補う。

<④について>
・1つ目の「処」の“規律”は、其一2-7①「法」の「法規やお手本」と同意であり、ここでは特に其十一7-7②「好き勝手にする敵人民にも真心のある法規や決まりを与えて誠実に実行すれば、自国に対する思いを厚くするのである」等で記述される「真心」の表現が適当と判断し、「真心のある法規や決まり」と解読。

・「戦う趨あり」の直訳は“戦争する志向が生じる”となる。これは自国に寝返った敵兵達をすぐに戦地に送り込まず慰労したことで、元敵兵達に自軍の兵士として戦う気持ちが生じてきたと考察。結果、「自国に寝返った元敵兵達には自軍の兵士として戦う気持ちが生まれる」と補って解読。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。