故を是とせしめて、諸なる候の謀を知せしめざる者は、予ら交むこと能わざるなり。

其七3-1

是故、不知諸侯之謀者、不能豫交。

shì gù、bù zhī zhū hoú zhī moú zhě、bù néng yú jiāo。

解読文

①自国の戦略を正しいと認めさせて、各諸侯の考え方を改めさせない将軍は、諸侯を侵略戦争に参加させることができないのである。

②各諸侯の考え方を正しく改めさせた時、将軍を訪ねて戦略について質問する諸侯は、大いに自国の戦略を覚えようとするのであり、大いに侵略戦争に参加させることができるのである。

③将軍は、諸侯が侵略戦争に赴くことを考慮して、必ず正確な判断を大いに理解させるのであり、予め大いに準備をすれば分岐路にある「瞿地」に気持ちが通じ合う諸侯を出現させることができるのである。

④だから、正確な判断を大いに理解している将軍と諸侯が自国の戦略を使えば、互いに懸念すること無く戦地に至るのである。
書き下し文
①故を是(ぜ)とせしめて、諸なる候の謀を知(ち)せしめざる者は、予(あずか)ら交(し)むこと能わざるなり。

②是(ただ)すに、諸を侯(うかが)いて之を謀(はか)る者は、不(おお)いに故を知らんとするなり、不(おお)いに能(よ)く予(あずか)ら交(し)むなり。

③諸は、侯の之(ゆ)くこと謀(はか)りて、故(もと)より、是(ぜ)を不(おお)いに知らしむなり、不(おお)いに予(あらかじ)めすれば能(よ)く交わりあらしむなり。

④故に、是(ぜ)を不(おお)いに知る諸と侯の謀を之(もち)いれば、交(こもごも)予(ためら)うこと不(な)くして能(よ)くするなり。
<語句の注>
・「是」は①正しいと認める、②正しくする、③正確な判断、④だから、の意味。
・「故」は①②たくらみ、③必ず、④たくらみ、の意味。
・1つ目の「不」は①~しない、②③④大いに、の意味。
・「知」は①病気が治る、②覚える、③④理解する、の意味。
・「諸」は①各々の、②③④あなた、の意味。
・「候」は①諸侯、②訪ねる、③④諸侯、の意味。
・「之」は①助詞「の」、②代名詞、③赴く、④使う、の意味。
・「謀」は①考え、②質問する、③考慮する、④策略、の意味。
・「者」は①②助詞「もの」、③助詞「こと」、④仮定表現の助詞、の意味。
・2つ目の「不」は①~しない、②③大いに、④無い、の意味。
・「能」は①②③~することができる、④達する、の意味。
・「予」は①②参加する、③予め準備する、④懸念する、の意味。
・「交」は①②させる、③友人、④互いに、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「故」の“たくらみ”は、他句では“戦略、戦術”と包括的に解読しているが、ここでは諸侯と一緒に実行する“たくらみ”であるため「汙直の計」や「合従策」とわかる。結果、話の流れに合わせて「自国の戦略」と解読した。②④も同様に解読。

・「諸なる候の謀を知せしむ」の直訳は“各諸侯の考えの病気を治させる”となる。これは、例えば其十一1-6②「周到に行き届いて指導する将軍は諸侯が仰ぎ頼る存在となるが、あらゆる事柄に対して命令を出す方法を具備して学習させた時、諸侯を驚き恐れさせるのである」とあるように、戦略、戦術について正しく指導するなど考え方を改めさせることと解釈できる。結果、「各諸侯の考え方を改めさせる」と解読。

・「予」の“参加する”は、諸侯を侵略戦争に参加させることと考察。結果、使役形で「(諸侯を)侵略戦争に参加させる」と補って解読。②も同様に解読。

<②について>
・「是」の“正しくする”は、①「自国の戦略、戦術を正しいと認めさせて、各諸侯の考え方を改めさせない将軍」の意味を積み上げていると考察。結果、「各諸侯の考え方を正しく改めさせる」と補って解読。

・「諸」の“あなた”は、諸侯と協力関係をつくれる人物であるため「将軍」と解読。③も同様に解読。

・「之」は、「故」の「戦略」を指示する代名詞と解読。

<③について>
・「交」の“友人”は、其八1-1①「瞿地は交わりに合わす」の「分岐路にある「瞿地」は気持ちが通じ合う諸侯によって完全に塞ぐ」の意味を積み上げていると考察。結果、「交わり」で「分岐路にある「瞿地」に気持ちが通じ合う諸侯」と補って解読。

<④について>
・「能」の“達する”は、自軍と諸侯が戦地に至ることと考察。結果、「戦地に至る」と解読。

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