是に故なして、諸なる侯を屈する者は害ましめて以めるなり、諸なる侯を役する者は業を以すなり、諸なる侯を趨かしむ者は利あるに以ぶなり。

其八2-4

是故、屈諸侯者以害、役諸侯者以業、趨諸侯者以利。

shì gù、qū zhū hoú zhě yǐ hài、yì zhū hoú zhě yǐ yè、qū zhū hoú zhě yǐ lì。

解読文

①正確な判断によって戦略、戦術を実行して、多くの諸侯を抑えつける将軍は敵将軍に都合が悪いと思わせて戦争を終えたのであり、多くの諸侯を公用の労役で働かせる将軍は国家事業を行ったのであり、多くの諸侯を分岐路にある「瞿地」に向かわせる将軍は全軍で権勢を生じさせるのである。

②敵軍を衰えた状態に至らせて、敵将軍に都合が悪いと思わせる状態に達すれば、多くの爵位を持った士大夫は窮まった状態になっている。国家事業を行えば、多くの爵位を持った士大夫に働かせるのである。全軍で権勢を生じさせれば、多くの爵位を持った士大夫を自国に寝返らせるのである。

③多くの爵位を持った士大夫は、窮まった状態になれば殺害されると考えるのである。多くの爵位を持った士大夫は、労役があれば生業があると考えるのである。そこで多くの爵位を持った士大夫は、自国に寝返る選択が都合良いと考えるのである。これが道理である。

④道理を正しく働かせて都合が悪いと思わせることで、敵将軍を服従させればそこで戦争を終えるのであり、自国に服従した敵将軍と爵位を持った士大夫は辺境や国境を守ることを職務と認めるのであり、全領地で権勢を生じさせれば多くの諸侯が迎合するのである。
書き下し文
①是(ぜ)に故なして、諸なる侯を屈する者は害(にく)ましめて以(や)めるなり、諸なる侯を役する者は業を以(な)すなり、諸なる侯を趨(おもむ)かしむ者は利あるに以(およ)ぶなり。

②故(ふ)るに是(ゆ)かしめて、害(にく)ましむこと以(およ)べば、諸なる侯は屈(くつ)たり。業を以(な)せば、諸なる侯を役するなり。利あるに以(およ)べば、諸なる侯を趨(はし)らしむなり。

③諸なる侯は、屈(くつ)たれば害(そこ)なわれると以(おも)うなり。諸なる侯は、役あれば業ありと以(おも)うなり。侯(ここ)に諸は趨(はし)ること利(よろ)しと以(おも)うなり。是、故なり。

④故を是(ただ)して害(にく)ましめて、諸を屈(くつ)せしめば侯(ここ)に以(や)めるなり、諸と侯は役すること業と以(おも)うなり、利あるに以(およ)べば諸なる侯は趨(おもむ)くなり。
<語句の注>
・「是」は①正確な判断、②至る、③代名詞、④正しくする、の意味。
・「故」は①たくらみ、②衰える、③④道理、の意味。
・「屈」は①抑えつける、②③窮まったさま、④服従する、の意味。
・1つ目の「諸」は①②③多くの、④彼、の意味。
・1つ目の「侯」は①諸侯、②③士大夫で爵位を持つ者に対する尊称、④そこで、の意味。
・1つ目の「者」は①助詞「もの」、②③④仮定表現の助詞、の意味。
・1つ目の「以」は①終える、②押し及ぶ、③考える、④終える、の意味。
・「害」は①②都合が悪いと思う、③殺す、④都合が悪いと思う、の意味。
・「役」は①公用の労役に服させる、②働かせる、③労役、④辺境・国境を守る、の意味。
・2つ目の「諸」は①②③多くの、④彼、の意味。
・2つ目の「侯」は①諸侯、②③④士大夫で爵位を持つ者に対する尊称、の意味。
・2つ目の「者」は①助詞「もの」、②③仮定表現の助詞、④助詞「こと」、の意味。
・2つ目の「以」は①②事を行う、③考える、④認める、の意味。
・「業」は①②基盤となる事業、③生業、④職務、の意味。
・「趨」は①ある方向に向かう、②③帰順する、④迎合する、の意味。
・3つ目の「諸」は①②多くの、③彼ら、④多くの、の意味。
・3つ目の「侯」は①諸侯、②士大夫で爵位を持つ者に対する尊称、③そこで、④諸侯、の意味。
・3つ目の「者」は①助詞「もの」、②仮定表現の助詞、③助詞「こと」、④仮定表現の助詞、の意味。
・3つ目の「以」は①②押し及ぶ、③考える、④押し及ぶ、の意味。
・「利」は①②権勢、③都合が良い、④権勢、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>

・「業を以す」の直訳は“基盤となる事業を行う”となる。これは、其十二5-5⑦「聡明な君主は、その国を統治して豊かにできる者として「真心ある国家事業をあまねく実行する」と保証する」を指すと考察。結果、簡潔に「国家事業を行う」と解読。②も同様に解読。

・「趨」の“ある方向に向かう”の“ある方向”とは、其八1-1①「分岐路にある「瞿地」は気持ちが通じ合う諸侯によって完全に塞ぐ」に基づけば、分岐路にある「瞿地」を指すと解釈できる。結果、使役形で「分岐路にある「瞿地」に向かわせる」と解読。

・「利」の“権勢”は、敵国に侵略した自軍と諸侯の軍隊を合わせた全軍で生じる権勢と考察。結果、「利あるに以ぶ」で「全軍で権勢を生じさせる」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・「趨」の“帰順する”は、多くの爵位を持った士大夫が自国に寝返って服従することと考察。結果、使役形で簡潔に「自国に寝返らせる」と解読。③も同様に解読。

<③について>
・3つ目の「諸」の“彼ら”は、1つ目と2つ目の「諸なる侯」の「多くの爵位を持った士大夫」を指示する代名詞と解読。

・「是」は、「屈諸侯者以害、役諸侯者以業、趨諸侯者以利」を指示する代名詞と解釈。結果、簡潔に「これ」と解読。

<④について>
・1つ目と2つ目の「諸」の“彼”は、①「敵将軍に都合が悪いと思わせて戦争を終えた」の敵将軍を指すと考察。結果、「敵将軍」と解読。

・2つ目の「諸と侯」の“敵将軍と爵位を持った士大夫”は、話の流れより自国に服従した状態とわかるため「自国に服従した敵将軍と爵位を持った士大夫」と補って解読。

・「利」の“権勢”は、自国と配下にる諸侯の領地を合わせて生じる権勢と考察。結果、「利あるに以ぶ」で「全領地で権勢を生じさせる」と解読。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。