故を用いる兵に之いる法は、其の来らざるを恃むこと毋かれ、待つ有を以いて吾ぐこと恃むなり。

其八2-5

故用兵之法、毋恃其不來、恃吾有以待。

gù yòng bīng zhī fǎ、wú shì qí bù laí、shì wú yoǔ yǐ dài。

解読文

①気持ちが通じ合う諸侯を任用する軍事のお手本は、敵軍が来襲しないことを期待してはならない、敵軍の来襲に備える諸侯を使って防御することを頼りにするのである。

②敵軍が来襲する現象に合致する道理は、頼りにする諸侯が存在しなければ、敵軍が大いに来襲するのである。自国が頼りにする諸侯が存在すれば、敵軍の来襲を待ち受けて留まらせるのである。

③敵軍が来襲する現象に合致する道理を使う戦略、戦術のお手本は、守る諸侯を無視させて敵軍を大いに招くのであり、敵軍を偽りの優位な状態に至らせて敵将軍を得意にさせた時、将軍は待ち受けている諸侯を出現させるのである。

④敵軍が来襲する現象に合致する道理を使う戦略、戦術に力を尽くして敵軍を排除した諸侯は、必ず真心のある法規や決まりを使って大いに慰労するのであり、その諸侯が再び防御すると考えて接待するのである。
書き下し文
①故を用いる兵に之(もち)いる法は、其の来(きた)らざるを恃(たの)むこと毋(な)かれ、待つ有を以(もち)いて吾(ふせ)ぐこと恃(たの)むなり。

②兵の之(いた)る用に法(のっと)る故は、恃(たの)むもの毋(な)ければ其の不(おお)いに来(きた)るなり。吾が恃(たの)むもの有れば待ちて以(や)めしむなり。

③故を用いる兵の法は、恃(たの)むもの毋(なみ)せしめて其の不(おお)いに来(きた)すなり、以(な)すに、吾は待つ恃(たの)むものを有らしむなり。

④兵に用いて其の毋(な)かしむ恃(たの)むものは、故(もと)より法を之(もち)いて不(おお)いに来(ねぎら)うなり、恃(たの)むものの有(ま)た吾(ふせ)ぐこと以(おも)いて待つなり。
<語句の注>
・「故」は①なじみ、②③道理、④必ず、の意味。
・「用」は①任用する、②具体的な現象、③使用する、④力を尽くす、の意味。
・「兵」は①軍事、②軍隊、③④戦略、戦術、の意味。
・「之」は①助詞「の」、②ある地点や事情に達する、③助詞「の」、④使う、の意味。
・「法」は①手本、②合致する、③手本、④其一2-7①「法」、の意味。
・「毋」は①~してはならない、②存在しない、③無視する(「無」より)、④存在しない、の意味。
・1つ目の「恃」は①②③④頼りにする、の意味。
・「其」は①②③④敵の代名詞、の意味。
・「不」は①無い、②③④大いに、の意味。
・「来」は①②向こう側からこちら側に着く、③招く、④慰労する、の意味。
・2つ目の「恃」は①②③④頼りにする、の意味。
・「吾」は①防御する、②我々の、③私、④防御する、の意味。
・「有」は①存在、②事物が存在する、③ある事情が出現したり発生したりする、④再び、の意味。
・「以」は①使用する、②留まる、③事を行う、④考える、の意味。
・「待」は①備える、②③待ち受ける、④接待する、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、基本的には孫子(講談社)の原文に従ったが其八2-6「毋恃其不攻、恃吾之不可攻」と対句の関係にあると考察し、「無」は「毋」に置き換えた。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「故」の“なじみ”は、其七2-1③「気持ちが通じ合う諸侯に分岐路にある瞿地を占領させる」で記述された「気持ちが通じ合う諸侯」を指すと考察。結果、「気持ちが通じ合う諸侯」と解読。

・「来」の“向こう側からこちら側に着く”は、其八2-4④「自国に服従した敵将軍と爵位を持った士大夫は辺境や国境を守ることを職務と認めるのであり、全領地で権勢を生じさせれば多くの諸侯が迎合するのである」から話が続いていると解釈すれば、諸侯が敵となって自国に来襲してくることと考察できる。結果、「来襲する」と解読。②も同様に解読。

・「待」の“備える”は、「敵軍が来襲しないことを頼りにしてはならない」に対応した記述と解釈し、「敵軍の来襲に備える」と補って解読。

・「有」の “存在”は、話の流れより敵軍の来襲に備える存在とわかる。そして、其八2-4④「自国に服従した敵将軍と爵位を持った士大夫は辺境や国境を守ることを職務と認める」に基づけば、自国に服従した諸侯国を指すと考察できる。結果、「諸侯」と解読。

<②について>
・「兵の之る」の直訳は“軍隊が達する”となる。これは①「敵軍の来襲」と同意と考察。結果、「敵軍が来襲する」と言い換えた。

・1つ目と2つ目の「恃むもの」の直訳は“頼りにする者”となる。これは①「敵軍の来襲に備える諸侯を使って防御することを頼りにする」に基づけば、諸侯を指すことがわかる。結果、「頼りにする諸侯」と解読。

・「待」の“待ち受ける”は、「敵軍が大いに来襲する」に対応した記述と解釈し、「敵軍の来襲を待ち受ける」と補って解読。

<③について>
・「故」の“道理”は、②「故」の「敵軍が来襲する現象に合致する道理」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵軍が来襲する現象に合致する道理」と解読。

・「毋」は漢字「無」と同じと解釈。ここでは「無」の“無視する”意味を採用した。

・1つ目と2つ目の「恃むもの」は「頼りにする諸侯」と同意だが、話の流れに合わせて「(守る)諸侯」と簡潔に解読。④も同様に解読。

・「以」の“事を行う”は、この句が其六3-4②「侵略してくる敵軍に揺れ動かされることを望まない自国の将軍は、侵略させる戦地を計画する」に関連する教えであり、守る諸侯がいないと敵軍に思わせる場所が“侵略させる戦地”であることに着眼すれば、其六3-4④「侵略してきた敵軍を偽りの優位な状態に至らせて、敵将軍を大いに得意にさせた時、自国の将軍は同盟を結んだ諸侯を出現させて恐れ震えさせるのである」より、敵軍を偽りの優位な状態に至らせて敵将軍を得意にさせることと考察できる。結果、「敵軍を偽りの優位な状態に至らせて敵将軍を得意にさせる」と解読。

<④について>
・「兵」の“戦略、戦術”は、③「兵」の「敵軍が来襲する現象に合致する道理を使う戦略、戦術」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵軍が来襲する現象に合致する道理を使う戦略、戦術」と補って解読。

・「法」は、其一2-7①「法」の「法規やお手本」と同意であり、ここでは特に其十一7-7②「好き勝手にする敵人民にも真心のある法規や決まりを与えて誠実に実行すれば、自国に対する思いを厚くするのである」等で記述される「真心」の表現が適当と判断し、「真心のある法規や決まり」と解読。

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