山を絶るに谷に依るなり、視て処る高を生むなり、戦いあるに降る毋かれ、登るなり。此、山を之く軍の処なり。

其九1-2

絶山依谷、視生處高、戰降毋登。此處山之軍也。

jué shān yī gŭ、shì shēng chù gaō、zhàn jiàng wú dēng。cǐ chù shān zhī jūn yĕ。

解読文

①高くそびえた山を横切る時は山間の狭い道や川筋に従うのであり、詳らかに周辺を見て兵士達を落ち着かせる高い所を作り出すのであり、戦闘になった時は低い所に移動してはならない、高い所へ移動するのである。これが、高くそびえた山に赴く軍隊のお手本である。

②山のように領地からかけ離れた「絶地」にいると、軍隊は枯渇するのである。山中の水の流れを頼りにして、兵士達が生活する場所を尊重して軍隊を治めるのであり、雨や雪が降って寒さで震える兵士が存在すれば出発しない。これが、高くそびえた山に到達して駐屯するお手本である。

③高くそびえた山で軍隊を枯渇させる将軍は、お手本を真似してもよく知らないまま拠り所にして苦境に陥るのであり、雨や雪が降って寒さで震える兵士を敬うこと無く出発するのである。このような軍事を行う粗野で洗練されていない将軍は罰するのである。

④非常に優れた将軍の言うことを聞くのであり、山をなすほど多い穀物と生存した兵士達の活路を尊重するのであり、すぐに敵軍とせめぎ合わないことを尊重するのである。高くそびえた山に赴く時は、このように定めて軍隊を統率するのである。
書き下し文
①山を絶(わた)るに谷に依るなり、視(み)て処(お)る高を生むなり、戦いあるに降(くだ)る毋(な)かれ、登るなり。此、山を之(ゆ)く軍の処なり。

②山にあれば絶えるなり。谷に依りて生きる処を高(たか)しとして視(み)るなり、降りて戦(おのの)くものあれば登ること毋(な)し。此、山に之(いた)りて軍する処なり。

③山に絶えしむものは、処に視(なら)うも生たりて依(よ)りて谷(きわ)まるなり、降りて戦(おのの)くものを高(たか)しとすること毋(な)く登るなり。此(か)く軍なす山なる之は処(しょ)するなり。

④絶なるものに依(よ)るなり、山のごとき谷と生の視(い)きる処を高(たか)しとするなり、登(ただ)ちに戦うこと毋(な)きを降(たっと)ぶなり。山に之(ゆ)くに、此(か)く処(しょ)して軍するなり。
<語句の注>
・「絶」は①道などを横切る、②③枯渇する、④非常に優れたさま、の意味。
・1つ目の「山」は①陸地の隆起し高くそびえたった所(山)、②世俗と隔絶した地の喩え、③陸地の隆起し高くそびえたった所(山)、④山をなすほどに多く、の意味。
・「依」は①従う、②頼る、③拠り所にする、④言うことを聞く、の意味。
・「谷」は①山間の狭い道や川筋、②山中の水の流れ、③苦境に陥ったさま、④穀物の総称、の意味。
・「視」は①詳らかに見る、②治める、③真似る、④生存する、の意味。
・「生」は①作り出す、②生活する、③よく知らないさま、④存命である者、の意味。
・1つ目の「処」は①落ち着かせる、②場所、③規律、④場所、の意味。
・「高」は①高い所、②尊ぶ、③敬う、④尊ぶ、の意味。
・「戦」は①争い、②③(恐れや寒さのために)震える、④せめぎ合う、の意味。
・「降」は①下に移る、②③雨や雪が降る、④尊重する、の意味。
・「毋」は①~してはならない、②③④~しない、の意味。
・「登」は①上の方へ行く、②③旅路につく、④すぐに、の意味。
・「此」は①②代名詞、③このような、④このように、の意味。
・2つ目の「処」は①②規律、③罰する、④定める、の意味。
・2つ目の「山」は①②陸地の隆起し高くそびえたった所(山)、③粗野で垢抜けないものの喩え、④陸地の隆起し高くそびえたった所(山)、の意味。
・「之」は①赴く、②ある地点や事情に達する、③彼、④赴く、の意味。
・「軍」は①軍隊、②駐屯する、③軍事、④軍を統率する、意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「此」は、「絶山依谷、視生處高、戰降毋登」を指示する代名詞と考察。ここでは「これ」と解読。②も同様に解読。

・2つ目の「処」の“規律”は、本来ならば軍律と言い換えるところだが、文意は法規よりもお手本を示していると解釈できる。結果、文意に合わせて「お手本」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・1つ目の「山」の“世俗と隔絶した地の喩え”の“世俗”は、其一2-5④「地」の「敵国の町、村、里、集落」を指すと考察。但し、自軍が拠り所にしている場所であることを踏まえると、自軍が統治した状態と解釈できる。つまり、其八1-1①「領地からかけ離れた「絶地」」を指しており、高くそびえた山は「絶地」の一種だとわかる。結果、「山のように領地からかけ離れた「絶地」」と解読。

・「登」の“旅路につく”は、話の流れより軍隊が行軍を再開して出発することと考察。結果、「出発する」と簡潔に解読。③も同様に解読。

<③について>
・1つ目の「処」の“規律”は、①2つ目の「処」の「高くそびえた山に赴く軍隊のお手本」と②2つ目の「処」の「高くそびえた山に到達して駐屯するお手本」の意味を積み上げていると考察した上で、話の流れに合わせて簡潔に「お手本」と解読。

・「山なる之」の直訳は“粗野で垢抜けない者”となる。“垢抜けない”は洗練されていない状態を指すと解釈し、「粗野で洗練されていない将軍」と解読。

<④について>
・「絶」の“非常に優れたさま”は、③「高くそびえた山で軍隊を枯渇させる将軍」との対比と解釈。結果、「絶なるもの」で「非常に優れた将軍」と解読。

・「生の視きる処」の直訳は“存命である者が生存する場所”となる。これは敵軍との戦闘によって生存した兵士達が生き延びるための活路を指すと考察。結果、「生存した兵士達の活路」と解読した。

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