敵の近づくも而の静まるは、其れ険たるものを恃めばなり。

其九3-4

敵近而靜者、恃其險也。

dí jìn ér jìng zhě、shì qí xiǎn yĕ。

解読文

①敵軍が接近しても将軍が落ち着き安定している理由は、このように堅固に守る自軍を頼りにするからである。

②このように堅固に守る自軍を頼りにする将軍は、敵軍に接近した時、攻撃すると巧妙に偽ることができるのである。

③攻撃すると巧妙に偽ることができる将軍は、敵軍から浅はかな敵兵達を出現させるのであり、引き返そうとする敵軍を驚かすように遮る奇策部隊を頼りにするのである。

④引き返そうとする敵軍を驚かすように遮る奇策部隊を頼りにする将軍は、浅はかな敵兵達を武力で攻め取っても、その攻め取った敵兵達を戦闘させずに落ち着き安定させて自軍を平穏にすることができるのである。
書き下し文
①敵の近づくも而(なんじ)の静まるは、其れ険たるものを恃(たの)めばなり。

②其れ険たるものを恃(たの)む者は、近づくに、敵すると而(よ)く静(せい)するなり。

③而(よ)く静(せい)する者は、敵より近(きん)あらしむなり、其の険なるものを恃(たの)むなり。

④其の険なるものを恃(たの)む者は、近(きん)を敵するも、而(よ)く静めるなり。
<語句の注>
・「敵」は①戦争や競争で対抗する相手、②攻撃する、③戦争や競争で対抗する相手、④攻撃する、の意味。
・「近」は①②接近する、③④浅はかな人、の意味。
・「而」は①あなた、②③④~できる、の意味。
・「静」は①落ち着き安定する、②③巧妙に偽る、④其五5-3④「静」、の意味。
・「者」は①因果関係「也」に対応した置き字、②③④助詞「もの」、の意味。
・「恃」は①②③④頼りにする、の意味。
・「其」は①②このように、③④敵の代名詞、の意味。
・「険」は①②守りが堅固であるさま、③④人を驚かすようなさま、の意味。
・「也」は①因果関係を表す助詞、②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・特に無し。

<②について>
・「近」の“接近する”は、解読文①で接近してきた敵軍に対して、逆に自軍から敵軍に接近していくことと考察。結果、「敵軍に接近する」と補って解読。

<③について>
・「静」の“巧妙に偽る”は、②「静」で記述された「敵軍に接近した時、攻撃すると巧妙に偽る」の意味を積み上げていると考察。結果、「攻撃すると巧妙に偽る」と補って解読。

・「近」の“浅はかな人”は、其九3-2③「自軍が防御すれば逃亡する敵兵達が出現して災いを起こす浅はかな敵兵となる」の「浅はかな敵兵」を指すと考察。結果、「浅はかな敵兵達」と解読。④も同様に解読。

・「其の険なるもの」の直訳は“敵を驚かすような者”となる。これは其九3-3④「険」で記述された「補佐する奇策部隊は大きく成長したアシの中にある生えたばかりのアシにいて敵軍を侮らせるのであり、驚かせるように引き返そうとする敵軍を遮ってその敵兵達を攻め取る」の奇策部隊を指すと考察。結果、「引き返そうとする敵軍を驚かすように遮る奇策部隊」と補って解読。④も同様に解読。

<④について>
・「敵」の“攻撃する”は、奇策部隊が武力で敵兵達を傷つけて攻め取ることと考察。結果、話の流れに合わせて「武力で攻め取る」と解読。

・「静」は、其五5-3④「静」の「戦闘が無く落ち着き安定しているならば兵士達は平穏である」と同意と考察。これは丸太と石の性質を軍隊の性質に置き換えた道理であることを踏まえ、話の流れに合わせて「その攻め取った敵兵達を戦闘させずに落ち着き安定させて自軍を平穏にする」と解読。

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