其九4-4
獸駭者、覆也。
shòu hài zhě、fù yĕ。
解読文
| ①獣が恐れて散っていく要因は、敵の伏兵が存在することにある。 ②馬が散っていく獣にびっくりすれば、敵の伏兵が存在することを知らせたのである。 ③敵の伏兵による奇襲を恐れる自軍は、敵の伏兵が存在する場所と散っていく獣を詳しく調べるのである。 ④散っていく獣を反転させれば、獣を掻き乱して散らせるのである。 ⑤掻き乱れて散っていく獣は、敵の伏兵をびっくりさせるのである。 ⑥掻き乱れて散っていく獣をあまねく行き渡らせれば、敵の伏兵を掻き乱すのである。 ⑦獣のような残忍さで出撃する自軍は、掻き乱された敵伏兵の逃げ道をあまねく遮るのである。 ⑧奇策部隊が出撃して攻め取る要因は、掻き乱された敵伏兵の逃げ道をあまねく遮ることにある。 |
書き下し文
| ①獣の駭（かい）すは、覆（ふく）あればなり。 ②獣に駭（おどろ）けば、覆（もう）すなり。 ③獣（か）るに駭（おどろ）く者は、覆（しら）べるなり。 ④覆（くつがえ）せば、獣を駭（かい）せしむなり。 ⑤獣は覆なる者を駭（おどろ）かしむなり。 ⑥獣を覆（おお）えば駭（みだ）すなり。 ⑦獣にして駭（かい）する者は、覆（おお）うなり。 ⑧駭（かい）して獣（か）るは、覆（おお）えばなり。 |
＜語句の注＞
| ・「獣」は①②獣、③狩りをする、④⑤⑥獣、⑦獣のように残忍、⑧狩りをする、の意味。 ・「駭」は①恐れる、散る、②馬が何かにびっくりする、③恐れる、④掻き乱す、散る、⑤びっくりする、⑥掻き乱す、⑦⑧起こる・立ち上がる、の意味。 ・「者」は①因果関係「也」に対応した置き字、②仮定表現の助詞、③助詞「もの」、④仮定表現の助詞、⑤助詞「もの」、⑥仮定表現の助詞、⑦助詞「もの」、⑧因果関係「也」に対応した置き字、の意味。 ・「覆」は①伏兵、②知らせる、③詳しく調べる、④ひっくり返す、⑤伏兵、⑥あまねく行き渡らせる、⑦⑧覆い遮る、あまねく行き渡らせる、の意味。 ・「也」は①因果関係を表す助詞、②③④⑤⑥⑦断定の語気、⑧因果関係を表す助詞、の意味。 |
＜解読の注＞
| ・中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡（孫子）」の原文は欠落しているため、孫子（講談社）及び新訂孫子（岩波）の原文に従った。 ・この句には、八通りの書き下し文と解読文がある。①～⑧と付番して、以下、それぞれについて解説する。 ＜①について＞ ・「覆」は“伏兵”は、文意から敵の伏兵とわかるため「敵の伏兵」と補って解読。敵が伏兵を潜ませていることを察知したら回避するのも選択肢の一つだが、其二4-1①「敵する之を取りて利ある者は貨うなり」の教えが優先されるべきであり、敵兵を取得する具体的な方法が②～⑧で記述されている。 ＜②について＞ ・「獣」の“獣”は、①「獣」の「獣が恐れて散っていく」の意味を積み上げていると考察し、「散っていく獣」と解読（以降、同様に解読）。 ・「覆」の“知らせる”は、馬が知らせる事柄として「敵の伏兵が存在することを知らせる」と補って解読。 ＜③について＞ ・「獣」の“狩りをする”は、主語は①②の「覆」の「敵の伏兵」であり、伏兵による“狩り”は奇襲とした。結果、「獣る」で「敵の伏兵による奇襲」と解読。 ・「覆」の“詳しく調べる”対象は、①の「散っていく獣」と「敵の伏兵」と考察。散っていく獣が“どこからどこへ散っていくのか”を掴めば、敵の伏兵が存在する場所が推察できる。敵の伏兵が存在する場所がわかれば、解読文⑦「敵の逃げ道をあまねく遮る」ことが可能となる。 ＜④について＞ ・「覆」は“ひっくり返す”意味から「反転する」と解読。散ってきた獣を反転させることが獣を掻き乱して散らせる理由は、反転した先には敵の伏兵がいるため獣が混乱すると考察した。 ＜⑤について＞ ・「獣」は、④「獣」で記述された「獣を掻き乱して散らせる」意味が積み上げられたと解釈して「掻き乱れて散っていく獣」と補って解読。⑤も同様に解読。 ＜⑥について＞ ・獣が散っていけば敵も同様に、相手の伏兵が隠れていないか警戒するはずである。しかし、掻き乱れて散っていく獣が辺り一面に広がれば、相手の伏兵の隠れている場所の検討がつかなくなると考察した。 ＜⑦について＞ ・「覆」は“覆い遮る”と“あまねく行き渡らせる”の掛け言葉と解釈、あまねく遮る対象は、掻き乱された敵の伏兵の逃げ道と考察できるため「掻き乱された敵伏兵の逃げ道」と補って解読。⑧も同様に解読。 ＜⑧について＞ ・「獣」の“狩りをする”は、其五3-2①「撃」の「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する」を指しており、獲物を「狩る」ことは“奇策部隊が敵部隊を攻め取る”という其五3-2の本意が込められていると考察。結果、「攻め取る」と解読。また、主語として「奇策部隊」と補った。 |
