其の易わらしむ事なせば、其の謀を革めんとするも、民を使わす識は無きなり。

其十一5-2

易其事、革其謀、使民無識。

yì qí shì、gé qí moú、shǐ mín wú shí。

解読文

①敵兵達の耳と目を惑わせる軍事行動を行えば、敵将軍は考えていた計画を変えようとするが、軍隊を動かす指示の目印が無いのである。

②軍隊を動かす指示の目印が無い状態で、差し迫って敵将軍が計画を立て直しても、戦争において敵兵達は混乱するのである。

③戦争において混乱した敵兵達は、敵将軍の考えていた計画の良さを認めても退けるのであり、軍隊は与えられた任務を無視するのである。

④軍隊が与えられた任務を無視した時、敵将軍はその見解を質問するのであり、敵兵達が任務を軽視したと戒めるのである。

⑤敵将軍が任務を軽視したと戒めた時、敵兵達は与えられた任務について質問するが、敵将軍の考えていた計画の良さを認める兵士はいないのである。

⑥敵将軍の考えていた計画の良さを認める兵士がいなければ、敵将軍が与えられた任務の実行を求めても、みくびっている敵兵達は任務を変えるのである。

⑦みくびっている敵兵達が任務を変えれば、敵将軍が兵士達を働かせたつもりでも、無視されていると気付くだろう。

⑧敵将軍が兵士達から無視されていると気付いた時、自軍を出撃させれば、敵兵達は任務を軽視しているのであり、敵将軍の考えていた計画を強制的に取るのである。
書き下し文
①其の易(か)わらしむ事なせば、其の謀を革(あらた)めんとするも、民を使わす識(しるし)は無きなり。

②民を使わす識(しるし)無くして、革(せま)りて其の謀るも、事に其の易(か)わるなり。

③事に易(か)わる其の、其の謀を識(し)るも革(かく)するなり、民は使(し)を無(なみ)するなり。

④民の使(し)を無(なみ)するに、其の識(しき)を謀るなり、其の事を易(あなど)ると革(かく)するなり。

⑤其の事を易(あなど)ると革(かく)するに、其の使(し)を謀るも、識(し)る民は無きなり。

⑥識(し)る民は無ければ、其の使(し)なすを謀るも、易(あなど)る其の事を革(あらた)めるなり。

⑦易(あなど)る其の事を革(あらた)めれば、其の民を使わんと謀るも、無(なみ)されると識(し)らん。

⑧無(なみ)されると識(し)るに、民を使わせば、其の事を易(あなど)るなり、其の謀は革(かく)するなり。
<語句の注>
・「易」は①②③惑う、④⑤軽視する、⑥⑦みくびる、⑧軽視する、の意味。
・1つ目の「其」は①②③④⑤⑥⑦⑧敵の代名詞、の意味。
・「事」は①軍事行動、②③戦争、④⑤⑥⑦⑧任務、の意味。
・「革」は①変える、②差し迫ったさま、③退ける、④⑤戒める、⑥⑦変える、⑧除く、の意味。
・2つ目の「其」は①②③④⑤⑥⑦⑧敵の代名詞、の意味。
・「謀」は①計画、②計画する、③計画、④⑤質問する、⑥求める、⑦つもりでいる、⑧計画、の意味。
・「使」は①②出向かせる、③④⑤⑥使命、⑦働かせる、⑧出向かせる、の意味。
・「民」は①②③④⑤⑥⑦⑧庶民、の意味。
・「無」は①②無い、③④無視する、⑤⑥無い、⑦⑧無視する、の意味。
・「識」は①②目印、③良さを認める、④見解、⑤⑥良さを認める、⑦⑧気付く、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「其の易えしむ事なす」の直訳は“敵を惑わせる軍事行動を行う”となる。これは其十一5-1①「有能な将軍は、敵兵達の耳と目を劣った状態にするのであり、与えられた任務を蔑ろにする状態に変えるのである」を実現する軍事行動を指すと考察。結果、「敵兵達の耳と目を惑わせる軍事行動を行う」と補って解読。

・「謀」の“計画”は、文意より其七6-1①「敵全軍を統率する敵将軍からは考えていた計画を強制的に取るのが良い」を実行した状態と考察できる。結果、「考えていた計画」と補って解読。③⑧も同様に解読。

・「民を使わす識」の直訳は“庶民を出向かせる目印”となる。この“目印”を其七5-3④「褒賞の品と指示の目印を示す将軍は、軍隊の各隊長にこれを伝えるのであり、太鼓の音と旗印に集中させた兵士達に対して兵士達を力づける道理を使って羊の集まりを導くように軍隊を動かすのである」の「指示の目印」を指すと考察。結果、「軍隊を動かす指示の目印」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・「謀」の“計画する”は、元々考えていた計画を台無しにされた敵将軍が改めて計画を立て直すことと考察。結果、「計画を立て直す」と解読。

・「易」の“惑う”は、敵兵達の心が乱れて混乱することと解釈。結果、「混乱する」と言い換えた。

<③について>
・特に無し。

<④について>
・特に無し。

<⑤について>
・「識」の“良さを認める”は、③「識」の「敵将軍の考えていた計画の良さを認める」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵将軍の考えていた計画の良さを認める」と補って解読。⑥も同様に解読。

<⑥について>
・特に無し。

<⑦について>
・特に無し。

<⑧について>
・「無されると識る」の直訳は“無視されると気付く”となる。これは⑦「敵将軍が兵士達を働かせたつもりでも、無視されていると気付く」の意味を積み上げていると考察。「敵将軍が兵士達から無視されていると気付く」と解読。

・「民を使わす」の直訳は“庶民を出向かせる”となる。これは、敵将軍が兵士達から無視されていると気付いた将軍が軍隊を出撃させることと考察。結果、「自軍を出撃させる」と補って解読。

・「其の謀は革する」は、「謀」は「考えていた計画」と解釈すれば“敵の考えていた計画を除く”となる。これは、其七6-1①「敵将軍からは考えていた計画を強制的に取る」を指すと考察。結果、「敵将軍の考えていた計画を強制的に取る」と解読。

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