声は五を過ぎること不く、五の声あるに之るは変なり、勝るものも聴く可からざるなり。

其五2-5

聲不過五、五聲之變、不可勝聽也。

shēng bù guò wŭ、wŭ shēng zhī biàn、bù kĕ shèng tīng yĕ。

解読文

①声調は、四声の四種類しかないため五種類を超えることは無く、五番目の声調が出現する事態は異変であり、五種類を超える声調を耳で聴くことはできないのである。

②五種類を超えるものはその存在を公言することが無い生きたまま敵を取得する奇策部隊の間者であり、敵に異変が生じる噂の真偽について考察させること無く、敵軍を既に滅ぼされた状態に追い込むことができる。

③生きたまま敵を取得する奇策部隊の間者が物音を立てる過ちは大いに責めるのである。何度も訴えて物音を立てる行動を改めさせる時、間者が大いに勧告に従えば忍ぶ長所ができるのである。

④物音を立てない生きたまま敵を取得する奇策部隊の間者は、何度も正攻法部隊が敵部隊を誘導してくる状況を伺い、大いに打ち破らなければならず、攻め取った敵兵に真心ある自国の良い評判を伝えて自国に寝返らせるのである。
書き下し文
①声は五を過ぎること不(な)く、五の声あるに之(いた)るは変なり、勝(まさ)るものも聴く可からざるなり。

②五を過ぎるものは声(の)べること不(な)き五なり、変ある声に聴かしむこと不(な)く、勝(しょう)たらしむ可きなり。

③五の声あること不(おお)いに過(とが)めるなり。五たび声(な)らして之を変えしむに、不(おお)いに聴(したが)えば勝(た)える可あるなり。

④声不(な)き五は、五たび過(あた)えること聴き、不(おお)いに勝つ可し、声を之(もち)いて変えしむなり。
<語句の注>
・1つ目の「声」は①声調、②公言する、③④物が発生させる音、の意味。
・1つ目の「不」は①②無い、③大いに、④無い、の意味。
・「過」は①②超える、③過ちを責める、④人に物を渡す、の意味。
・1つ目の「五」は①②数の名、③④五番目という序数、の意味。
・2つ目の「五」は①②五番目という序数、③④何度も、の意味。
・2つ目の「声」は①声調、②噂、③訴える、④良い評判、の意味。
・「之」は①ある地点や事情に達する、②助詞「の」、③代名詞、④使う、の意味。
・「変」は①②異変、③(本来の状態や形を異にする)改める、④謀反を起こす、の意味。
・2つ目の「不」は①~しない、②無い、③④大いに、の意味。
・「可」は①②~できる、③長所、④~しなければならない、の意味。
・「勝」は①越える、②既に滅ぼされたさま、③忍ぶ、④敵を打ち破る、の意味。
・「聴」は①耳で音や話を聴く、②考察する、③勧告や意見に従う、④伺う、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「声」の“声調”は、中国語における発音の高低・上がり下がりであるため「四声」しかない。その意味がわかるように「声は五を過ぎること不し」は「声調は四声の四種類しかないため五種類を超えることは無い」と補って解読。

・「勝」の“越える”は、「過」の「五種類を超える」と同意と考察し、「五種類を超える」と補って解読。

<②について>
・「五」の “五番目という序数”は、其十二2-2①で五番目に記述された「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察。但し、其五2-5は「奇策部隊」としての任務内容が主体になっているため、「生きたまま敵を取得する奇策部隊の間者」と補う。③④1つ目の「五」も同様に解読。
補足だが、「生きたまま敵を取得する間者」は「奇策部隊」に所属される(用閒篇、火攻篇を参照)。

<③について>
・「之」は、「声ある」の「物音を立てる」を指示する代名詞と考察し、「物音を立てる行動」と解読。

<④について>
・「過」の“人に物を渡す”は、其五1-3③「受」で記述された「自軍の正攻法部隊を軽んずる敵部隊を誘導する」を指すと考察。結果、「正攻法部隊が敵部隊を誘導する」と解読。

・2つ目の「声」の“良い評判”は、奇策部隊が攻め取った敵兵を自国に寝返らせるための評判であるため、其五2-2④「君主が治める領土に行けば貧しい人民は存在せず、人口の水路をつくって大きい湖をつくるに等しく産業を興して人民がどんどん収入を増やして豊かな里等をつくり、人民が願い出る事柄が無ければ、攻め取られた敵兵達は自国を賛美して敵国から離反するのである」や其九6-1⑦「広まった真心のある法規や決まりによって敵国の人民を教え導けば、その人民は奴隷と共に降服してくるのである」で説かれる、自国の豊かさや真心のある法規や決まりが評判の内容になると考察。結果、簡潔に「真心ある自国の良い評判」と解読。

・「変」の“謀反を起こす”は、奇策部隊が攻め取った敵兵を寝返らせることと考察し、使役形で「自国に寝返らせる」と解読。なお、文意をわかりやすくするため「攻め取った敵兵」と補った。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。