善なる者の奇の出だすに、天と地の如く窮まること無きなり、河の海の如くして无されること謁うなり。

其五2-2

善出奇者、無窮如天地、无謁如河海。

shàn chū qí zhě、wú qióng rú tiān dì、wú yè rú hé hǎi。

解読文

①思いやりのある優れた将軍が奇策部隊の戦術を立てる時は、変化する自然の摂理と様々な種類がある場所のようにその変化と種類は尽き果てることが無いのであり、銀河のまとまりに等しく存在を意識されないようにして敵軍に無視されることを奇策部隊に求めるである。

②奇策部隊を無視する敵軍を生み出す良い方法は、ひたすら意識されない天体現象の通りにする方法を詳しく研究し尽くすのである。人口の水路をつくることは大きい湖をつくることに匹敵するのであり、同様に奇策部隊が敵を攻め取ってどんどん兵士数を増やすことが大軍をつくることに匹敵することを説明するのである。

③奇策部隊を出現させる時、熟練している将軍は、敵軍に当惑させること無く、ひたすら自軍を侮って気が緩んだ状態に至らせる。敵将軍と面会して、人口の水路をつくって大きい湖をつくるに等しくどんどん礼物を捧げて大きな利益を与えれば自軍を侮らせるのである。

④君主が治める領土に行けば貧しい人民は存在せず、人口の水路をつくって大きい湖をつくるに等しく産業を興して人民がどんどん収入を増やして豊かな里等をつくり、人民が願い出る事柄が無ければ、攻め取られた敵兵達は自国を賛美して敵国から離反するのである。
書き下し文
①善なる者の奇の出だすに、天と地の如く窮(きわ)まること無きなり、河の海の如くして无(なみ)されること謁(こ)うなり。

②奇を無(なみ)する者を出だす善は、地(た)だ无(なみ)される天の如くすること窮(きわ)めるなり。河なすは海あるに如(し)くこと謁(つ)げるなり。

③奇を出(い)でしむに、善(よ)くする者は、窮(きわ)めること無く、地(た)だ天に如(ゆ)かしむ。謁(まみ)えて河なして海ある如くすれば无(なみ)せしむなり。

④天の地に如(ゆ)けば窮(きわ)まる者は無し、河なして海ある如くし、謁(こ)うこと无(な)ければ、奇は善(よみ)して出(い)づなり。
<語句の注>
・「善」は①思いやりのあるさま、優れているさま、②良い方法、③熟練している、④賛美する、の意味。
・「出」は①策を立てる、②生む、③現れる、④関係を断ち切る、の意味。
・「奇」は①②③其五1-3①「奇」、④端数、の意味。
・「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「無」は①無い、②無視する、③④無い、の意味。
・「窮」は①尽き果てる、②詳しく研究し尽くす、③当惑させる、④貧しいさま、の意味。
・1つ目の「如」は①~のようである、②その通りにする、③④至る、の意味。
・「天」は①其一2-4①「天」、②天体現象、③昼間、④仰ぎ頼る対象、の意味。
・「地」は①其一2-5①「地」、②③ひたすら、④領土、の意味。
・「无」は①②無視する(「無」より)、③蔑ろにする(「無」より)、④存在しない、の意味。
・「謁」は①求める、②説明する、③目上の人に面会する、④請求する、の意味。
・2つ目の「如」は①等しくする、②匹敵する、③④等しくする、の意味。
・「河」は①銀河、②③④土地を開いて通した人口の水路、の意味。
・「海」は①同類の人や物が数多く集まって形成したまとまり、②③④大きい湖、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「故善出奇者、無窮如天地、无竭如河海。」と「謁」を「竭」とし、「故」が入るが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「善」は、其三1-2①2つ目の「」と同様に“思いやりのあるさま”と“優れているさま”の掛け言葉として解読した。

・「天と地の如く」の直訳は“自然の摂理と場所のようである”となる。これが“奇策部隊の戦術の在り方”を喩えていると考察。
「天」の“自然の摂理”について、其一2-4①「自然の摂理とは、日陰と日なたがあり、寒い日と暑い日があり、時間の流れをつくるのである。順応して推し量れば、優れた戦略、戦術ができるのである」に基づいて、“順応して推し量れば、優れた戦略、戦術ができる”に着眼すると、この順応して推し量るものは、時間の流れによる「変化」だと考察できる。この「変化」は“奇策部隊の戦術の在り方”の一つであると解釈し、「天」の“自然の摂理”は「変化する自然の摂理」と補って解読。
次に、「地」の“場所”について、其一2-5①「場所とは、高い場所と低い場所があり、広い場所と狭い場所があり、遠い場所と近い場所があり、地勢が険しい場所と平坦な場所があり、命を失う場所と生存する場所があるのである」を確認すると、場所には「様々な種類」があることがわかる。この「様々な種類」も“奇策部隊の戦術の在り方”の一つであると解釈し、「地」の“場所”は「様々な種類がある場所」と補って解読。
これら「天」と「地」の解釈の結果、「変化する自然の摂理と様々な種類がある場所のようである」と解読

・「窮まること無し」の直訳は“尽き果てることが無い”となる。これは「変化する自然の摂理と様々な種類がある場所のようである」に続く記述であるため、“奇策部隊の戦術の在り方が尽き果てることが無い”と補える。そして、“在り方”とは「変化と種類」であるため、「その変化と種類は尽き果てることが無い」と解読できる。

・「河の海の如くする」の直訳は“銀河のまとまりに等しくする”となる。この“銀河のまとまり”は、“存在するがその存在を意識することがない”のが特徴である。これは、其七4-2①「動かざること山の如く」の「奇策部隊が動かず静止したまま存在に気付かれない様子はまるで高くそびえた山の存在に注目する人がいない様子に等しい」の喩えで用いられている「山」同様に、“奇策部隊が敵部隊を待ち受ける在り方”の喩えになっていると考察。結果、「銀河のまとまりに等しく存在を意識されないようにする」と解読。

・「无」は漢字「無」と同じと解釈。ここでは「無」の“無視する”意味を採用した。②も同様に解読。

<②について>
・「地だ无される天の如く」の直訳は“ひたすら無視される天体現象の通りにする”となる。これは、①「銀河のまとまりに等しく存在を意識されない」と同意と考察。結果、表現を統一するため「ひたすら意識されない天体現象の通りにする」と解読。

・「河なすは海あるに如く」の直訳は“土地を開いて通した人口の水路をつくることは大きい湖をつくることに匹敵する”となる。“土地を開いて通した人口の水路”は、其四4-4①「洫」の“耕作地の用水路”と同意と考察できるため、「どんどん兵士数が増えていく」状態を喩えていると解釈できる。そして、水が兵士(人民)の喩えになっているため“大きい湖”は「大軍」を喩えていると解釈できる。つまり、「奇策部隊が敵を攻め取って兵士数をどんどん増やすことは大軍をつくることに匹敵する」ことを説いたとわかる。結果、教えの意図がわかるように「人口の水路をつくることは大きい湖をつくることに匹敵するのであり、同様に奇策部隊が敵を攻め取ってどんどん兵士数を増やすことが大軍をつくることに匹敵する」と解読。

<③について>
・「天」の“昼間”は、其七6-2②「昼間の緩んだ士気は敵を侮る」の意味を指すと考察し、「自軍を侮って気が緩んだ状態」と解読。

・「河なして海ある如くする」の直訳は“土地を開いて通した人口の水路をつくって大きい湖をつくるに等しくする”となる。まず、 “土地を開いて通した人口の水路”は、其四4-4①「洫」等の“耕作地の用水路”と同意と考察すれば、“どんどん増えていく“特徴が何かを喩えていると解釈できる。その何かは、其十一6-10②「背中が曲がった小さい使者の使命は、礼物を捧げて、敵人民に自軍をひたすら侮らせることである」等の記述に基づけば、「礼物」だとわかる。結果、「どんどん礼物を捧げる」と解読。この解釈より、この喩え表現に登場する「水」は”利益”を指すと考察できるため、” 大きい湖“は「大きな利益」となる。結果、「人口の水路をつくって大きい湖をつくるに等しくどんどん礼物を捧げて大きな利益を与える」と解読。

・「謁」の“目上の人に面会する”は、自軍から敵軍の“目上の人”に面会する意味。この“目上の人”は敵将軍と考察し、言い換えた。

・「无」は漢字「無」と同じと解釈。ここでは「無」の“蔑ろにする”意味を採用した。

④について>
・「天の地」の直訳は“仰ぎ頼る対象の領土”となる。攻め取った敵兵達が仰いで頼りにする相手の領土であるため、「君主が治める領土」

・「河なして海ある如くする」は、の直訳は“土地を開いて通した人口の水路をつくって大きい湖をつくるに等しくする”となる。其十二1-1④「全ての人民を極めて栄えさせる要旨は、産物をつくる技能に優れた者を、必ず自国に従わせた元敵里に住ませて、元敵人民を産物の生産に励み努力させることで財貨を生み出すからである」に基づけば、“土地を開いて通した人口の水路”の“水路”は「産業」と解釈できるため、「産業によって人民がどんどん収入を増やす」ことを喩えると考察。” 大きい湖“は、”どんどん収入を増やす人民“集合体であるため「豊かな里等」と解読。結果、「人口の水路をつくって大きい湖をつくるに等しく産業を興して人民がどんどん収入を増やして豊かな里等をつくる」と解読。

・「奇」の”端数“は、其五1-3③「奇」の「獲物となる敵部隊」と同意と考察するが、既に奇策部隊に攻め取られた後の内容であるため「攻め取られた敵兵達」と解読。

・「出」の“関係を断ち切る”は、「攻め取られた敵兵達」が敵国との関係を断ち切ることと考察。結果、「敵国から離反する」と解読。

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