味は五あるも過えざるなり、五たび味わえば之も変わり、勝げて嘗める可からざるなり。

其五2-7

味不過五、五味之變、不可勝嘗也。

wèi bù guò wŭ、wŭ wèi zhī biàn、bù kĕ shèng cháng yĕ。

解読文

①舌で物を舐めた時の感覚には“酸っぱさ・辛さ・塩辛さ・甘さ・苦さ”の五種類あるが他人にその感覚は渡せないのであり、何度も味わえばその感覚も変化するため、その全てを味わうことはできないのである。

②他人に渡せない舌で物を舐めた時の感覚は“道、天、地、将、法”五つの教えのことであり、その全てを実践で経験するべきであり、何度も五つの教えを使えば元々の理解を改めて、その真意を大いに悟るのである。

③“道、天、地、将、法”五つの教えを何度も実践して悟る意義は、大いに自軍を優勢にすることである。自軍を優勢にすることができれば大いに敵人民を自国に寝返らせて、多くの兵士を得るのである。

④“道、天、地、将、法”五つの教えについて悟ることが無ければ欠点となって、突然に起こって抑制できない重大事件を経験するのであり、“道、天、地、将、法”五つの教えに対する理解を改めるのである。
書き下し文
①味は五あるも過(あた)えざるなり、五たび味わえば之も変わり、勝(あ)げて嘗(な)める可からざるなり。

②過(あた)えざる味は五なり、勝(あ)げて嘗(な)める可し、五たび之(もち)いれば変えて不(おお)いに味わうなり。

③五を五たび之(もち)いて味わう味は、不(おお)いに過ぎるなり。勝(まさ)る可くすれば不(おお)いに変ぜしめて嘗(しょう)なり。

④五を味わうこと不(な)ければ過(あやま)ちたりて、勝つ可からからざる変を嘗(な)めるなり、五に味わうこと之(ゆ)くなり。
<語句の注>
・1つ目の「味」は①②舌で物を舐めた時の感覚、③意義、④悟る、の意味。
・1つ目の「不」は①②~しない、③大いに、④無い、の意味。
・「過」は①②人に物を渡す、③越える、④とが、の意味。
・1つ目の「五」は①数の名、②③④其一1-2①「五」、の意味。
・2つ目の「五」は①②③何度も、④其一1-2①「五」、の意味。
・2つ目の「味」は①味を知る、②③悟る、④理解する、の意味。
・「之」は①代名詞、②③使う、④変わる、の意味。
・「変」は①②(本来の状態や形を異にする)改める、③謀反を起こす、④突然に起こる重大事件、の意味。
・2つ目の「不」は①~しない、②③大いに、④~しない、の意味。
・「可」は①~できる、②~すべきである、③④~できる、の意味。
・「勝」は①②全部、③越える、④抑制する、の意味。
・「嘗」は①味わう、②経験する、③秋の収穫祭、④経験する、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目の「五」は、「“酸っぱさ・辛さ・塩辛さ・甘さ・苦さ”の五種類」と解読。の根拠は、漢辞海に掲載されている「五味」に“酸(すっぱい)・辛(辛い)・鹹(塩辛い)・甘(甘い)・苦(苦い)”の「五種類の味」の意味があることに基づく。

・「之」は、1つ目の「味」の「舌で物を舐めた時の感覚」を指示する代名詞と考察し、「その感覚」と解読。

<②について>
・1つ目の「五」は、其一1-2①「災いを減らすために五つの教えを認めて使う」であり、具体的に「“道、天、地、将、法”五つの教え」と解読。③④1つ目の「五」及び④2つ目の「五」も同様に解読。

・「変えて不いに味わう」の直訳は“改めて大いに悟る”となる。改めるものは、元々の「“道、天、地、将、法”五つの教え」に対する理解であり、悟るものは「“道、天、地、将、法”五つの教え」の真意と考察。結果、「元々の理解を改めて、その真意を大いに悟る」と解読。

・「嘗」の“経験する”は、其一2-6①「知」の「実践できる知恵」を身につけることを間接的に説くと考察し、「実践で経験する」と補って解読。

<③について>
・「過」及び「勝」の“越える”は、自軍が敵軍よりも優勢になった状態を指すと考察し、「自軍を優勢にする」と解読。

・「変」の“謀反を起こす”は、敵軍よりも優勢な自軍を見た敵人民が自国に寝返ることと考察し、使役形で「敵人民を自国に寝返らせる」と解読。なお、“敵兵達”としなかった理由は、自国に寝返る相手には敵国の里等に住んでいる人民も含まれると考察したためである。

・「嘗」の“秋の収穫祭”は、其五2-4③「次に訪れる季節に向けて土の中に隠れている植物が生育して元の状態に戻るように、正攻法部隊の中で消耗した部隊が生じた時は戦線から離脱させて兵士達を回復させて立て直す」を参考にして、自国に寝返った敵人民が“新たに得た植物“と仮定すれば、その植物が実って収穫を得た結果が“秋の収穫祭”だと言える。結果、自国に寝返った敵人民が服従して自軍の兵士に育つことの喩えと考察し、「多くの兵士を得る」と解読。

<④について>
・「之」の“変わる”は、②「何度も五つの教えを使えば元々の理解を改めて、その真意を大いに悟る」の「改める」と同意と考察し、「改める」と言い換えた。

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