我は槫して壱と為して、適は分けしめて十たら為むは、十たる是を以いて壱を撃てばなり。

其六4-2

我槫而為壹、適分而為十、是以十擊壹也。

wǒ tuán ér wéi yī、shì fēn ér wéi shí、shì yǐ shí jī yī yĕ。

解読文

①自軍を集合させて一と見なして、敵軍は分断させて十分の一にさせる理由は、全部隊が揃った自軍を使って敵部隊の一つを敵本軍から断ち切るからである。

②敵本軍から分断された敵部隊を自軍の兵士数の十分の一と見なせば、将軍は、自軍に、逃亡したい気持ちが生じれば兵士達の心から戦う気持ちが消えていくことをお手本にして敵部隊に危険を感じさせて恐れ震えさせることに集中させるのであり、恐れ震えている敵部隊が極限状態に達して動きを止めれば全て武力で攻め取るのである。

③敵本軍から分断された敵部隊を羊の集まりのように導くための将軍による兵士達への褒賞があれば敵部隊を自軍の側に集めるのであり、恐れ震えている敵部隊が極限状態に変われば、兵士数が敵部隊の十倍ある奇策部隊を使って全て武力で攻め取るのである。

④兵士数が敵部隊の十倍ある奇策部隊を使って恐れ震えている敵部隊全てを武力で攻め取るに至れば、将軍は攻め取った敵兵達を治療して自国に服従する者を見分け、自軍に編制して統一するのである。
書き下し文
①我は槫(たん)して壱と為(な)して、適は分けしめて十たら為(し)むは、十たる是を以(もち)いて壱を撃てばなり。

②分かれる適を而(なんじ)の十と為(な)せば、而(なんじ)は我に槫(たん)せしむこと壹(いつ)なら為(し)めむなり、是は十たりて以(や)めれば壱(いつ)に撃(げき)するなり。

③分かれる適を壹(いつ)にする而(なんじ)の為(しわざ)あれば而(すなわ)ち我に槫(たん)するなり、是の十たるに為(な)せば十を以(もち)いて壱(いつ)に撃(げき)するなり。

④十を以(もち)いて壱(いつ)に撃(げき)するに是(ゆ)けば、而(なんじ)は十を為(おさ)めて適(したが)うものを分け、我に槫(たん)して壹(いつ)に為(せ)しむなり。
<語句の注>
・「我」は①②③④自分の側、の意味。
・「槫」は①集める、②円い、③④集める、の意味。
・1つ目の「而」は①順接の関係を表す接続詞、②あなた、③条件関係の接続詞、④順接の関係を表す接続詞、の意味。
・1つ目の「為」は①見なす、②~させる、③行い、④~させる、の意味。
・1つ目の「壱」は①「一」の大字、②専一にする、③画一にする、④統一する、の意味。
・「適」は①②③敵、④順応する、の意味。
・「分」は①別々にする、②③離れる、④見分ける、の意味。
・2つ目の「而」は①順接の関係を表す接続詞、②③④あなた、の意味。
・2つ目の「為」は①~させる、②見なす、③変わる、④治療する、の意味。
・1つ目の「十」は①②十分の一、③極限にまで達しているさま、④十分の一、の意味。
・「是」は①②③代名詞、④至る、の意味。
・「以」は①使用する、②留める、③④使用する、の意味。
・2つ目の「十」は①完全なさま、②極限にまで達しているさま、③④十倍、の意味。
・「撃」は①断ち切る、②③④強奪する、の意味。
・2つ目の「壱」は①「一」の大字、②③④全て、の意味。
・「也」は①因果関係を表す助詞、②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「我專而為壹、敵分而為十、是以十擊壹也。」と「槫」を「專」とし、「適」を「敵」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「我」の“自分の側”は、軍隊における“自分の側”と考察し、「自軍」と解読。②③④も同様に解読。

・「分」の“別々にする”は、軍隊を複数の部隊に分断することと考察。結果、「分断する」と解読。

・「壱を撃つ」の直訳は“一つを断ち切る”となる。この“一つ”は、分断させて十分の一になった敵と考察すれば、「敵部隊の一つを敵本軍から断ち切る」と解読できる。なお、其三3-1②「敵軍を包囲する時はその十倍規模の軍隊にする」に基づけば、敵部隊を包囲して分断させるのだと解釈できる。

・「是」は、「我」の「自軍」を指示する代名詞と解読。

・2つ目の「十」の“完全なさま”は、全部隊を集合させた自軍の状態と考察し、「全部隊が揃った」と解読。

<②について>
・「槫」の“円い”は、文字通り「まるい」形状を表現しているのではなく、其五5-3⑧「円ければ行くに則れば危ばしめて則ち動けばなり」の「逃亡したい気持ちが生じれば兵士達の心から戦う気持ちが消えていくことをお手本にすれば敵軍に危険を感じさせるやいなや敵兵達は恐れ震えるのである」の意味を積み上げていると考察。これを実行する相手は、解読文①で十分の一にさせた敵部隊と解釈できるため、使役形で「逃亡したい気持ちが生じれば兵士達の心から戦う気持ちが消えていくことをお手本にして敵部隊に危険を感じさせて恐れ震えさせる」と解読。

・「分かれる適」の直訳は“離れた敵”となる。これは、敵本軍から断ち切った敵部隊の一つと考察。結果、「敵本軍から分断された敵部隊」と解読。③も同様に解読。

・1つ目の「十」の“十分の一”は、敵部隊と比した自軍の兵士数の規模を表すと考察。結果、「兵士数が十分の一」と補って解読。

・「是」は、「適」の「敵本軍から分断された敵部隊」を指示する代名詞と考察するが、話の流れより恐れ震えている状態と解釈し、「恐れ震えている敵部隊」と解読。③も同様に解読。

・「撃」の“強奪する”は、武力によって敵部隊を攻め取ることと考察。結果、「武力で攻め取る」と言い換えた。③④も同様に解読。

<③について>
・「壹にする而の為」の直訳は“(敵部隊を)画一にするあなたの行い”となる。これは、其六4-1②「苦痛から逃げ出す道理を使って敵兵達を自軍の側に集めるように逃亡させるのである」を実現するのであり、その実現のために其六4-1③「思いやりのある褒賞の決まりに賛美して苦痛から逃げ出さずに服従することをお手本にして、敵兵達に苦痛から逃げ出す道理を働かせるのである」を実行することと考察。実行した結果、敵部隊は其十一5-5⑥「羊の集まりを導くように軍隊を動かす」状態に達すると解釈できるため、「(敵を)羊の集まりのように導くための将軍による兵士達への褒賞」と解読。

・2つ目の「十」の“十倍”は、「恐れ震えている敵部隊」を攻め取る部隊の兵士数は、敵部隊の十倍規模が必要と説いたと考察。これは其三3-1①「十倍であれば敵軍を包囲する」の教えに基づいて、「恐れ震えている敵部隊」を包囲するだけで攻め取るのだと解釈できる。また、敵部隊を攻め取る役割を担うため奇策部隊だと考察し、「兵士数が敵部隊の十倍ある奇策部隊」と解読。④も同様に解読。

<④について>
・2つ目の「壱」の“全て”は、「恐れ震えている敵部隊」の敵兵全てと考察。結果、「恐れ震えている敵部隊全て」と補って解読。

・1つ目の「十」の“十分の一”は、敵本軍から分断させて十分の一となった「恐れ震えている敵部隊」を指すと考察。ここでは奇策部隊が攻め取った後に敵兵達を治療する文意であるため、「攻め取った敵兵達」と解読。

・「我に槫する」の“自軍に集める”は、「攻め取った敵兵達」を自国に服従する者と服従しない者に分別した上で自軍に編制することと考察。結果、簡潔に「自軍に編制する」と解読。なお、「攻め取った敵兵達」を編制する方法については其三1-1で記述されている。

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