其九2-4
上雨水、水流至、止涉。侍其定也。
shàng yŭ shuǐ、shuǐ liú zhì、zhǐ shè。shì qí dìng yĕ。
解読文
| ①山頂で雨が降って氾濫して、河川の流れが極限にまで至った時、徒歩で川を渡ることを禁じるのである。将軍はこのように軍律を規定しておくのである。 ②雨が降って河川の流れが極限にまで至れば、河川の傍を水没させるのである。しかし、あてもなく歩き回る兵士達が存在すれば、諫言して必ず引き止めるのである。 ③周到に行き届いた将軍は、山頂で雨が降って氾濫する時は河川から移動して宿営するのであり、このように時間を経過させて河川の流れを安定させるのである。 ④周到に行き届いた将軍は、敵将軍に河川を選ばせて宿営させることを予め決めた上で、敵組織内部と親しく交流する間者を使って敵軍に進入させるのであり、山頂で雨が降って氾濫した時は、自軍は高い所に移動して敵軍を水没させるのである。 |
書き下し文
| ①上に雨ふりて水たりて、水の流（りゅう）の至るに、涉（わた）ること止（とど）めるなり。侍（じ）は其れ定めるなり。 ②雨ふりて流（りゅう）の至れば、水の上を水にするなり。其れ、涉（わた）るものあれば、侍（すす）めて定（かなら）ず止（とど）めるなり。 ③至る侍（じ）は、上に雨ふりて水たるに水より流（なが）れて止（とど）まるなり、其れ涉（わた）らしめて定めるなり。 ④至るものは、水を流（もと）めしめて止（とど）まらしむこと定めて、侍（じ）をして其の涉（わた）らしむなり、雨ふるに上がりて水にするなり。 |
＜語句の注＞
| ・「上」は①いただき、②傍、③いただき、④低い所から高い所へ至る、の意味。 ・「雨」は①②③④雨が降る、の意味。 ・１つ目の「水」は①水の氾濫、②河川、③水の氾濫、④水没させる、の意味。 ・２つ目の「水」は①河川、②水没させる、③④河川、の意味。 ・「流」は①②川の流れ、③移動する、④選ぶ、の意味。 ・「至」は①②極限にまで至る、③④周到に行き届いたさま、の意味。 ・「止」は①禁ずる、②引き止める、③④宿る、の意味。 ・「涉」は①徒歩で川を渡る、②そぞろ歩きをする、③経過する、④進入する、の意味。 ・「侍」は①私、②進言や諫言をする、③私、④目上の人に仕える人、の意味。 ・「其」は①このように、②しかし、③このように、④敵の代名詞、の意味。 ・「定」は①規定する、②きっと、③安定させる、④予め決めておく、の意味。 ・「也」は①②③④断定の語気、の意味。 |
＜解読の注＞
| ・孫子（講談社）の原文は「上雨水、水流至、止涉待其定也。」と「侍」を「待」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡（孫子）」の原文に従った。 ・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。 ＜①について＞ ・「上」の“いただき”は、文意より山の一番高い所の意味と解釈できるため、「山頂」と解読。③も同様に解読。 ・「侍」の“私”は、文意より「孫武」を指すとも解釈し得るが、軍律等を定める存在と考察できるため「将軍」と解読。③も同様に解読。 ・「定」の“規定する”は、其一2-7②「法」の「法規」を規定することと考察。但し、ここでは軍隊に対する「法規」が主であるため「軍律」に限定し、「軍律を規定する」と解読。 ＜②について＞ ・「涉」の“そぞろ歩きをする”は、あてもなく歩きまわる意味であるため、「涉るもの」で「あてもなく歩きまわる兵士達」と解読。 ＜③について＞ ・「定」の“安定させる”の対象は、話の流れより極限にまで至った河川の流れと考察できる。結果、「河川の流れを安定させる」と補って解読。 ＜④について＞ ・「至るもの」は、③「至る侍」の「周到に行き届いた将軍」と同意と考察。結果、「周到に行き届いた将軍」と解読。 ・「侍」の“目上の人に仕える人”は、「周到に行き届いた将軍」が敵軍に進入させている者であり、其十二2-8④「脇道から敵組織内部に入り込む間者は、妾が従わせた敵役人のつてで優れた人物として官職につくのであり、自軍の将軍が考えている方針や戦略、戦術に上手く適合させる存在となるのである」の役割を担う間者と考察できる。つまり、其十二2-2①「敵組織内部と親しく交流する間者」が該当する。結果、「敵組織内部と親しく交流する間者」と解読。 ・「雨」の“雨が降る”は、①「上に雨ふりて水たり」の「山頂で雨が降って氾濫する」の意味を積み上げていると考察。結果、「山頂で雨が降って氾濫する」と解読。 ・１つ目の「水」の“水没させる”は、其六6-1⑤「人民達を傷つけて殺す水の氾濫は、水没させて兵士達を戦死させる」に関連すると考察。結果、「敵軍を水没させる」と補って解読。 |
