吏は強くして卒の弱きは、陷と曰う。

其十2-5

吏強卒弱、曰陷。

lì qiáng zú ruò、yuē xiàn。

解読文

①役人の立場が強くて兵士の立場が弱い状態は、兵士達を窮地に追い込む災い「陥」と名付ける。

②立場の強い役人は、脆い「虚」の状態になった自軍の兵士達に「町や砦を攻め落とせ」と言って無理にやらせるのである。

③町や砦に突入することを無理にやらせた立場の強い役人に対して、兵士達は「窮地に追い込まれて敗れた」と言うのである。

④「欠点があって脆い「虚」の状態になり、自軍は尽き果てる」と説く者を役人にすれば、兵士の立場を強くして軍隊を強化するのである。
書き下し文
①吏(り)は強くして卒(そつ)の弱きは、陷(かん)と曰う。

②吏(り)は、弱き卒(そつ)に陥(おとしい)れろと曰いて、強(し)いるなり。

③陥(おちい)ること強(し)いる吏(り)に、卒(そつ)は弱めると曰うなり。

④陷(かん)ありて弱くして卒(お)わると曰うものを吏(り)とすれば、強めるなり。
<語句の注>
・「吏」は①②③役人の通称、④役人にする、の意味。
・「強」は①力があるさま、②③無理にやらせる、④強化する、の意味。
・「卒」は①②③兵士、④尽き果てる、の意味。
・「弱」は①気力や勢力がないさま、②脆く柔らかいさま、③敗れる、④脆く柔らかいさま、の意味。
・「曰」は①~と名付ける、②③~と言う、④~と説く、の意味。
・「陥」は①人を罪や窮地に追い込む、②町や砦を攻め落とす、③突入する、④欠点、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「強」の“力があるさま”と、「弱」の“気力や勢力がないさま”は、軍組織内における力関係を説くと解釈できるため、それぞれ「立場が強い」、「立場が弱い」と補って解読した。

・「陥」の“人を罪や窮地に追い込む”は、其十2-1①「陥」の「兵士達を窮地に追い込む災い「陥」」の意味を積み上げていると考察。結果、「陥」で「兵士達を窮地に追い込む災い「陥」」と解読。

<②について>
・「吏」の“役人の通称”は、①「吏」の「役人の立場が強い」の意味を積み上げていると考察。結果、「立場の強い役人」と補って解読。③も同様に解読。

・「卒」の“兵士”は、文意よりも軍隊の意味合いが含まれていることを踏まえて、「自軍の兵士達」と補って解読。

・「弱」の“脆く柔らかいさま”は、其五1-4①「戦略、戦術を使って敵軍を凌駕する道理は、自分の方に投げられた脆い卵を目にとめて固い木槌で打つに等しく自軍に向かって来る脆い敵軍を認識して固い自軍で打ち破るのであり、充実して堅固な“実”と虚弱な“虚”の正確な判断をするからである」で記述された“脆い敵軍”から類推すれば、虚実の「虚」となった自軍を説くと考察。結果、「脆い「虚」の状態になる」と解読。④も同様に解読。

<③について>
・「陥」の“突入する”は、②「脆い「虚」の状態になった自軍の兵士達に「町や砦を攻め落とせ」と言って無理にやらせる」の記述を踏まえて「町や砦に突入する」と補って解読。なお、この“町”は其一2-5④「敵国の町、村、里、集落」を指すと考察している。

・「弱めると曰う」の直訳は“敗れたと言う”となる。①「兵士達を窮地に追い込む災い「陥」」に追い込まれた結果、敗れると考察できるため、「「窮地に追い込まれて敗れた」と言う」と補って解読。

<④について>
・「強」の“強化する”は、③「兵士達は「窮地に追い込まれて敗れた」と言う」からの話の流れを考慮すれば、窮地に追い込まれないように軍隊を強化することと考察。そのためには兵士達の言い分を聞くことも必要と思われるため、兵士の立場を強化することが前提にあると解釈。結果、「兵士の立場を強くして軍隊を強化する」と補って解読。

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