昼の風は久しきなり、夜の風は止まらんなり。

其十三2-5

晝風久、夜風止。

zhòu fēng jiŭ、yè fēng zhǐ。

解読文

①昼間の兵士達の心情は「時間が長い」であり、暮れ時の兵士達の心情は「宿営したい」である。

②「時間が長い」と思っている兵士達を同じ場所に長く留まらせれば、士気が緩んで敵を侮るのである。「宿営したい」と思っている兵士達を引き止めて働かせれば、士気が殺がれて既に敗北した状態になるのである。

③敵軍が同じ場所に長く留まっており、敵兵達の士気が緩んで自軍を侮っているならば、正攻法部隊が流動的な風のように分断して動いて、その敵兵達を散り散りに駆け逃げさせて、奇策部隊が待ち受けるのである。

④時間が長い昼間は、流動的な風のように大軍十万を分断して急いで行軍するのである。夕暮れ時には、流動的な風のように大軍十万を分断して急いで行軍することを中止して、樹木が群がった林のように集合するのである。
書き下し文
①昼の風は久しきなり、夜の風は止(とど)まらんなり。

②久しくすれば昼の風なり。止(とど)めれば夜の風なり。

③久しくして昼たれば、風なして、風(ふう)せしめて夜は止(ま)つなり。

④久しき昼は、風なすなり。夜は風を止(や)めるなり。
<語句の注>
・「昼」は①②③④日の出から日没までの時間、の意味。
・1つ目の「風」は①民情、②教え、③④其七4-2①「風」、の意味。
・「久」は①時間が長い、②③長くとどまる、④時間が長い、の意味。
・「夜」は①②暮れ時、③日没から日の出の直前までの間、④暮れ時、の意味。
・2つ目の「風」は①民情、②教え、③散り散りに駆け逃げる、④其七4-2①「風」、の意味。
・「止」は①宿る、②引き止める、③待ち受ける、④中止する、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目と2つ目の「風」の“民情”は、兵士達の心情と考察。結果、「兵士達の心情」と解読。

・「止」の“宿る”は、兵士達の心情として“一日の任務を終えて宿営したい”という願望と考察。結果、「宿営したい」と解読。

<②について>
・「久」の“長くとどまる”は、①「昼間の兵士達の心情は「時間が長い」」を受けた記述と考察すれば、「時間が長い」と思っている兵士達を、同じ場所で変化無く、長く留まらせて余計に長く感じさせることと解釈できる。結果、使役形で「「時間が長い」と思っている兵士達を同じ場所に長く留まらせる」と補って解読。

・「昼」の直訳は“昼間の教え”となる。これは其七6-2②「昼間の緩んだ士気は敵を侮る」の教えを指すと考察。結果、「士気が緩んで敵を侮る」と解読。

・「止」の“引き止める”は、①「暮れ時の兵士達の心情は「宿営したい」」を受けた記述と考察すれば、「宿営したい」と思っている兵士達を引き止めて働かせて、「宿営したい」気持ちをより強めさせることと解釈できる。結果、「「宿営したい」と思っている兵士達を引き止めて働かせる」と補って解読。

・「夜の風」の直訳は“暮れ時の教え”となる。これは其七6-2②「夕暮れ時の殺がれた士気は既に敗北した状態」の教えを指すと考察し、「士気が殺がれて既に敗北した状態になる」と解読。

<③について>
・「久」の“長くとどまる”は、②「久」で記述された「同じ場所に長く留まらせる」の意味を積み上げていると考察。但し、ここでの主語は敵軍と考察して、「敵軍が同じ場所に長く留まっている」と解読。

・「昼」は、②「昼」で記述された「士気が緩んで敵を侮る」の意味を積み上げていると考察。結果、「昼たり」で「敵兵達の士気が緩んで自軍を侮っている」と解読。

・1つ目の「風」は、其七4-2①「其の疾きこと風の如く」の「自軍が勢いよく急いで行軍する時は流動的な風のように大軍十万は隊列を変化して分断する」と考察。ここでは同じ場所に長く留まって自軍を侮っている敵軍に対して、流動的な風のように分断して動く正攻法部隊(大軍十分)を出現させることと解釈。結果、「風なす」で「正攻法部隊が流動的な風のように分断して動く」と解読。

・2つ目の「風」の“散り散りに駆け逃げる”は、流動的な風のように分断して動く正攻法部隊から敵兵達が逃げることと考察。結果、使役形で「その敵兵達を散り散りに駆け逃げさせる」と補って解読。

・「夜」の“日没から日の出の直前までの間”は、漢字「日」の対義語であることを踏まえれば、其五2-3「日月」の解釈より「月」の「奇策部隊」を指すと考察できる(参考:「日」は正攻法部隊)。結果、「奇策部隊」と解読した。

<④について>
・1つ目の「風」は、其七4-2①「其の疾きこと風の如く」の「自軍が勢いよく急いで行軍する時は流動的な風のように大軍十万は隊列を変化して分断する」と考察。ここでは自軍の昼間における行軍の在り方を説くと解釈。結果、「風なす」で「流動的な風のように大軍十万を分断して急いで行軍する」と解読。

・「風を止める」は、「風」を1つ目の「風」同様に「流動的な風のように大軍十万を分断して急いで行軍する」ことと解釈すれば“流動的な風のように大軍十万を分断して急いで行軍することを中止する”となる。これは其七4-2①「林」の教えである「自軍がゆっくりと穏やかに行軍する時は樹木が群がった林のように集合して大軍十万をまとめる」を指すと考察。結果、「流動的な風のように大軍十万を分断して急いで行軍することを中止して、樹木が群がった林のように集合する」と補って解読。

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