凡そ軍は、五ある火に、変に之らしむこと知れば必するなり、数を以えば、之を守るなり。

其十三2-6

凡軍必知五火之變、以數守之。

fán jūn bì zhī wŭ huǒ zhī biàn、yǐ shù shoǔ zhī。

解読文

①一般的に戦争は、五種類ある巧みに仕掛ける火災によって、敵軍を突然起こる重大事件に至らせることを理解すれば、自軍の立場を確固たるものにするのであり、巧みに仕掛ける火災のお手本の真価を認めれば、このお手本を固く守って実行するのである。

②全体として敵軍がその立場を確固たるものにしていると感じた時は、巧みに仕掛ける火災を実行して敵軍を突然起こる重大事件に至らせるのであり、その上、防御する正攻法部隊を出現させて奇正の戦術を行えば、自軍を優勢にするのである。

③奇正の戦術を行う時は、必ず、火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していくことで獲物となった敵部隊を出現させて、生きたまま敵を取得する間者が率いる奇策部隊に移り変わることを理解しなければならないのであり、あらゆる範囲に奇策部隊を配置して獲物となった敵部隊を待ち受けるのである。

④巧みに仕掛ける火災の要旨は、自軍の立場が確固たるものになって、獲物となった敵部隊が出現したと識別した時、生きたまま敵を取得する間者が率いる奇策部隊を出現させて自国に寝返らせるのであり、自国に寝返った敵兵達に対して、敵将軍が考えている戦略、戦術を要求するのである。
書き下し文
①凡そ軍は、五ある火に、変に之(いた)らしむこと知れば必するなり、数を以(おも)えば、之を守るなり。

②凡そ軍は必すると知るに、火なして変に之(いた)らしむなり、以(もっ)て、守る之あらしめて数なせば五たるなり。

③数を以(な)すに、必ず火なして之あらしめて五に変すること知るなり、凡そ軍して之を守るなり。

④火の凡(はん)は、軍の必して、之ありと知るに、五あらしめて変ぜしむなり、以(これ)に之の数を守(もと)めるなり。
<語句の注>
・「凡」は①一般的に、②全体として、③あらゆる範囲で、④要旨、の意味。
・「軍」は①戦争、②軍隊、③軍隊を配置する、④軍隊、の意味。
・「必」は①②立場を確かにする、③必ず~しなければならない、④立場を確かにする、の意味。
・「知」は①理解する、②感じる、③理解する、④識別する、の意味。
・「五」は①数の名、②③④五番目という序数、の意味。
・「火」は①②火災、③其七4-2①「火」、④火災、の意味。
・1つ目の「之」は①②ある地点や事情に達する、③彼ら、④代名詞、の意味。
・「変」は①②突然に起こる重大事件、③移り変わり、④謀反を起こす、の意味。
・「以」は①認める、②その上、③事を行う、④代名詞、の意味。
・「数」は①方法、②③④策略、の意味。
・「守」は①固く守って実行する、②防御する、③待ち受ける、④請求する、の意味。
・2つ目の「之」は①代名詞、②彼ら、③代名詞、④彼、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「凡軍必知有五火之變、以數守之。」と「有」が入るが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「五ある火」の直訳は“五ある火災”となる。これは其十三1-1①「一般的に巧みに仕掛ける火災には五種類存在する」に基づき、「五種類ある巧みに仕掛ける火災」と解読。

・「変に之らしむ」の直訳は“突然に起こる重大事件に至らせる”となる。これは敵軍側に重大事件を起こすことと考察して、「敵軍を突然起こる重大事件に至らせる」と解読。②も同様に解読。

・「数」の“方法”は、火攻篇で記述された「五種類ある巧みに仕掛ける火災」の方法であり、これをお手本にするのだと考察できる。結果、「巧みに仕掛ける火災のお手本」と解読。

・「以」の“認める”は、話の流れより「巧みに仕掛ける火災のお手本」を使えば、「自軍の立場を確固たるものにする」という真価を認めることと考察。結果、「真価を認める」と補って解読。

・2つ目の「之」は、「数」の「巧みに仕掛ける火災のお手本」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れに合わせて「このお手本」と解読。

<②について>
・「火」の“火災”は、其十三1-1①「火」の「巧みに仕掛ける火災」を指すと考察。結果、「巧みに仕掛ける火災」と解読。④も同様に解読。

・「守る之」の直訳は“防御する彼ら”となる。これは其十一4-2②「衛る者」等の「防御する正攻法部隊」を指すと考察。結果、「防御する正攻法部隊」と解読。

・「数」の“策略”は、文意より奇正の戦術を指すと考察。結果、「奇正の戦術」と解読。③も同様に解読。

・「五」の“五番目という序数”は、其四4-2①で五番目に記述された「自軍が敵軍よりも優勢になる」を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「五たり」で「自軍を優勢にする」と解読。

<③について>
・「火」は、其七4-2①「火」で記述された「侵して掠めること火の如く」の「正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく様子はまるで広がっていく火災が逃げ場を奪って火のない所へ人を導く様子に等しい」を指すと考察。結果、「火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく」と解読。

・1つ目の「之」の“彼ら”は、正攻法部隊が出現させて奇策部隊が攻め取る相手であるため、其五3-2①「獲物の鳥」を考察して「獲物となった敵部隊」と解読。

・「五」の“五番目という序数”は、其十二2-2①で五番目に記述された「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察。但し、ここでは「生きたまま敵を取得する間者」が率いる奇策部隊が主と解釈して「生きたまま敵を取得する間者が率いる奇策部隊」と解読。④も同様に解読。

・「軍」の“軍隊を配置する”の“軍隊”は、話の流れより奇策部隊を指すと考察。結果、「奇策部隊を配置する」と解読。

・2つ目の「之」は、1つ目の「之」の「獲物となった敵部隊」を指示する代名詞と解読。

<④について>
・1つ目の「之」は、③2つ目の「之」の「獲物となった敵部隊」を指示する代名詞と解読。

・「変」の“謀反を起こす”は、「獲物となった敵部隊」を奇策部隊が攻め取った後、自国に寝返らせることと考察。結果、使役形で「自国に寝返らせる」と解読。

・「以」は、1つ目の「之」の「獲物となった敵部隊」を指示する代名詞と解釈。この敵部隊は自国に寝返っていることを踏まえて、「自国に寝返った敵兵達」と解読。

・「之の数」の直訳は“彼の策略”となる。これは其七6-1①「敵全軍を統率する敵将軍からは考えていた計画を強制的に取るのが良い」から類推すれば、「敵将軍が考えている戦略、戦術」と解読できる。

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