故らしむに、火を以て攻みなりて佐ける者は明るきなり、水を以て攻めるを佐める者は強いるなり。

其十三3-1

故以火佐攻者明。以水佐攻者強。

gù yǐ huǒ zuǒ gōng zhě míng。yǐ shuǐ zuǒ gōng zhě qiáng。

解読文

①敵軍を衰えさせる時、巧みに仕掛ける火災によって巧みに補い助ける将軍は、物事によく通じているのである。水の流れるような勢いある突撃によって敵軍を討伐することを勧める将軍は、無理に兵士達を突撃させるのである。

②巧みに仕掛ける火災を助力に使う将軍は、昼間に自然にある植物を乾燥させて火災を仕掛ける道具をつくるのである。溢れるほど大勢の兵士達をどんどん戦地に突撃させること勧める将軍は、突撃せずに残っている兵士が存在すれば咎めるのである。

③巧みに仕掛ける火災を助力として採用する理由は、災いが生じたと敵軍にはっきり悟らせて、堅固な敵軍から獲物となる敵部隊を次々と出現させることを補い助けるからである。無理に兵士達を突撃させれば、その兵士達は敵軍に撃たれるのである。

④奇正の戦術を補佐する将軍は、巧みに仕掛ける火災を実行した時、軍隊の勢いを激しく旺盛にした堅固な軍隊を出現させるのであり、火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していき、獲物となる敵部隊を出現させるのである。奇正の戦術を実行する時は、その敵部隊を武力で撃つ奇策部隊を補い助けて、獲物となった敵部隊を水没させるように奇策部隊の周囲を正攻法部隊が取り囲めば、囲まれた敵兵達は硬直するのである。
書き下し文
①故(ふ)らしむに、火を以て攻(たく)みなりて佐(たす)ける者は明るきなり、水を以て攻めるを佐(すす)める者は強いるなり。

②火を佐(たす)けに以(もち)いる者は、明に故より攻(おさ)めるなり。水に以(およ)ぶこと佐(すす)める者は、強たれば攻めるなり。

③火の佐(たす)けを以(もち)いるは、故ありと明らかにせしめて、攻(かた)き者を水に以(およ)ばしむこと佐(たす)ければなり。強いれば攻められるなり。

④佐は、故なすに、明たる攻(かた)き者あらしむなり、火なして以(これ)あらしむなり。以(な)すに、攻める者を佐(たす)けて水にすれば、強(こわ)くするなり。
<語句の注>
・「故」は①衰える、②原因、③災い、④たくらみ、の意味。
・1つ目の「以」は①~によって、②使用する、③採用する、④代名詞、の意味。
・「火」は①②③火災、④其七4-2①「火」、の意味。
・1つ目の「佐」は①補い助ける、②③助力、④補佐を役目とする地位や官職の人、の意味。
・1つ目の「攻」は①巧みなさま、②物をつくる、③④堅固なさま、の意味。
・1つ目の「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「明」は①物事によく通じているさま、②昼、③はっきり悟る、④夜明け、の意味。
・2つ目の「以」は①~によって、②③押し及ぶ、④事を行う、の意味。
・「水」は①水の流れ、②③水の氾濫、④水没させる、の意味。
・2つ目の「佐」は①②勧める、③④補い助ける、の意味。
・2つ目の「攻」は①討つ、②咎める、③④武力で相手を撃つ、の意味。
・2つ目の「者」は①②助詞「もの」、③仮定表現の助詞、④助詞「もの」、の意味。
・「強」は①無理にやらせる、②余るさま、③無理にやらせる、④硬直するさま、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「火」の“火災”は、其十三1-1①「火」の「巧みに仕掛ける火災」を指すと考察。結果、「巧みに仕掛ける火災」と解読。②③も同様に解読。

・「水」の“水の流れ”は、「水」が兵士(人民)の喩えであるため、流れるように動いている兵士達と解釈できる。この解釈に基づけば「水」は、敵軍に向かって流れるように勢いよく突撃している様子を喩えていると考察できる。結果、「水の流れるような勢いある突撃」と解読。

・2つ目の「攻」の“討つ”は、敵軍を討伐することと考察。結果、「敵軍を討伐する」と補って解読。

・「強」の“無理にやらせる”は、兵士達に無理に突撃させることと考察。結果、「無理に兵士達を突撃させる」と補って解読。③も同様に解読。

<②について>
・「明に故より攻める」の直訳は“昼に原因から物をつくる”となる。これは其十三1-5②「火が上がって燃えることを援助する好機を狙う将軍は、自然にある植物を乾燥させて、火災を仕掛ける道具として使わせるのである」及び其十三1-5③「自然にある植物は、昼間に並べておけば乾燥させるのである」に基づけば、「昼間に自然にある植物を乾燥させて火災を仕掛ける道具をつくる」と補って解読できる。

・「水」の“水の氾濫”は、例えば、ある器に水を流し込んでいき、その容量を超過したことで器に入りきらない水が溢れ出てくる状態と言える。これを戦争に置き換えれば、溢れるまで大勢の兵士達を戦地に流し込む状態と言える。結果、「水に以ぶ」で「溢れるほど大勢の兵士達をどんどん戦地に突撃させる」と解読。

・「強」の“余るさま”は、溢れるほど大勢の兵士達をどんどん戦地に突撃させるつもりが、突撃しないで残っている兵士達を指すと考察。結果、「強たり」で「突撃せずに残っている兵士が存在する」と補って解読。

・「強」の“余るさま”は、①で「水を流し込むような勢いある突撃」をしていることから兵士数に余力がある状態と考察。

<③について>
・「水」の“水の氾濫”は、例えば、容器に水を流し込んでいる場合、一度容器から水が溢れ出せば、その後は次々を溢れ続ける。この溢れ方を堅固な敵兵が逃亡していく様子の喩えにすると考察。この“敵兵が溢れ出る”状態は、其十三2-6③「火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していくことで獲物となった敵部隊を出現させて、生きたまま敵を取得する間者が率いる奇策部隊に移り変わる」を行うための準備と解釈。結果、「水に以ばしむ」で「獲物となる敵部隊を次々と出現させる」と解読。

・2つ目の「攻」の“武力で相手を撃つ”は、無理に兵士達を突撃させた場合、その兵士達が敵軍に撃たれることと考察。結果、受身形で「その兵士達は敵軍に撃たれる」と解読。

<④について>
・1つ目の「佐」の“補佐を役目とする地位や官職の人”は、文意より奇正の戦術が成功するように補佐する将軍と考察。結果、「奇正の戦術を補佐する将軍」と解読。

・「故」の“たくらみ”は、①「火」等の「巧みに仕掛ける火災」を指すと考察。結果、「巧みに仕掛ける火災」と解読。

・「明」の“夜明け”は、其七6-2③「早朝における軍隊の勢いは士気が激しく旺盛である」の早朝を指すと考察。結果、「明たり」で「軍隊の勢いを激しく旺盛にする」と解読。

・「火」は、其七4-2①「火」で記述された「侵して掠めること火の如く」の「正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく様子はまるで広がっていく火災が逃げ場を奪って火のない所へ人を導く様子に等しい」を指すと考察。結果、「火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく」と解読。

・1つ目の「以」は、③「水」の「獲物となる敵部隊」を指示する代名詞と解読。

・2つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、話の流れより「獲物となる敵部隊」を攻め取る奇正の戦術を指すと考察。結果、「奇正の戦術を実行する」と解読。

・「攻める者」の直訳は“武力で相手を撃つ者”となる。これは武力で撃つため奇策部隊を指すと考察。結果、「その敵部隊を武力で撃つ奇策部隊」と補って解読。

・「水」の“水没させる”は、其六6-1⑥「水」で記述された「兵士達を水没させるように奇策部隊と正攻法部隊で獲物となった敵部隊を取り囲む奇正の戦術は成功するのである」の意味を積み上げていると考察。さらに其五2-9③「奇策部隊が敵部隊の周囲を取り囲んで一斉に出撃した時、正攻法部隊が形勢逆転のきっかけを無くすようにその奇策部隊の周囲を取り囲めば、誰が力を出し尽くすまで戦うことができるだろうか」に基づけば、「獲物となった敵部隊を水没させるように奇策部隊の周囲を正攻法部隊が取り囲む」と補って解読。

・「強」の“硬直するさま”は、奇策部隊と正攻法部隊に囲まれた敵兵達の状態と考察。結果、「囲まれた敵兵達は硬直する」と補って解読。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。