水を以いる可は絶つことなり、火を以いれば可を奪うなり。

其十三3-2

水可以絕、火可以奪。

shuǐ kĕ yǐ jué、huǒ kĕ yǐ duó。

解読文

①水を流し込むような勢いある突撃を採用する利点は敵軍を断ち切って分断させることであり、巧みに仕掛ける火災を採用すれば敵軍の長所を強制的に取るのである。

②水を流し込むような勢いある突撃の利点を使って、水を染み込ませるように敵軍の中に自軍の兵士達を割り込ませていけば、敵軍の中を横切って分断させるのである。巧みに仕掛ける火災を実行すれば、敵軍は怒って平常心を失うのであり、敵軍の長所を強制的に取る利点になるのである。

③人は、河川の流れに直面すれば立ち止まって考えるのであり、火災に直面すれば考えていたことを忘れるのである。

④水の流れるような勢いある突撃は、次の展開を考えることに敵将軍の精力を注がせることができるのである。巧みに仕掛ける火災は、敵将軍の考えていた計画を強制的に取ることができるのである。
書き下し文
①水を以(もち)いる可は絶(た)つことなり、火を以(もち)いれば可を奪うなり。

②可を以(もち)いて、水にすれば、絶(わた)るなり。以(な)せば、火たりて奪うなり、可あるなり。

③水に可(あ)たれば絶(た)えて以(おも)うなり、火に可(あ)たれば以(おも)うこと奪われるなり。

④水は、以(おも)うことに絶(ぜつ)せしむ可きなり。火は、以(おも)うこと奪う可きなり。
<語句の注>
・「水」は①水の流れ、②水を染み込ませる、③河川、水の流れ、④水の流れ、の意味。
・1つ目の「可」は①②長所、③向き合う、④~できる、の意味。
・1つ目の「以」は①採用する、②使用する、③④考える、の意味。
・「絶」は①断ち切る、②道などを横切る、③止まる、④精力を注ぐ、の意味。
・「火」は①火災、②怒り、③④火災、の意味。
・2つ目の「可」は①②長所、③向き合う、④~できる、の意味。
・2つ目の「以」は①採用する、②事を行う、③④考える、の意味。
・「奪」は①強制的に取る、②無くす、③無くなる、④取り上げる、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「水可以絕、不可以奪。」と「火」を「不」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「水」の“水の流れ”は、其十三3-1①「水」で記述された「水の流れるような勢いある突撃」と考察。④も同様に解読。

・「絶」の“断ち切る”は、「水の流れるような勢いある突撃」によって敵軍を断ち切って分断させることと考察。結果、「敵軍を断ち切って分断させる」と補って解読。

・「火」の“火災”は、其十三1-1①「火」の「巧みに仕掛ける火災」を指すと考察。結果、「巧みに仕掛ける火災」と解読。④も同様に解読。

・「可を奪う」の直訳は“長所を強制的に取る”となる。これは其十三2-6②「全体として敵軍がその立場を確固たるものにしていると感じた時は、巧みに仕掛ける火災を実行して敵軍を突然起こる重大事件に至らせるのであり、その上、防御する正攻法部隊を出現させて奇正の戦術を行えば、自軍を優勢にするのである」から類推すれば、「敵軍の長所を強制的に取る」と解読できる。

<②について>
・1つ目の「可」の“長所”は、①1つ目の「可」で記述された「水を流し込むような勢いある突撃を採用する利点」の意味を積み上げていると考察。結果、「水を流し込むような勢いある突撃の利点」と解読。

・「水」の“水を染み込ませる”は、水が何かの中に入り込んでいく状態とも言える。この水を兵士に置き換えれば、敵軍の中に自軍兵士達を割り込ませていく喩えと考察できる。結果、「水を染み込ませるように敵軍の中に自軍の兵士達を割り込ませていく」と補って解読。

・「絶」の“道などを横切る”の“道”は、敵軍を指すと解釈すれば、「水を流し込むような勢いある突撃」によって敵軍の中を押し通ることと考察できる。それによって①「敵軍を断ち切って分断させる」を実現すると解釈できるため、「敵軍の中を横切って分断させる」と補って解読。

・2つ目の「以」の“事を行う”の“事”は、①「巧みに仕掛ける火災」を指すと考察。結果、「巧みに仕掛ける火災を実行する」と解読。

・「火」の“怒り”は、「巧みに仕掛ける火災」によって敵軍を怒らせることと考察。結果、「火たり」で「敵軍は怒る」と解読。

・「奪」の“無くす”は、其十三2-3②「毋」で記述された「平常心を失う」と同意と考察。結果、「平常心を失う」と解読。

・2つ目の「可」の“長所”は、①2つ目の「可」で記述された「敵軍の長所を強制的に取る」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵軍の長所を強制的に取る利点」と補って解読。

<③について>
・「水」は、文意を考慮してわかりやすくするため“河川”と“水の流れ”の掛け言葉と解釈。目的地に向かう道中で、いきなり流れの強い河川が現れた時、人は渡る手立てを考えるために立ち止まるのではないかと想定した。この意味合いを込めて、「水に可たる」で「河川の流れに直面する」と解読した。

・2つ目の「可」の“向き合う”は、1つ目の「可」と同様の意味合いで「直面する」と言い換えた。

・「以うこと奪われる」の直訳は“考えていたことが無くなる”となる。これは其七6-1①「敵全軍を統率する敵将軍からは考えていた計画を強制的に取るのが良い」に繋がっていくと考察した上で、「考えていたことを忘れる」と解読した。

<④について>
・「以うことに絶せしむ」の直訳は“考えることに精力を注がせる”となる。③「河川の流れに直面すれば立ち止まって考える」に基づけば、「水の流れるような勢いある突撃」によって、次の展開を考えることに集中させた状態に敵将軍を追い込むと考察できる。結果、「次の展開を考えることに敵将軍の精力を注がせる」と補って解読。

・「以うこと奪う」の直訳は“考えていることを取り上げる”となる。これは其七6-1①「敵全軍を統率する敵将軍からは考えていた計画を強制的に取るのが良い」を指すと考察。結果、「敵将軍の考えていた計画を強制的に取る」と解読。

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