夫れ、戦いて攻みなる勝ちを取る者は得るなり、不いに其の隋ちて功とする者は凶いするなり。之に命じれば、費なりて曰く留まる。

其十三3-3

夫戰勝攻取者得、不隋其功者凶。命之曰費留。

fú zhàn shèng gōng qŭ zhě dé、bù suí qí gōng zhě xiōng。mìng zhī yuē fèi liú。

解読文

①そもそも、戦闘して巧みな勝利を手にした将軍は得意になるのであり、大いに敵軍を破壊して手柄にした将軍は自他問わず兵士達を殺傷するのである。このような将軍に自軍を委任すれば、言葉が無駄に多くて「今までどおりにして変えない」と言う。

②犯罪歴があって肉体労働等に従事する兵士達は、戦闘して敵軍を打ち破れば、得意になって敵軍を武力で撃つことを求めるのであり、大いに敵兵達を傷つけて手柄を得た兵士達は邪悪な心になるのである。この兵士達を戦争で働かせれば、戦地に長く留まって自軍は消耗するのである。

③得意になって敵軍とせめぎ合うことを求める兵士達は「戦う前から敗北した状態である」と咎める者を採用してあるべき任務に従わせるのであり、敵軍を破壊しないで恐れ騒がせることを任務とするのである。奇策部隊を率いる間者に対しては「敵軍を恐れ騒がせた時、獲物となった敵部隊を攻め取って自国に寝返らせろ」と指示するのである。

④奇策部隊が攻め取った敵兵達は、大いに恩恵を施せば、自軍の任務に専念して従事する姿勢を引き出すのであり、褒美の品で力づければ、羊の集まりを導くように軍隊を動かすのである。旺盛な勢いを生じて充実した堅固な軍隊にすれば、敵軍を恐れ騒がせて権勢を墜落させるのであり、「待ち受ける国運は明らかになった」と敵将軍に説くのである。
書き下し文
①夫れ、戦いて攻(たく)みなる勝ちを取る者は得るなり、不(おお)いに其の隋(こぼ)ちて功(こう)とする者は凶(わざわ)いするなり。之に命じれば、費なりて曰く留(とど)まる。

②夫(おとこ)は、戦いて勝てば、得て攻めること取るなり、不(おお)いに其の隋(こぼ)ちて功(こう)とする者は凶(わる)くするなり。之を命(もち)いれば、曰(ここ)に留(ひさ)しくして費やすなり。

③戦わんとする夫(おとこ)は、勝(しょう)なりと攻める者を取りて得せしむなり、其の隋(こぼ)たざりて、凶(おそ)れしむこと功とするなり。之に、曰(ここ)に留(とど)めて費(さか)らわしめよと命ずるなり。

④夫(おとこ)は、不(おお)いに得(とく)すれば、攻(おさ)めること取るなり、勝(た)えれば戦(そよ)げしむなり。功たらしめば、其の凶(おそ)れしめて隋(お)ちしむなり、留(ま)つ命は費たりと之に曰うなり。
<語句の注>
・「夫」は①そもそも、②③④成年に達して役務や肉体労働に従事する人、の意味。
・「戦」は①②戦をする、③せめぎ合う、④揺れ動く、の意味。
・「勝」は①勝利、②敵を打ち破る、③既に滅ぼされたさま、④担ぎ上げる、の意味。
・「攻」は①巧みなさま、②武力で相手を撃つ、③咎める、④専念して従事する、の意味。
・「取」は①手に持つ、②求める、③採用する、④引き出す、の意味。
・1つ目の「者」は①助詞「もの」、②助詞「こと」、③助詞「もの」、④仮定表現の助詞、の意味。
・「得」は①②得意になる、③適合する、④恩恵を施す、の意味。
・「不」は①②大いに、③~しない、④大いに、の意味。
・「隋」は①②③壊す、④墜落する、の意味。
・「其」は①②③④敵の代名詞、の意味。
・「功」は①②手柄にする、③仕事、④(道具が)固く鋭い、の意味。
・2つ目の「者」は①②助詞「もの」、③助詞「こと」、④仮定表現の助詞、の意味。
・「凶」は①人を殺傷する行為、②邪悪な、③④恐れて騒ぐ、の意味。
・「命」は①委任する、②使う、③指示する、④国運、の意味。
・「之」は①②代名詞、③④彼、の意味。
・「曰」は①~と言う、②③語気の強調、④~と説く、の意味。
・「費」は①言葉が無駄に多い、②消耗する、③背く、④明らか、の意味。
・「留」は①今までどおりにして変えない、②時間が長い、③差し押さえる、④待ち受ける、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は「◇◇◇◇◇◇得、不隋其功者凶。命之曰費留。」と六文字欠落している。欠落箇所について、孫子(講談社)の原文は「夫戰勝攻得」として一字不足しており、新訂孫子(岩波)及び“七書孫子”の原文は「夫戰勝攻取」として一字不足している。これは推察だが文字数と句点の場所より、其十三3-1「故以火佐攻者明、以水佐攻者強」と対句になっている可能性がある。対句だと仮定すると「◇◇◇◇◇◇得」は「◇◇◇◇◇者得」の可能性が高く、新訂孫子(岩波)及び“七書孫子”の「夫戰勝攻取」で欠落箇所を埋めれば「夫戰勝攻取者得」となる。この原文によって四通りの解読文が成立したため、これを原文として採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「凶」の“人を殺傷する行為”の“人”は、敵軍の兵士達だけでなく、自軍の兵士も含まれると考察。結果、「凶いする」で「自他問わず兵士達を殺傷する」と補って解読。

・「之」は、1つ目の「者」で記述された「戦闘して巧みな勝利を手にしようとする将軍」と、2つ目の「者」で記述された「大いに敵軍を破壊して手柄にしようとする将軍」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れに合わせて「このような将軍」と解読。

・「命」の“委任する”は、「このような将軍」に軍隊を委任することと考察。結果、「自軍を委任する」と補って解読。

<②について>
・「夫」の“成年に達して役務や肉体労働に従事する人”は、其十一8-5①「犯罪歴があって肉体労働等に従事する兵士」を指すと考察。結果、「犯罪歴があって肉体労働等に従事する兵士達」と解読。

・「不いに其の隋つ」の直訳は“大いに敵を壊す”となる。これは「犯罪歴があって肉体労働等に従事する兵士達」が敵兵達を傷つけることと考察。結果、「大いに敵兵達を傷つける」と言い換えた。

・「凶」の“邪悪な”は、大いに敵兵達を傷つけて手柄を得た兵士達の心が邪悪になることと考察。結果、「凶くする」で「邪悪な心になる」と解読。

・「之」は、「夫」の「犯罪歴があって肉体労働等に従事する兵士達」を指示する代名詞と解釈。結果、話の流れに合わせて「この兵士達」と解読。

・「命」の“使う”は、「犯罪歴があって肉体労働等に従事する兵士達」を戦争で働かせることと考察。結果、「戦争で働かせる」と補って解読。

・「留しくして費やす」の直訳は“時間が長くなって消耗する”となる。これは、其二5-1⑤「衰えた自軍を大いに打ち破ろうとする敵将軍は、武器で相手を殺す戦術を重視した結果、戦地に長く留まる」から類推すれば、「戦地に長く留まって自軍は消耗する」と解読できる。

<③について>
・「夫」は、解読文が冗長になるため簡潔に「兵士達」とした。

・「戦わんとする夫」は素直に解読すると「敵軍とせめぎ合おうとする兵士達」となるが、②「得意になって敵軍を武力で撃つことを求める」と同意と考察し、「得意になって敵軍とせめぎ合うことを求める兵士達」と解読。

・「勝」の“既に滅ぼされたさま”は、「得意になって敵軍とせめぎ合うことを求める兵士達」は戦いが始まっていなくても、既に敵に滅ぼされた状態に等しいことと解釈できる。結果、「戦う前から敗北した状態」と解読。

・「得」の“適合する”は、「得意になって敵軍とせめぎ合うことを求める兵士達」をあるべき任務に従事させることと考察。結果、使役形で「あるべき任務に従わせる」と解読。

・「之」の“彼”は、話の流れより奇策部隊を率いる其十二2-2①「生きたまま敵を取得する間者」を指すと考察。結果、「奇策部隊を率いる間者」と簡潔に解読。

・「曰」の“語気の強調”には、「敵軍を破壊しないで恐れ騒がせる」の意味が積み上がっていると考察。結果、「敵軍を恐れ騒がせた時」と解読。

・「留めて費らわしめよ」の直訳は“彼ら差し押さえて背かせろ”となる。これは正攻法部隊が敵軍を破壊しないで恐れ騒がせることによって、獲物となった敵部隊を出現させて、その敵部隊を攻め取って自国に寝返らせる命令と考察。結果、「獲物となった敵部隊を攻め取って自国に寝返らせろ」と解読。

<④について>
・「夫」の“成年に達して役務や肉体労働に従事する人”は、③「獲物となった敵部隊を攻め取って自国に寝返らせろ」で記述された「獲物となった敵部隊」を指すと考察。この敵部隊は奇策部隊に攻め取られた状態と解釈して「奇策部隊が攻め取った敵兵達」と補って解読。

・「攻めること取る」の直訳は“専念して従事することを引き出す”となる。これは恩恵を施された敵兵達の任務に対する姿勢を説くと考察。結果、「自軍の任務に専念して従事する姿勢を引き出す」と補って解読。

・「勝えれば戦げしむ」の直訳は“担ぎ上げれば揺れ動かす”となる。これは其十一5-5⑥「兵士達を力づける道理を理解した将軍は、駆り立てれば慰労するのであり、強要すれば褒美の品を贈呈するのであり、羊の集まりを導くように軍隊を動かすのである」を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「褒美の品で力づければ、羊の集まりを導くように軍隊を動かす」と解読。

・「功」の“(道具が)固く鋭い”は、まず“固く”は其五1-4①「実」と同意と考察。其五1-4①「戦略、戦術を使って敵軍を凌駕する道理は、自分の方に投げられた脆い卵を目にとめて固い木槌で打つに等しく自軍に向かって来る脆い敵軍を認識して固い自軍で打ち破るのであり、充実して堅固な“実”と虚弱な“虚”の正確な判断をするからである」に基づけば、「充実した堅固な軍隊にする」を意味する。次に、“鋭い”は其七6-2③「早朝における軍隊の勢いは士気が激しく旺盛である」を指すと考察。結果、二つの意味を合わせて「功たらしむ」で「旺盛な勢いを生じて充実した堅固な軍隊にする」と解読。

・「隋」の“墜落する”は、其十一7-8⑥「隋」で記述された「権勢を墜落させる」と同意と考察。結果、使役形で「権勢を墜落させる」と解読。

・「之」の“彼”は、敵軍の権勢が墜落した状態で対話する相手であるため敵将軍と考察。結果、「敵将軍」と解読。

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