故に其の国は抜く可き也、城は隋たる可きなり。

其十一7-8

故其國可拔也、城可隋也。

gù qí guó kĕ bá yě、chéng kĕ suí yě。

解読文

①戦略において敵里等を奪い取って陣地にしなければならないので、城壁に囲まれた敵都市は後回しにするべきである。

②敵里等を奪い取って陣地にする時は、必ず城壁に囲まれた敵都市を陣地で封じなければならないのであり、陣地にした敵里等に城壁を築造して対峙して墜落させるのである。

③このように城壁に囲まれた敵都市を陣地で封じる時は、急いで戦略を実行しなければならないので、陣地にした敵里等に城壁を築造することは後回しにするべきである。

④急いで敵里等を陣地にする戦略を実行する時は、敵軍を敵国に封じた状態で敵将軍を驕らせなければならないのであり、城壁に囲まれた敵都市も同様に、敵武将を怠惰にさせるのである。

⑤敵軍を敵国に封じた状態で敵将軍を驕らせた時、敵里等を陣地にして統治すれば敵国を衰えさせることができるのであり、城壁に囲まれた敵都市も同様に、墜落させることができるのである。

⑥このように陣地にした敵里等を統治して敵国を衰えさせた時、敵国に対して自軍の権勢を優勢にすることができて、同様に、城壁に囲まれた敵都市の権勢を墜落させることができるのである。

⑦敵国に対して自軍の権勢を優勢にすれば、敵国全体を代表する敵将軍に敗北した敵国を平定する役目を同意させるのであり、権勢を墜落させた城壁に囲まれた敵都市も同様に、敵都市全体を代表する敵武将に平定する役目を同意させるのである。

⑧このように戦略を実行すれば、敵国を攻め取ることができるのであり、城壁に囲まれた敵都市も同様に、権勢を墜落させて攻め取ることができるのである。
書き下し文
①故に其の国は抜く可き也(や)、城は隋(だ)たる可きなり。

②抜くに、故(もと)より其の国する可きなり、城(きず)きて可(あ)たりて隋(お)ちしむなり。

③其れ国するに、抜(と)く故す可き也(や)、城(きず)くは隋(だ)たる可きなり。

④故なすに、其の国して抜く可きなり、城も也(ま)た、隋(だ)たらしむ可きなり。

⑤抜くに、国すれば其の故(ふ)らしむ可きなり、城も也(ま)た、隋(お)ちしむ可きなり。

⑥其れ故(ふ)らしむに、国に抜く可く也(ま)た、城は隋(お)ちしむ可きなり。

⑦抜けば、国たる其の故に可(き)かしむなり、隋(お)ちしむ城も也(ま)た、可(き)かしむなり。

⑧其れ故なせば、国は抜く可きなり、城も也(ま)た、隋(お)ちしむ可きなり。
<語句の注>
・「故」は①たくらみ、②必ず、③④たくらみ、⑤⑥衰える、⑦しきたり、⑧たくらみ、の意味。
・「其」は①②敵の代名詞、③このように、④⑤敵の代名詞、⑥このように、⑦敵の代名詞、⑧このように、の意味。
・「国」は①地区、②③④国に封じる、⑤国を治める、⑥独立した国家、⑦国全体を代表するさま、⑧独立した国家、の意味。
・1つ目の「可」は①②③④~しなければならない、⑤⑥~できる、⑦同意である、⑧~できる、の意味。
・「抜」は①②引き抜く、③急いで、④⑤人を引き立てる、⑥⑦越える、⑧攻め取る、の意味。
・1つ目の「也」は①下文を導く語気、②断定の語気、③下文を導く語気、④⑤⑥⑦⑧同様に、の意味。
・「城」は①都市(都市はその全域を城壁で囲んでいる)、②③城壁を築造する、④⑤⑥⑦⑧都市(都市はその全域を城壁で囲んでいる)、の意味。
・2つ目の「可」は①~すべきである、②対する、③~すべきである、④~しなければならない、⑤⑥~できる、⑦同意である、⑧~できる、の意味。
・「隋」は①怠けるさま、②墜落する、③怠けるさま、④怠惰なさま、⑤⑥⑦⑧墜落する、の意味。
・2つ目の「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
・孫子(講談社)の原文は「故其國可拔也、城可隳也。」と「隋」を「隳」とするが、中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「国」の“地区”は、其一2-5④「」の”地区“と同意であり、汙直の計によって自国の陣地にし、統治していく「敵国の町、村、里、集落」と解読。但し、ここでは軍争篇の戦略論が主となっていることを踏まえて”集落“は対象外と考えた上で、「其の国」で「敵里等」と簡略化して解読。

・「抜」の“引き抜く”は、其七1-2①「敵国の里を奪い合って陣取る」を指すと考察。結果、「奪い取って陣地にする」と解読。

・「隋」の“怠けるさま”は、「敵国の町、村、里」を優先的に奪い取って、「城壁に囲まれた敵都市」を奪い取る軍事行動は怠けることと解釈すれば、「後回しにする」と言い換えて解読できる。③も同様に解読。

<②について>
・「隋」の“怠けるさま”は、①「隋」で記述された「城壁に囲まれた敵都市は後回しにする」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵都市は後回しにする」と補って解読。

・「抜」の“引き抜く”は、①「抜」で記述された「敵里等を奪い取って陣地にしなければならない」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵里等を奪い取って陣地にする」と補って解読。

・「其」は、①「城」の「城壁に囲まれた敵都市」を指示する代名詞と解読。

・「国」の“国に封じる”は、「城壁に囲まれた敵都市」を奪い取った敵里等の陣地で囲んで封じることと考察。結果、「陣地で封じる」と解読。

・「城」の“城壁を築造する”は、其十一1-7③「敵人民から町や村等を献上させて、その町や村等に精通して自軍の利点を出し尽くした時、陣地にした町や村等が裏切ることを憂えて城壁の築造を重視するのであり、必要度が極めて高いと考えるのである」に基づけば、陣地にした敵里等に城壁を築造することと考察できる。結果、「陣地にした敵里等に城壁を築造する」と補って解読。なお、「町、村、里」は城壁の無い地区である。③も同様に解読。

<③について>
・「国」の“国に封じる”は、②「国」で記述された「城壁に囲まれた敵都市を陣地で封じなければならない」の意味を積み上げていると考察。結果、「城壁に囲まれた敵都市を陣地で封じる」と補って解読。

<④について>
・「故」の“たくらみ”は、③「故」で記述された「急いで戦略を実行しなければならない」の意味を積み上げていると考察。この戦略は敵里等を奪い取って陣地にすることであることを踏まえて、「故なす」で「急いで敵里等を陣地にする戦略を実行する」と補って解読。

・「抜」の“人を引き立てる”は、“鼓舞する”意味と解釈すれば、其十一7-6③「実力のある将軍が、戦略によって敵軍を敵国に封じれば、敵将軍を驕らせて容易く打ち破るのである。敵国に蓄えを献上して侮らせる戦術をお手本にすれば大いに得意にさせるのであり、その上、盛大な勢いが尽きて敵軍から離れたように偽る戦術のお手本を実行すれば敵将軍は得意になって互いに交戦しないのである」に基づけば、敵将軍を驕らせることと同意と考察できる。結果、「敵将軍を驕らせる」と解読。

・「隋」の“怠惰なさま”は、敵軍を敵国に封じた状態で敵将軍を驕らせるのと同様に、城壁に囲まれた敵都市で防衛する武将を怠惰にさせることと考察。結果、「敵武将を怠惰にさせる」と補って解読。

<⑤について>
・「抜」の“人を引き立てる”は、④「抜」で記述された「敵軍を敵国に封じた状態で敵将軍を驕らせなければならない」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵軍を敵国に封じた状態で敵将軍を驕らせる」と補って解読。

・「国」の“国を治める”の“国”は、話の流れより②「陣地にした敵里等」を指すと考察。但し、ここでは敵将軍を驕らせている内に敵里等を奪い取っていく文意が主であるため、「敵里等を陣地にして統治する」と解読。

<⑥について>
・「故」の“衰える”は、⑤「故」で記述された「敵里等を陣地にして統治すれば敵国を衰えさせる」の意味を積み上げていると考察。結果、使役形で、話の流れに合わせて「陣地にした敵里等を統治して敵国を衰えさせる」と補って解読。

・「抜」の“越える”は、其十一7-6⑦「陣地にした元敵里等を治めた実力のある将軍は、攻めて来る敵軍が出現すれば、元敵人民と諸侯を含めた自軍全体の士気を激しくして軍隊の勢いを旺盛にして、自軍の権勢を優勢にするのである」に基づけば、自軍の権勢を優勢にすることと考察できる。結果、「自軍の権勢を優勢にする」と補って解読。

・「隋」の“墜落する”は、「抜」の「自軍の権勢を優勢にする」の解釈から類推すれば、敵都市の権勢を墜落させることと考察できる。結果、使役形で「権勢を墜落させる」と補って解読。⑦⑧も同様に解読。

<⑦について>
・「抜」の“越える”は、⑥「抜」で記述された「敵国に対して自軍の権勢を優勢にする」の意味を積み上げていると考察。結果、「敵国に対して自軍の権勢を優勢にする」と補って解読。

・「故」の“しきたり”は、降伏する敵将軍が同意する事柄と解釈すれば、其十三4-4②「敵将軍に手柄を保証すれば敗北した敵国を平定する役目で任用できる」に基づき、「敗北した敵国を平定する役目」と解読できる。

・2つ目の「可」の“同意である”は、1つ目の「可」で記述された「敵国全体を代表する敵将軍に敗北した敵国を平定する役目を同意させる」から類推して、敵武将に敵都市を平定する役目を同意させることと考察できる。結果、使役形で「敵都市全体を代表する敵武将に平定する役目を同意させる」と補って解読。

<⑧について>
・「隋ちしむ可し」は、「隋」を「権勢を墜落させる」と解釈すれば“権勢を墜落させることができる”となる。この「可」は、1つ目の「可」で記述された「攻め取ることができる」の意味を積み上げていると考察。結果、「権勢を墜落させて攻め取ることができる」と補って解読。

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