風の上がるに火を発するも、下る風たれば攻める勿かれ。

其十三2-4

火發上風、毋攻下風。

huǒ fā shàng fēng、wú gōng xià fēng。

解読文

①風が低い所から高い所に向かって吹く時に巧みに仕掛ける火災を実行しても、高い所から低い所に吹く風向きに変われば、奇策部隊は武力で敵部隊を撃ってはならない。

②風が低い所から高い所に向かって吹く時に巧みに仕掛ける火災を実行して火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していけば、その敵は散り散りに駆け逃げること無く、頂上に逃げることだけに集中するが、風が高い所から低い所に吹く時は散り散りに駆け逃げるのである。

③同盟を結んだ頃は謙虚だった諸侯の態度が大きくなって同盟破棄の意見を表した時、大きくなった態度が謙虚になれば、その諸侯を咎めてはならない。

④同盟破棄の意見を表しても、その諸侯が自国を侮っている噂を耳にすれば、自国と敵対する考え方を改心させること無く、その諸侯を攻め落とすのである。
書き下し文
①風の上がるに火を発するも、下(くだ)る風たれば攻める勿(な)かれ。

②発して火なせば、風(ふう)すること毋(な)く、上に攻(おさ)めるも、下(くだ)るに風(ふう)するなり。

③風の上(のぼ)るに、火(や)くこと発するに、風の下(くだ)れば攻める毋(な)かれ。

④火(や)くこと発するも上(しの)ぐ風あれば、風を攻(おさ)めること毋(な)くして下すなり。
<語句の注>
・「火」は①火災、②其七4-2①「火」、③④燃やす、の意味。
・「発」は①②実行する、③④意見を表す、の意味。
・「上」は①低い所から高い所へ至る、②頂き、③低い所から高い所へ至る、④いじめ侮る、の意味。
・1つ目の「風」は①空気が流動する現象(風)、②散り散りに駆け逃げる、③態度、④噂、の意味。
・「毋」は①~してはならない、②~しない、③~してはならない、④~しない、の意味。
・「攻」は①武力で相手を撃つ、②専念して従事する、③咎める、④治療する、の意味。
・「下」は①②③高い所から低い所へ行く、④攻め落とす、の意味。
・2つ目の「風」は①空気が流動する現象(風)、②散り散りに駆け逃げる、③態度、④精神に障害があること、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「風の上がる」の直訳は“風が低い所から高い所へ至る”となる。これは風向きを表していると考察。結果、「風が低い所から高い所に向かって吹く」と解読。

・「火」の“火災”は、其十三1-1①「火」の「巧みに仕掛ける火災」を指すと考察。結果、「巧みに仕掛ける火災」と解読。

・「下る風たり」の直訳は“高い所から低い所へ行く風になる”となる。これは風向きが低い所に向かって吹くように変わることと考察。結果、「高い所から低い所に吹く風向きに変わる」と解読。

・「攻」の“武力で相手を撃つ”は、奇策部隊が獲物となった敵部隊を武力で撃つことと考察。結果、「奇策部隊は武力で敵部隊を撃つ」と補って解読。

<②について>
・「発」の“実行する”は、①「発」で記述された「風が低い所から高い所に向かって吹く時に巧みに仕掛ける火災を実行する」の意味を積み上げていると考察。結果、「風が低い所から高い所に向かって吹く時に巧みに仕掛ける火災を実行する」と補って解読。

・「火」は、其七4-2①「火」で記述された「侵して掠めること火の如く」の「正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく様子はまるで広がっていく火災が逃げ場を奪って火のない所へ人を導く様子に等しい」を指すと考察。結果、「火災のように正攻法部隊がどんどん攻め込んで敵の逃げ場を奪い取って誘導していく」と解読。

・「上に攻める」の直訳は“頂きに専念して従事する”となる。これは獲物となった敵部隊が高い所以外が目に入らない状態で逃げるため、必然的に頂上に向かうことと考察できる。要は高い所に逃げた場合、その逃げ道には限りがあることと解釈できる。結果、「(その敵は)頂上に逃げることだけに集中する」と補って解読。

・「下」の“高い所から低い所へ行く”は、①「下」で記述された「高い所から低い所に吹く風向きに変わる」の解釈から類推して、「風が高い所から低い所に吹く」と補って解読。

<③について>
・「風の上る」の直訳は“態度が低い所から高い所へ至る”となる。これは其十三1-2①「諸侯との同盟文書を燃やすこと」に関連すると解釈すれば、「同盟を結んだ頃は謙虚だった諸侯の態度が大きくなる」と補って解読できる。

・「火」の“燃やす”は、其十三1-2①2つ目の「火」の「諸侯との同盟文書を燃やす」を指すと考察。これは同盟を破棄することであるため、話の流れに合わせて「火くこと」で「同盟破棄」と解読。④も同様に解読。

・「風の下る」の直訳は“態度が高い所から低い所へ行く”となる。これは「風の上る」の「同盟を結んだ頃は謙虚だった諸侯の態度が大きくなる」の逆になると考察すれば、「大きくなった態度が謙虚になる」と解読できる。

<④について>
・「上ぐ風あり」の直訳は“いじめ侮る噂がある”となる。これは同盟破棄の意見を表した諸侯が、表面的には検挙になっても裏では自国を侮っており、その噂を将軍等が耳にすることと考察。結果、「その諸侯が自国を侮っている噂を耳にする」と補って解読。

・「風を攻めること毋し」の直訳は“精神に障害がある状態を治療することが無い”となる。この“精神に障害がある状態”は、自国を侮っている諸侯の、自国と敵対する考え方を指すと解釈すれば、“治療”は改心させることと考察できる。結果、「自国と敵対する考え方を改心させること無し」と解読できる。

・「下」の“攻め落とす”は、自国と敵対する考え方を持つ諸侯を攻め落とすことと考察。結果、話の流れに合わせて「その諸侯を攻め落とす」と補って解読。なお、攻め落とす時の戦略は、其十三1-2④「同盟した諸侯に信用できない汚れた言動があった時は、自国側から立場を変えるのであり、その諸侯を水没させるように周辺諸国で取り囲んだ状態で同盟文書を燃やすのである」の記述があることを補足しておく。

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