法は、曲を制し、官として道き、主るに用いるなり。

其一2-7

法者、曲制、官道、主用也。

fǎ zhě、qū zhì、guān daò、zhǔ yòng yĕ。

解読文

①法規やお手本とは、道理に背く言動を抑えて従わせ、公有して人民を指導し、物事を処理する時に使用するのである。

②法規は、官職の一つ一つを細かく制定したものであり、君主が採用して国家を統治するのである。

③お手本とは、戦略、戦術を遂行する各任務に誤りが生じることを断ち切るのであり、お手本を重要視する将軍は兵士達に指導して従い守らせるのである。

④里等を陣地にして従わせる状況に合致すれば、将軍は里等を経由する戦略をお手本にすることを主張し、君主にこの戦略を採用させるのである。
書き下し文
①法は、曲を制し、官として道(みちび)き、主(つかさど)るに用いるなり。

②法は、官を曲(つぶさ)に制(さだ)めることなり、主は用いて道(おさ)めるなり。

③法は、曲(きょく)あること制(せい)するなり、主とするものは道(みちび)きて用いらせしむなり。

④曲(きょく)を制(せい)することに法(のっと)れば、道(よ)ることに官(のっと)ること主とし、用いらせしむなり。
<語句の注>
・「法」は①法令、模範、手本、②法令、③手本、④合致する、の意味。
・「者」は①~とは、②③④助詞「こと」、の意味。
・「曲」は①道理にもとること、②一つ一つ細かく、③誤り、④郷里、の意味。
・「制」は①抑えて従わせる、②制定する、③断ち切る、④抑えて従わせる、の意味。
・「官」は①公有する、②官職、③器官の働き、④手本とする、の意味。
・「道」は①指導する、②統治する、③指導する、④経由する、の意味。
・「主」は①リーダーとなって物事を処理する、②一国の長、③重要視する、④採用する、の意味。
・「用」は①使用する、②採用する、③④従い守る、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「法」は“法令、模範、手本”等の意味をまとめて「法規やお手本」と解読する。また、後半以降に「真心のある法規や決まり」が頻出するが、これは「法」を指すと考察。

・「公有して人民を指導」の「公有」は、其十一7-1⑦「真心のある法規や決まりを諸侯に渡して人民を多くさせれば諸侯達を強化するのであり、真心のある法規や決まりの施行は必ず全ての諸侯に求めるのである」及び其十一7-7②「好き勝手にする敵人民にも真心のある法規や決まりを与えて誠実に実行すれば、自国に対する思いを厚くするのである」とあることから、統治下に置いた敵国や諸侯と「真心のある法規や決まり」を公有することと考察。また、其九6-1⑦「広まった真心のある法規や決まりによって敵国の人民を教え導けば、その人民は奴隷と共に降服してくるのである」に基づけば、この「真心のある法規や決まり」は国家機密ではなく、逆に中国全土に浸透させていくものとわかる。これも「公有」の一つと考察する。

<②について>
・特に無し。

<③について>
・「官」の“器官の働き”は、軍隊を人体に喩えた表現と考察。将軍を頭脳とすれば、“器官”は各隊長や各部隊を指すと解釈でき、その働きは「任務」と言える。また、主語が「(戦争の)お手本」であるため、頭脳である将軍が出す命令は「戦略、戦術」である。結果、「官」は「戦略、戦術を遂行する各任務」と解読した。

<④について>
・「里等を陣地にして従わせる状況に合致すれば、将軍は里等を経由する戦略をお手本にすることを主張」は、其七4-4①「敵軍の進路を妨害して陣地にする敵里に直進する戦略を理解して、敵軍よりも先制して敵里に行き着く将軍は、全軍の権勢を盛大にするのである。これが、先を争って敵里に陣取って利用するお手本である」と説かれる「汙直の計」をお手本とすることと考察し、解読した。

・「君主にこの戦略を採用させる」は、話の流れより「君主」に汙直の計を採用させることと解読した。なお、汙直の計によって、自軍が陣地を増やした後、最終的に敵国を戦うことなく抑えつける時は諸侯を編制した連合軍を使うため、「汙直の計」以外にも其十三4-3③「同盟を結んだ諸侯達を動員する合従策」があることを補足しておく。

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