戦わんと欲す者あれば、水に附けるもの無くして客を迎えるなり。

其九1-6

欲戰者、無附於水而迎客。

yù zhàn zhě、wú fù yú shuǐ ér yíng kè。

解読文

①まさに自国と戦争しようとしている敵軍が出現すれば、河川で防衛している軍隊を無くして来襲した敵軍の進路を予測するのである。

②来襲した敵軍の進路を予測した将軍は、まさに羊の集まりを導くように敵軍を動かそうとしている自軍を無視させて、敵軍を河川に近寄らせるのである。

③無視させていた自軍が河川に近寄らせた敵軍に出向いて迎撃すれば、河川の中に獲物となる敵部隊が出現するのであり、救出に向かう敵部隊が無ければ恐れ震えて物静かになるのである。

④恐れ震えて物静かになった敵部隊に、上級武将と親しもうとする態度が無ければ、その敵兵達の心には裏表が無いと考えて自軍で受け入れて礼遇するのである。
書き下し文
①戦(たたか)わんと欲す者あれば、水に附(つ)けるもの無くして客を迎えるなり。

②客を迎える而(なんじ)は、戦(そよ)げしめんと欲す者を無(なみ)せしめて、水に附(つ)けしむなり。

③而(なんじ)の客を迎えれば、水に於(う)あり、附(つ)ける者無ければ戦(おのの)きて欲(よく)たるなり。

④戦(おのの)きて欲(よく)たる者の而(なんじ)に附(した)しまんとすること無ければ、水と於(な)して迎えて客(かく)とするなり。
<語句の注>
・「欲」は①②まさに~しようとしている、③④しとやかなさま、の意味。
・「戦」は①戦をする、②揺れ動く、③④(恐れや寒さのために)震える、の意味。
・「者」は①②③④助詞「もの」、の意味。
・「無」は①無い、②無視する、③④無い、の意味。
・「附」は①くっつく、②③近寄る、④親しむ、の意味。
・「於」は①②~に、③カラス、④~とする、の意味。
・「水」は①②③河川、④無味無色透明の液体、の意味。
・「而」は①順接の関係を表す接続詞、②③④あなた、の意味。
・「迎」は①②未来を予測する、③出迎える、④受け入れる、の意味。
・「客」は①②③外来の敵軍、④礼遇する、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は欠落しているため、孫子(講談社)の原文に従った。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「水に附けるもの」の直訳は“河川にくっつく者”となる。これは自国内の河川で防衛している軍隊を指すと考察。結果、「河川で防衛している軍隊」と解読。

・「客を迎える」の“外来の敵軍の未来を予測する”となる。つまり、来襲した敵軍の進路を予測することと考察。結果、「来襲した敵軍の進路を予測する」と解読。②も同様に解読。

<②について>
・「戦」の“揺れ動く”は、其十一5-5⑥「羊の集まりを導くように軍隊を動かす」を指すと考察。但し、導く兵士達は、其九1-5②「川の渡し場にいる残り半分の敵軍を攻める」の敵軍を指すと解釈できる。結果、使役形で「羊の集まりを導くように敵軍を動かす」と解読。

<③について>
・「而」の“あなた”は、②「まさに羊の集まりを導くように敵軍を動かそうとしている自軍を無視させて、敵軍を河川に近寄らせる」で記述された自軍を指すと考察。結果、「無視させていた自軍」と補って解読。

・「客」の“外来の敵軍”は、②「まさに羊の集まりを導くように敵軍を動かそうとしている自軍を無視させて、敵軍を河川に近寄らせる」で記述された敵軍を指すと考察。結果、「河川に近寄らせた敵軍」と解読。

・「迎」の“出迎える”は、自軍から敵軍に向かっていく行為と解釈できる。結果、「出向いて迎撃する」と解読。

・「水」の“河川”は、其九1-5②「水の内」の「河川の中」の意味を積み上げていると考察。結果、「河川の中」と解読。

・「於」の“カラス”は、其五3-2①「鷹が獲物の鳥に追いついて強奪する時は、周到に行き届いているのであり、獲物の鳥を傷つけて挫折させる要因は、攻め取る節目と時機が出現したからである」の「獲物の鳥」と考察。結果、「獲物となる敵部隊」と解読。

・「附ける者」の直訳は“近寄る者”となる。これは其九1-5②「河川の中にいる獲物となった敵軍半分を出迎えて救出する敵部隊は存在しない」で記述された救出する敵部隊を指すと考察。結果、「救出に向かう敵部隊」と解読。

<④について>
・「而」の“あなた”は、其六1-5③「衰えた元敵兵達は安らかにさせて慰労して満腹な状態に至らせるのであり、上級武将に親しもうとする元敵兵達が存在すれば平常心ではいられない事態に向き合わせて改心させる」から類推して「上級武将」と解読。

・「水」の“無味無色透明の液体”は、「恐れ震えて物静かになった敵部隊」の心の喩えと解釈できる。 “無色透明”の意味に着眼すれば、その心が透き通っており、裏にも表にも何も無い状態を表現している解釈すれば、「その敵兵達の心には裏表が無い」と解読できる。

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