険に刑める者は、先んじて我を之らしめて居らしむなり、必ず陽らかなる高を以いて居り、敵を待つなり。

其十1-11

險刑者、我先居之、必居高陽以待敵。

xiǎn xíng zhě、wǒ xiān jū zhī、bì jū gaō yáng yǐ dài dí。

解読文

①地勢が険しく堅固に守れる戦地の型「険」で軍隊を整え治める将軍は、先制して自軍を到達させて占拠させるのであり、必ず見通しの良い高い所を採用して自軍を配置し、敵軍を待ち受けるのである。

②先制して自軍を到達させて戦地の型「険」を占拠すれば、敵軍を危険で交通困難な難所に配置させることに成功するのである。正攻法部隊は必ず高い所に配置して、その上、防御するのである。

③攻撃を留めて防御する正攻法部隊は、軍隊の勢いを蓄積して盛大にして自軍の有利を確固たるものにするのであり、将軍は事前に、難所で間者が隠れる場所をお手本にする奇策部隊を戦地の型「険」に赴かせて配置するのである。

④難所で間者が隠れる場所をお手本にする奇策部隊は、我を張って前進する敵部隊が通過したその後に攻撃を決行するのである。攻め取った敵兵達を敬ってもてなして、正攻法部隊で採用すれば自軍は兵士数を増やすのである。
書き下し文
①険に刑(おさ)める者は、先んじて我を之(いた)らしめて居(お)らしむなり、必ず陽(あき)らかなる高を以(もち)いて居(お)り、敵を待つなり。

②先んじて我を之(いた)らしめて居(お)れば、敵を険(けん)におらしむこと刑(な)り。陽は必ず高に居(お)りて、以て待(たい)するなり。

③敵を以(や)めて待(たい)する陽は、居(お)きて高くして必するなり、我は先(せん)なりて、険に刑(のっと)る者を之(ゆ)かしめて居(お)るなり。

④険に刑(のっと)る者は、我して先んずるもの之(ゆ)きて居(お)ること敵を必するなり。高しとして待ちて、陽に以(もち)いれば居(お)くなり。
<語句の注>
・「険」は①地勢の険しさ、守りが堅固であるさま、②③④山川が危険で交通困難な難所、の意味。
・「刑」は①整え治める、②成功する、③④手本にする、の意味。
・「者」は①助詞「もの」、②助詞「こと」、③④助詞「もの」、の意味。
・「我」は①②自分の側、③私、④我を張る、の意味。
・「先」は①②先制する、③(順序あるいは時間的に)前にあるさま、④前進する、の意味。
・1つ目の「居」は①②占拠する、③ある地位や場所にいる、④過ぎる、の意味。
・「之」は①②ある地点や事情に達する、③④赴く、の意味。
・「必」は①②きっと、③立場を確かにする、④決行する、の意味。
・2つ目の「居」は①②ある地位や場所にいる、③④蓄積する、の意味。
・「高」は①②高い所、③盛大なさま、④敬う、の意味。
・「陽」は①鮮明であるさま、②③④太陽、の意味。
・「以」は①採用する、②その上、③留める、④採用する、の意味。
・「待」は①待ち受ける、②③防ぐ、④もてなす、の意味。
・「敵」は①②戦争や競争で対抗する相手、③④攻撃、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)の原文を採用した。なお、「刑篇」同様に「形」は「刑」と置き換えた。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「険」は、其十1-1①「険」で記述された「地勢が険しく堅固に守れる戦地の型「険」がある」の意味を積み上げていると考察。結果、「険」で「地勢が険しく堅固に守れる戦地の型「険」」と解読。

・「刑」の“整え治める”は、軍隊を整え治めることと考察。結果、「軍隊を整え治める」と補って解読。②も同様に解読。

・「我」の“自分の側”は、軍隊における“自分の側”と考察し、「自軍」と解読。

・「陽らかなる高」の直訳は“鮮明である高い所”となる。これは其十1-3②「陽らかなる高」の解釈から類推して「見通しの良い高い所」と解読。

・2つ目の「居」の“ある地位や場所にいる”は、「見通しの良い高い所」に自軍を配置することと考察。結果、「自軍を配置する」と解読。

<②について>
・1つ目の「居」の“占拠する”は、①「居」で記述された「戦地の型「険」で軍隊を整え治める将軍は、先制して自軍を到達させて占拠させる」の意味を積み上げていると考察。結果、「戦地の型「険」を占拠する」と補って解読。

・2つ目の「居」の“ある地位や場所にいる”は、①2つ目の「居」同様に解釈して、「配置する」と解読。

・「陽」の“太陽”は、其五2-3「日」と同意であり、「日月」の解釈より「正攻法部隊」と解読。③④も同様に解読。

<③について>
・「居きて高くす」の直訳は“蓄積して盛大にする”となる。これは、其十1-3③「軍隊の勢いを盛大に蓄積した自軍の正攻法部隊に向かって前進すれば、痛みを伴うと敵兵達に感じさせることに成功する」から類推すれば、「軍隊の勢いを蓄積して盛大にする」と補って解読できる。

・「必」の“立場を確かにする”は、敵軍を危険な難所に配置させて、尚且つ軍隊の勢いを盛大にしたことで自軍が有利な状態を確定させることと解釈。結果、「自軍の有利を確固たるものにする」と解読。

・「険」の“山川が危険で交通困難な難所”は、敵軍を配置させた②「危険で交通困難な難所」であり、其九3-3①「慎んで軍隊を潜み隠れさせることができる将軍は、用心深く難所の傍を探求しても元の状態に戻すのであり、敵が間者を使うであろう場所は落ち着かせるのである」から類推すれば間者(奇策部隊)の隠れ場所を指すと考察できる。結果、話の流れに合わせて「険に刑る者」で「難所で間者が隠れる場所をお手本にする奇策部隊」と解読。④も同様に解読。

・1つ目の「居」の“ある地位や場所にいる”は、②2つ目の「居」同様に解釈して、「配置する」と解読。

・「之」の“赴く”は、奇策部隊を戦地の型「険」に赴かせることと考察。結果、使役形で「戦地の型「険」に赴かせる」と補って解読。

<④について>
・「我して先んずるもの」の直訳は“我を張って前進する者”となる。これは奇策部隊に攻め取られる敵部隊と考察。結果、「我を張って前進する敵部隊」と解読。

・「之」の“赴く”は、話の流れより「我を張って前進する敵部隊」が奇策部隊の隠れている場所を通過していくことと考察できる。結果、「通過していく」と解読。

・1つ目の「居」の“過ぎる”は、漢辞海によれば「居ること」で”一定の時間が過ぎたことを示す“とあるため、「居ること」で「その後に」と解読した。

・「高しとして待つ」の直訳は“敬ってもてなす”となる。話の流れより奇策部隊が攻め取った敵兵達を敬ってもてなすことと考察できる。結果、「攻め取った敵兵達を敬ってもてなす」と補って解読。

・2つ目の「居」の“蓄積する”は、敵兵達を攻め取って自軍が兵士数を増やすことと考察。結果、「自軍は兵士数を増やす」と言い換えた。

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