其十5-6
知天知地、勝乃不窮。
zhī tiān zhī dì、shèng nǎi bù qióng。
解読文
①自然の摂理を理解して、場所について理解して、兵士数を盛大にして、そうしてはじめて行き詰まることが無いのである。 ②大いに行き詰まる将軍は、家柄を覚えるのであり、仰ぎ頼る家柄を識別して担ぎ上げるのである。 ③仰ぎ頼る家柄を担ぎ上げる将軍は、終わること無く、ひたすら仰ぎ頼る家柄を接待して交流するのである。 ④ひたすら仰ぎ頼る家柄を接待して交流する将軍は、大いに優美に過ごして志を得ることが無く、占い師を理解者とするのである。 ⑤占い師は、有利に戦える場所となる戦地を将軍に知らせるが、大いに行き詰まるのである。 ⑥行き詰まることが無い将軍は、将軍の知恵の無さを明らかにする理解者を仰ぎ頼る存在にして、有利に戦える場所となる戦地を識別するのである。 ⑦有利に戦える場所となる戦地を識別する将軍は、有利に戦える場所について大いに詳しく研究し尽くすのであり、自然の摂理に基づいて奇正の戦術を行う知恵があるのである。 ⑧自然の摂理に基づいて奇正の戦術を行う知恵があり、有利に戦える場所となる戦地を識別すれば、自軍が優勢になって行き詰まることが無いのである。 |
書き下し文
①天を知りて、地を知りて、勝(まさ)りて乃ち窮まること不(な)きなり。 ②不(おお)いに窮まる乃(なんじ)は、地を知るなり、天を知(ち)して勝(た)えるなり。 ③勝(た)える乃(なんじ)は、窮まること不(な)く、地(た)だ天を知りて知るなり。 ④知る乃(なんじ)は、不(おお)いに勝(しょう)たりて窮まり、天なす地を知とするなり。 ⑤天なす地は、勝(しょう)たる地を乃(なんじ)に知(ち)するも、不(おお)いに窮まるなり。 ⑥窮まること不(な)き乃(なんじ)は、知を天たりて、勝(しょう)たる地を知るなり。 ⑦地を知る乃(なんじ)は、勝(しょう)を不(おお)いに窮めるなり、天なす知あるなり。 ⑧天なす知ありて、地を知れば、勝(まさ)りて乃ち窮まること不(な)きなり。 |
<語句の注>
・1つ目の「知」は①理解する、②識別する、③④交わる、⑤⑥知己、⑦⑧知恵、の意味。 ・「天」は①其一2-4①「天」、②③④仰ぎ頼る対象、④⑤其一2-4④「天」、⑥仰ぎ頼る対象、⑦⑧其一2-4①「天」、の意味。 ・2つ目の「知」は①理解する、②覚える、③接待する、④知己、⑤知らせる、⑥⑦⑧識別する、の意味。 ・「地」は①其一2-5①「地」、②家柄、③ひたすら、④地位、⑤其一2-5②「地」、⑥⑦⑧其一2-5②「地」、の意味。 ・「勝」は①盛大な、②③担ぎ上げる、④優美な、⑤⑥⑦景色の優れた土地、⑧越える、の意味。 ・「乃」は①そうしてはじめて、②③④⑤⑥⑦あなた、⑧~である、の意味。 ・「不」は①無い、②大いに、③無い、④⑤大いに、⑥無い、⑦大いに、⑧無い、の意味。 ・「窮」は①②行き詰まったさま、③終わる、④志を得ないさま、⑤⑥行き詰まったさま、⑦詳しく研究し尽くす、⑧行き詰まったさま、の意味。 |
<解読の注>
・中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は地刑篇全て欠落しているため、新訂孫子(岩波)の原文を採用した。孫子(講談社)は「不窮」を「可全」と置き換えるが、其十5-5「知彼知己、勝乃不殆」と対句になっていると解釈して不採用とした。 ・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。 <①について> ・「勝」の“盛大な”は、其十5-3⑧「ひたすら兵士数が凌駕した軍隊を整え治めれば、敵軍による奇正の戦術の実行を許すことが無く、敵兵達を恐れ震えさせるのであり、敵本軍から分断された部隊を出現させた時、自軍の奇策部隊が出現してその敵部隊を打ち破るのである」で記述された「兵士数が凌駕した軍隊」を表現すると考察。結果、「勝たり」で「兵士数を盛大にする」と補って解読。 <②について> ・「天」の“仰ぎ頼る対象”は、覚えた家柄の内、仰ぎ頼る家柄を指すと考察。結果、「仰ぎ頼る家柄」と解読。③④も同様に解読。 <③について> ・「勝」の“担ぎ上げる”は、②「勝」で記述された「仰ぎ頼る家柄を識別して担ぎ上げる」の意味を積み上げていると考察。結果、「仰ぎ頼る家柄を担ぎ上げる」と補って解読。 <④について> ・1つ目の「知」の“交わる”は、③1つ目の「知」で記述された「ひたすら仰ぎ頼る家柄を接待して交流する」の意味を積み上げていると考察。結果、「ひたすら仰ぎ頼る家柄を接待して交流する」と補って解読。 ・「天」は、其一2-4④「天」と同意と解釈。其一2-4④「天の意思とは、盲目的に占いの結果に従うこと」に基づけば、「占い」と解釈できる。結果、「天なす地」は“占いを行う地位”となり、「占い師」と解読できる。 ・2つ目の「知」の“知己”は、其十5-5⑦⑧1つ目の「知」の「将軍の知恵の無さを明らかにする理解者」との対比と考察した上で、簡潔に「理解者」と解読。 <⑤について> ・「天なす地」は、④「天なす地」同様に「占い師」と解読。 ・「勝」の“景色の優れた土地”は、 “自軍にとって”景色が優れた土地であり、自軍が有利に戦えるから優れた景色だと解釈。結果、「有利に戦える場所」と解読。⑥⑦も同様に解読。 <⑥について> ・1つ目の「知」の“知己”は、其十5-5⑦⑧1つ目の「知」の「将軍の知恵の無さを明らかにする理解者」と同意と考察。結果、「将軍の知恵の無さを明らかにする理解者」と解読。 <⑦について> ・「地」は、⑥「地」の「有利に戦える場所となる戦地」の意味を積み上げていると考察。結果、「有利に戦える場所となる戦地」と補って解読。⑧も同様に解読。 ・「天」は、其一2-4①「天」で記述された「自然の摂理とは、日陰と日なたがあり、寒い日と暑い日があり、時間の流れをつくるのである」を指すと考察。“日陰と日なた”は、其一2-4②「月と太陽」と表現しており、これは「奇策部隊と正攻法部隊」の喩え。“寒い日と暑い日”は、其一2-4③「火災のような正攻法部隊でどんどん攻め込んで敵をおののかす」とあり、それぞれ「火災のように勢いある自軍と恐れ震える敵軍」の喩え。“時間の流れ”は、其一2-4②「時間の流れがつくる季節」とあり、この季節は其五2-4②「四季が規則正しく動けば、植物が消えたように見えても元の状態に戻すだけである」を指す。これは其五2-4③「正攻法部隊の中で消耗した部隊が生じた時は戦線から離脱させて兵士達を回復させて立て直し、正攻法部隊を構成する各部隊から適切な部隊を正確に判断して戦線に出す」の喩え。つまり、“時間の流れ”とは正攻法部隊を消耗させないための教えであり、其五2-3①「冬が訪れて、さらに春が訪れる要因は、太陽と月が規則正しく動くからである」を踏まえれば正攻法部隊と連動して動く奇策部隊を含めて「奇正の戦術」を指すと解釈できる。結果、「天なす」で「自然の摂理に基づいて奇正の戦術を行う」と補って解読。⑧も同様に解読。 <⑧について> ・「勝」の“越える”は、自軍が敵軍よりも優勢になった状態を指すと考察し、「自軍が優勢になる」と解読。 |