疾ければ則ち存ち、疾きに不ざれば則ち亡れれば、死と為す。

其十一1-10

疾則存、不疾則亡者、為死。

jí zé cún、bù jí zé wáng zhě、wéi sǐ。

解読文

①兵士達の旺盛な士気が切れ味の鋭い武器になっている場合は軍隊を保ち続け、兵士達の士気が殺がれた状態である場合に兵士達が逃走すれば、敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」と言える。

②信念や理想のために命を捨てさせれば、兵士達の士気が激しく旺盛になって生き永らえるのが道理であり、その兵士達は逃走する兵士が出現するならば大いに非難するのである。

③士気が激しく旺盛になっている兵士達は法規や決まりを心に覚えておくが、大いに力を尽くして敵軍とせめぎ合う時、法規や決まりは記憶からなくなって命を投げ出す覚悟を持つのである。

④戦地「死地」で命を投げ出す覚悟を持って敵軍とせめぎ合う兵士達は、法規や決まりが記憶からなくなって大いに慌ただしくなり、戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替わる道理によって激しく旺盛な士気を保ち続けるのである。
書き下し文
①疾(と)ければ則ち存(たも)ち、疾(と)きに不(あら)ざれば則ち亡(のが)れれば、死と為(な)す。

②死為(せ)しめば、疾(と)くして存(そん)するは則(そく)なり、亡(のが)れる者あれば則ち不(おお)いに疾(そし)るなり。

③疾(と)き者は則(そく)を存(そん)するも、不(おお)いに疾(つと)めて為(な)すに、則(そく)を亡(わす)れて死たるなり。

④死に為(な)す者は、則(そく)を亡(わす)れて不(おお)いに疾(はや)くし、則(そく)に疾(と)きを存(たも)つなり。
<語句の注>
・1つ目の「疾」は①②③④鋭い、の意味。
・1つ目の「則」は①Aの場合は~Bの場合は~、②道理、③条文、決まり、④道理、の意味。
・「存」は①保ち続ける、②生き永らえる、③心に覚えておく、④保ち続ける、の意味。
・「不」は①~ではない、②③④大いに、の意味。
・2つ目の「疾」は①鋭い、②非難する、③力を尽くす、④あわただしい、の意味。
・2つ目の「則」は①Aの場合は~Bの場合は~、②~ならば、③④条文、決まり、の意味。
・「亡」は①②逃走する、③④記憶からなくなる、の意味。
・「者」は①仮定表現の助詞、②③④助詞「もの」、の意味。
・「為」は①~と言える、②~させる、③④行う、の意味。
・「死」は①其十一1-1①「死」、②信念や理想のために命を捨てる、③命を投げ出す覚悟のあるさま、④其十一1-1①「死」、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、以下、それぞれについて解説する。

<①について>
・1つ目の「疾」の“鋭い”は、其七6-2②「早朝の旺盛な士気は切れ味の鋭い武器」を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「兵士達の旺盛な士気が切れ味の鋭い武器になっている」と解読。

・「存」の“保ち続ける”は、激しく旺盛な軍隊の勢いによって軍隊を保ち続けることと考察。結果、「軍隊を保ち続ける」と補って解読。④も同様に解読。

・「疾きに不ず」の直訳は“鋭い状態ではない”となる。これは其七6-2②「早朝の旺盛な士気は切れ味の鋭い武器」の否定であるため、反対の其七6-2②「夕暮れ時の殺がれた士気は既に敗北した状態」の意味を指すと考察。結果、「兵士達の士気が殺がれた状態である」と解読。

<②について>
・1つ目の「疾」の“鋭い”は、其七6-2③「早朝における軍隊の勢いは士気が激しく旺盛である」を指すと考察。結果、話の流れに合わせて「兵士達の士気が激しく旺盛になる」と解読。

<③について>
・「疾き者」は、「疾」を其七6-2③「早朝における軍隊の勢いは士気が激しく旺盛である」と解釈すれば、「士気が激しく旺盛になっている兵士達」と解読できる。

・1つ目と2つ目の「則」は”条文”と“決まり”の掛け言葉と解釈。“条文”は、其一2-7②「法」の「法規」と同意と考察。結果、「法規や決まり」と解読。

・「為」の“行う”は、敵軍とせめぎ合うことと考察。結果、「敵軍とせめぎ合う」と言い換えた。

<④について>
・「死」は、其十一1-1①「死」の「敵と命を取り合う覚悟が必要な戦地「死地」」だが、冗長にならないように「戦地「死地」」と簡略化して解読。

・「為」の“行う”は、③「大いに力を尽くして敵軍とせめぎ合う時、法規や決まりは記憶からなくなって命を投げ出す覚悟を持つ」を指すと考察。結果、「命を投げ出す覚悟を持って敵軍とせめぎ合う」と解読。

・2つ目の「則」は、③「則」同様に「法規や決まり」と解読。

・1つ目の「則」の“道理”は、其五2-4③「次に訪れる季節に向けて土の中に隠れている植物が生育して元の状態に戻るように、正攻法部隊の中で消耗した部隊が生じた時は戦線から離脱させて兵士達を回復させて立て直し、正攻法部隊を構成する各部隊から適切な部隊を正確に判断して戦線に出す」という自然の摂理に基づいた教えが、「死地」においては自ずと実行されることが其十一3-12②「信念や理想のために涙を流した兵士達が従事する正攻法部隊は、戦略、戦術を実行する正しい方法を無視するが、戦線にひきつけられて飛び込むのであり、戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替えて部隊の兵力を保つ状態になって勇猛に敵軍とせめぎ合うのである」及び其十一3-12③「戦線で戦う部隊に後退する意思が無くても、この部隊を払いのける部隊が出現して、他の兵士達が戦う時間に変わるのである」等で記述されている。結果、「戦線の部隊が消耗する前にどんどん入れ替わる道理」と補って解読。

・1つ目の「疾」の“鋭い”は、②1つ目の「疾」同様に「兵士達の士気が激しく旺盛になる」と解釈した上で、話の流れに合わせて「疾き」で「激しく旺盛な士気」と解読。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。