諸の、侯に是なりて故を知らしめざるも之を謀れば、交予ること能わざるなり。

其十一7-2

是故、不知諸侯之謀者、不能豫交。

shì gù、bù zhī zhū hoú zhī moú zhě、bù néng yù jiāo。

解読文

①将軍が、諸侯に正しく戦略、戦術を理解させていないのに合従策を計画すれば、自軍と諸侯達は互いに連携することができないのである。

②合従策の計画を授受しても連携することができない諸侯は、戦略、戦術で使う多くの指示の目印を記憶していない状態で戦争に至るのである。

③戦略、戦術で使う多くの指示の目印を記憶していない諸侯は、合従策の計画を授受する時に考察することを怠ったのであり、将軍に対して「どのように正確な判断をするのか?」と質問しないが、災いが起こるのである。

④合従策の計画を授受する時に将軍に対して質問しない諸侯は、災いに至れば切羽詰まった状態になると懸念することができないのである。将軍は、質問しない諸侯を識別して名簿にするのである。

⑤質問しない諸侯を識別して名簿にすれば、将軍は、災いとなる諸侯のために働く側近を授けて、大いに行き来させることで、大いに管理することができるのである。

⑥側近を授けて災いとなる諸侯を管理する将軍は、時期の変わり目に遊び楽しませること無く任務に堪えさせるのであり、全ての諸侯に正しく戦略、戦術を実行させて、合従策の計画を変更することは無いのである。

⑦合従策の計画を変更する将軍は、全ての諸侯達に予め準備させることができないのであり、戦略、戦術を正しく理解することが無いのである。

⑧合従策の計画を変更することが無ければ、全ての諸侯達に予め準備させることができるのであり、全ての指示の目印を記憶して、大いに戦略、戦術を正確に判断するのである。
書き下し文
①諸の、侯に是(ぜ)なりて故を知らしめざるも之を謀れば、交(こもごも)予(あずか)ること能(あた)わざるなり。

②謀を交(か)うも予(あずか)ること能(あた)わざる者は、之の諸なる侯を知らざりて故に是(ゆ)くなり。

③之を知らざる者は、交(か)うに予(よ)するなり、諸に侯(なん)ぞ是(ぜ)するかと謀(はか)らざるも故たるなり。

④謀(はか)らざる者は、故に是(ゆ)けば交たりと予(ためら)うこと能(あた)わざるなり。諸は、之を知りて侯とするなり。

⑤侯とすれば、諸は、故たる是を謀る之を予(あた)えて、不(おお)いに交わらしめて、不(おお)いに能(よ)く知るなり。

⑥知る者は、交に予(たの)しましむこと不(な)くして能(よ)くせしむなり、諸なる侯に是(ぜ)なりて故なせしめて、謀の之(ゆ)くこと不(な)きなり。

⑦謀の之(ゆ)く者は、諸なる侯をして予(あらかじ)めせ交(し)むこと能(あた)わざるなり、故を是(ぜ)なりて知ること不(な)きなり。

⑧謀の之(ゆ)くこと不(な)ければ、能(よ)く予(あらかじ)めせ交(し)むなり、諸なる侯を知りて、不(おお)いに故を是(ぜ)するなり。
<語句の注>
・「是」は①正しい、②至る、③正確な判断、④至る、⑤代名詞、⑥⑦正しい、⑧正確な判断、の意味。
・「故」は①たくらみ、②事変、③④⑤災い、⑥⑦⑧たくらみ、の意味。
・1つ目の「不」は①②③④~しない、⑤大いに、⑥⑦無い、⑧大いに、の意味。
・「知」は①理解する、②③記憶する、④識別する、⑤⑥司る、⑦理解する、⑧記憶する、の意味。
・「諸」は①あなた、②多くの、③④⑤あなた、⑥⑦⑧全ての、の意味。
・「候」は①諸侯、②射礼のときに獣皮や布を張った矢の標的、③どうして、④⑤射礼のときに獣皮や布を張った矢の標的、⑥⑦諸侯、⑧射礼のときに獣皮や布を張った矢の標的、の意味。
・「之」は①②③④代名詞、⑤彼、⑥⑦⑧変わる、の意味。
・「謀」は①計画する、②計画、③④質問する、⑤~のために働く、⑥⑦⑧計画、の意味。
・「者」は①仮定表現の助詞、②③④助詞「もの」、⑤仮定表現の助詞、⑥⑦助詞「もの」、⑧仮定表現の助詞、の意味。
・2つ目の「不」は①②③④~しない、⑤大いに、⑥無い、⑦~しない、⑧無い、の意味。
・「能」は①②~することができる、③~であるが、④⑤~することができる、⑥任に堪える、⑦⑧~することができる、の意味。
・「予」は①②関わる、③怠る、④懸念する、⑤授ける、⑥遊び楽しむ、⑦⑧予め準備する、の意味。
・「交」は①互いに、②③授受する、④切羽詰まったさま、⑤行き来する、⑥時期の変わり目、⑦⑧させる、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する。
・其七3-1「是故、不知諸侯之謀者、不能豫交。」と原文は同じだが、解読内容は全く異なる。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「之」は、其十一7-1②「従」の「合従策」を指示する代名詞と解読。結果、「合従策」と解読。

・「交」の“互いに”は、自軍と連合する諸侯達を指すと考察。結果、「自軍と諸侯達は互いに」と補って解読。

・「予」の“関わる”は、合従策を成功させるために自軍と諸侯達が互いに関わり合うことであるため、相互に連携することと考察。結果、「連携する」と言い換えた。②も同様に解読。

<②について>
・「謀」の“計画”は、①「謀」で記述された「合従策を計画する」の意味を積み上げていると考察。結果、「合従策の計画」と解読。⑥⑦⑧も同様に解読。

・「之」は、①「故」の「戦略、戦術」を指示する代名詞と解読。

・「諸なる侯」は“多くの矢の標的”となる。“矢”を軍隊の喩えと解釈すれば、其十一5-4⑥「同盟を結んだ諸侯は少しずつ進軍しながら戦地に赴いて、事前に学習した手本に基づいて全ての指示の目印について精通する」等で記述された軍隊を動かすための「指示の目印」と考察できる。結果、「多くの指示の目印」と解読。

<③について>
・「之」は、②「侯」の「戦略、戦術で使う多くの指示の目印」を指示する代名詞と解読。

・「交」の“授受する”は、②「交」で記述された「合従策の計画を授受する」の意味を積み上げていると考察。結果、「合従策の計画を授受する」と補って解読。

・「予」の“怠る”は、其三6-1②「表面的な知識が災いとなる理由は、多くの戦争について大いに知識を得る時、考察することを怠けた自分が存在することにある」に基づけば、「考察することを怠る」と補って解読できる。

<④について>
・「謀らざる者」の直訳は“質問しない者”となる。これは④「謀」で記述された「合従策の計画を授受する時に考察することを怠ったのであり、将軍に対して「なぜ?」と質問しない」の意味を積み上げていると考察。結果、「合従策の計画を授受する時に将軍に対して質問しない諸侯」と解読。

・「之」は、「者」の「質問しない諸侯」を指示する代名詞と解読。

・「候」の“射礼のときに獣皮や布を張った矢の標的”は、話の流れより気を配るべき「質問しない諸侯」の喩えと解釈できる。この解釈に基づき、其十一5-4③「候」で記述された「元敵兵を記録した名簿」から類推すれば、気を配るべき諸侯の名簿と考察できる。結果、「候とする」で「名簿にする」と解読した。

<⑤について>
・「候」の“射礼のときに獣皮や布を張った矢の標的”は、④「候」で記述された「質問しない諸侯を識別して名簿にする」の意味を積み上げていると考察。結果、「候とする」で「質問しない諸侯を識別して名簿にする」と補って解読。

・「是」は、④「之」の「質問しない諸侯」を指示する代名詞と解釈。質問しない諸侯は名簿化されており、複数存在することを踏まえて、又話の流れに合わせて「諸侯達」と簡潔に解読。

・「之」の“彼”は、「災いとなる諸侯」を管理する存在であるため、其七6-5③「将軍の側近を派遣して遠方にある諸侯国と親しむ時は、深遠な思慮をもって進言する側近を諸侯の側近として派遣するのである」の“将軍の側近”を指すと考察。結果、「側近」と解読。

<⑥について>
・「知」の“司る”は、⑤「知」で記述された「災いとなる諸侯のために働く側近を授けて、大いに行き来させることで、大いに管理する」の意味を積み上げていると考察。結果、「側近を授けて災いとなる諸侯を管理する」と補って解読。

<⑦について>
・特に無し。

<⑧について>
・「予」の“予め準備する”は、⑦「予」で記述された「全ての諸侯達に予め準備させることができない」の意味を積み上げていると考察。結果、使役形で「全ての諸侯達に予め準備させる」と補って解読。

・「候」の“射礼のときに獣皮や布を張った矢の標的”は、②「候」の解釈に基づき「指示の目印」と解読。

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