郷けしむ間の故たれば、間に内を得て使う可きなり、是に因れば而く之を知るなり。

其十二4-4

故郷閒、内閒可得而使也、因是而知之。

gù xiāng xián、neì xián kĕ deǐ ér shǐ yĕ、yīn shì ér zhī zhī。

解読文

①陣地にした敵里に恩恵を享受させる間者が、その敵人民と馴染みの関係になれば、敵組織内部と親しい者を手に入れて働かせることができるのであり、この敵組織内部と親しい者を頼れば、敵役人と知り合うことができるのである。

②この間者が、敵組織内部と親しい者に対して秘密裏に金品を与えれば、自国は敵組織内部に繋がる使者を手に入れることができるのである。敵組織内部と親しい者が将軍に従えば、その敵役人を接待させるのである。

③敵組織内部に繋がる使者を使って、敵組織内部の役人に対して妾の戦術を実行した結果、誘いに乗れば、この二者の関係を利点として、敵里に恩恵を享受させた間者は敵の実情を手に入れることができるのである。妾の戦術を踏襲すれば、将軍は、敵組織内部の役人を支配するのである。

④妾の戦術を実行して敵役人が誘いに乗れば、脇道から敵組織内部に入り込んで官職として参加できるのであり、自軍の将軍が考えている方針や戦略、戦術に適合させることができるのである。陣地にした敵里に恩恵を享受させる間者は、敵組織内部と親しい者を利用して、敵の実情を得るのである。
書き下し文
①郷(う)けしむ間の故たれば、間に内を得て使う可きなり、是(これ)に因(よ)れば而(よ)く之を知るなり。

②間の、故に郷(む)かって間(ひそ)かに内(おさ)めれば、而(なんじ)は使(つか)いを得る可きなり。是(これ)の而(なんじ)に因(よ)れば之を知らしむなり。

③使(つか)いをして、間に内の故なすに、郷(きょう)あれば、間を可として而(よ)く得るなり。是(これ)に因(よ)れば、而(なんじ)は之を知るなり。

④故なして郷(きょう)あれば、間(しの)びて内(い)れしめて間(あず)かる可きなり、而(よ)く得せ使(し)むなり。之は、是(これ)に因(よ)りて知るなり。
<語句の注>
・「故」は①②馴染み、③④たくらみ、の意味。
・「郷」は①享受する、②~に対して、③④こだま、の意味。
・1つ目の「間」は①②スパイ、③内、④脇道から、の意味。
・「内」は①親しい人、②(物や税などを)納付する、③妾、④(人などを内部へ)引き入れる、の意味。
・2つ目の「間」は①内、②秘密裏に、③二者の関係、④参加する、の意味。
・「可」は①②~できる、③長所、④~できる、の意味。
・「得」は①②③手に入れる、④適合する、の意味。
・1つ目の「而」は①順接の関係を表す接続詞、②あなた、③④~できる、の意味。
・「使」は①働かせる、②③使者、④使役形、の意味。
・「也」は①②③④断定の語気、の意味。
・「因」は①頼る、②従う、③踏襲する、④利用する、の意味。
・「是」は①②③④代名詞、の意味。
・2つ目の「而」は①~できる、②③あなた、④順接の関係を表す接続詞、の意味。
・「知」は①知り合う、②接待する、③司る、④知識を得る、の意味。
・「之」は①彼、②③④代名詞、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文は「故郷閒、内閒可得而使也・・・」と後半が欠落しているため、孫子(講談社)の原文を採用した。
・この句には四通りの書き下し文と解読文がある。①②③④と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・「郷」の“享受する”は、其十二2-7①「郷」で記述された「陣地にした敵里に恩恵を享受させる」の意味を積み上げていると考察。結果、使役形で「陣地にした敵里に恩恵を享受させる」と補って解読。

・1つ目の「間」の“スパイ”は、文意より其十二2-2①「敵里の人民と親しく交流する間者」だが、ここでは「間者」と簡潔に解読。②も同様に解読。

・「故」の“馴染み”は、間者が陣地にした敵里で元敵人民と馴染みの関係になることと考察。結果、「故たり」で「その敵人民と馴染みの関係になる」と補って解読。

・2つ目の「間」の“内”は、其十二2-2①「内」の「敵組織内部」と同意と考察。結果、「敵組織内部」と解読。

・「是」は、「内」で記述された「敵組織内部と親しい者」を指示する代名詞と解釈。結果、「この敵組織内部と親しい者」と解読。

・「之」の“彼”は、其十二2-8①「敵役人(敵組織内部の者)」を指すと考察。結果、「敵役人」と解読。

<②について>
・「故」の“馴染み”は、①「敵組織内部と親しい者」を指すと考察。結果、「敵組織内部と親しい者」と解読。

・「内」の“(物や税などを)納付する”は、「敵組織内部と親しい者」に対する買収行為と考察。結果、「金品を与える」と言い換えた。

・「使」の“使者”は、「敵組織内部と親しい者」が自国と敵組織内部を繋ぐ使者になることと考察。結果、「敵組織内部に繋がる使者」と補って解読。③も同様に解読。

・「是」は、「故」の「敵組織内部と親しい者」を指示する代名詞と解読。

・「之」は、①「之」の「敵役人」を指示する代名詞と解読。

<③について>
・1つ目の「間」の“内”は、其十二2-2②「内」の「敵組織内部の者」と同意であり、話の流れより、ここでは「敵役人」を指すと考察。結果、「敵組織内部の役人」と解読。

・「内の故」の直訳は“妾のたくらみ”となる。これは其十二2-8③「男心に習熟した妾は、女性への関心がある敵役人に限定して、性行為に乗じて従わせることができる存在である」の戦術を指すと考察。結果、「妾の戦術」と解読。

・「郷」の “こだま”について、“こだま”とは、山や谷で声や音が反響して聞こえてくるものであるため、「敵組織内部の役人」が妾の誘いに応じることと考察できる。結果、「誘いに乗る」と解読。

・「得」の“手に入れる”は、其十二2-8①「妾を間に挟むことで敵組織内部の者から敵の実情を多く得る間者」の意味を積み上げていると考察。但し、この間者は、ここでは①「敵里に恩恵を享受させる間者」を指すことを踏まえて、「敵里に恩恵を享受させた間者は敵の実情を手に入れる」と補って解読。

・「是」は、「内の故」の「妾の戦術」を指示する代名詞と解読。

・「之」は、1つ目の「間」の「敵組織内部の役人」を指示する代名詞と解読。

・「知」の“司る”は、ここでは「敵組織内部の役人」を支配する意味合いと考察。結果、「支配する」と解読。

<④について>
・「故」の“たくらみ”は、③「故」で記述された「妾の戦術」の意味を積み上げていると考察。結果、「妾の戦術」と解読。

・「郷」の “こだま”は、③「郷」同様に解釈した上で、主語として「敵役人」を補う。結果、「敵役人が誘いに乗る」と解読。

・「間びて内れしめて間かる」の直訳は“脇道から人を内部へ引き入れさせて参加する”となる。これは其十二2-8④「脇道から敵組織内部に入り込む間者は、妾が従わせた敵役人のつてで優れた人物として官職につく」を指すと考察。結果、「脇道から敵組織内部に入り込んで官職として参加する」と補って解読。

・「得」の“適合する”は、話の流れより其十二2-8④「用」で記述された「自軍の将軍が考えている方針や戦略、戦術に上手く適合させる」の意味を積み上げていると考察。結果、使役形で「自軍の将軍が考えている方針や戦略、戦術に適合させる」と補って解読。

・「之」は、①1つ目の「間」の「陣地にした敵里に恩恵を享受させる間者」を指示する代名詞と解読。

・「是」は、①「内」で記述された「敵組織内部と親しい者」を指示する代名詞と解読。

・「知」の“知識を得る”の“知識”は、其一1-2①「敵自身から敵の実情を教えてもらう」の「敵の実情」を指すと考察。結果、「敵の実情を得る」と解読。

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