日には短きと長き有り、月には死と生有り。

其六6-6

日有短長、月有死生。

rì yoǔ duǎn cháng、yuè yoǔ sǐ shēng。

解読文

①太陽には低く昇る時期と高く昇る時期が有り、月には欠ける時期と満ちる時期が有る。

②正攻法部隊には虚弱で脆い軍隊と充実して堅固な軍隊が有り、奇策部隊には隠れている状態と出撃している状態が有る。

③充実して堅固な軍隊となった正攻法部隊で戦地を占有すれば、隠れていた奇策部隊が出現して敵兵を生け捕りにし、敵軍の兵士数を減らすのである。

④虚弱で脆い軍隊である正攻法部隊で戦地を占有した時は、長期に渡って戦況が硬直状態となり、事前に隠れさせた奇策部隊は敵軍によって生け捕りにされる。

⑤日を追うごとに奇策部隊が消耗した敵部隊を生け捕りにすれば取得した敵兵の人数は多いのであり、その兵士達を治めた時、敵軍の兵士数を減らして自軍は充実して堅固な軍隊となるのである。

⑥奇策部隊を事前に隠れさせても敵兵を死なせるだけならば、戦地「死地」に達する出撃命令を出す日は、いつも虚弱で脆い軍隊になっているだろう。

⑦隠れていた奇策部隊が生存している敵兵達を取得しようとしても、その敵兵達が、自軍の正攻法部隊を虚弱で脆い軍隊と見なせば無駄になるだろう。

⑧奇策部隊が死者よりも生存者を多くすれば、戦地「死地」に達する出撃命令を出す日、充実して堅固な自軍は、虚弱で脆い敵軍を手に入れるのである。
書き下し文
①日には短きと長き有り、月には死と生有り。

②日には短きと長き有り、月には死と生有り。

③長なる日を有(たも)てば、死す月の有りて生たり、短くするなり。

④短なる日を有(たも)つに、長く死なりて、有(たも)つ月は生される。

⑤日(ひび)に月の死すもの生たれば有るなり、有(たも)つに短くして長たるなり。

⑥月を有(たも)つも生(た)だ死(ころ)せば、日は長(つね)に短き有(た)らん。

⑦死す月の生を有(たも)たんとするも、日を短有(た)れば長たらん。

⑧月は死より生有(あ)れば、日に、長きは短きを有(たも)つなり。
<語句の注>
・「日」は①②③④太陽、⑤日を追うごとに、⑥ある特定の日、⑦太陽、⑧ある特定の日、の意味。
・1つ目の「有」は①②事物が存在する、③④占有する、⑤治める、⑥~である、⑦~とみなす、⑧手に入れる、の意味。
・「短」は①②低い、③減らす、④低い、⑤減らす、⑥⑦⑧低い、の意味。
・「長」は①②③高い、④長期に渡って、⑤高い、⑥いつも、⑦無駄、⑧高い、の意味。
・「月」は①②③④⑤⑥⑦⑧月球、の意味。
・2つ目の「有」は①②事物が存在する、③ある事情が出現したり発生したりする、④備える、⑤豊作であるさま、⑥備える、⑦手に入れる、⑧多い、の意味。
・「死」は①②③消える、④硬直したさま、⑤草木が枯れる、⑥死なせる、⑦消える、⑧死者、の意味。
・「生」は①②出現する、③④⑤生け捕り、⑥ばかり、⑦⑧(死と対にして用い)存命である者、の意味。
<解読の注>
・この句は中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」の原文に従うが、孫子(講談社)の原文とも一致する
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

・この句について詳しく解説したページがあります。
孫子の名言「日に短長有り、月に死生有り」の間違い

<①について>
・「日には短きと長き有り」は、太陽の自然現象と考えれば「太陽には低く昇る時期と高く昇る時期が有る」と解読できる。しかし、これだけでは具体的な文意、狙いが読み取りづらいため解釈結果を加えておきます。
まず、「日」の“太陽”は其五2-3の「日月」の解釈より「正攻法部隊」を喩えていると考察できる。次に、「短」には“欠点”、「長」には“優れたところ”の意味があることから、この句は正攻法部隊の欠点と長所について示唆する教えだと推察できる。
その上で、其六6-2①「水が流れる時は、高い位置をかわして低い位置に向かって行くのであり、自軍が敵軍を抑える時は、充実して堅固な敵軍をかわして虚弱で脆い敵軍を攻めるのである」に着眼すると、其六6-2①の“位置の高さ”は、太陽の高さを示していると考察できる。その結果、後に続く解読文では虚実の教えに転換されると予想できる。

・「月には死と生有り」も、月の自然現象と考えれば“月には消える時期と出現する時期が有る”となる。これは月の満ち欠けを表現していると解釈すれば、「月には欠ける時期と満ちる時期が有る」と解読できる。
なお、「月」の“月球” は其五2-3の「日月」の解釈より「奇策部隊」を喩えているとわかり、欠ける時期は隠れている状態、満ちる時期は出撃している状態を示すと考察できる。ちなみに、月は欠けていても存在しており、その存在が見えないだけなのである。そのため、「敵には奇策部隊が消えたり、出現したりするように見える」という“心境”を喩えたとも言える。

<②について>
・「日」の“太陽”は、其五2-3の「日月」の解釈より「正攻法部隊」と解読。③④⑦も同様に解読。

・「短」の“低い”は、①「解読の注」より、其六6-2①「低い位置」を指すと考察。「低い位置」は「虚弱で脆い軍隊」を喩えるため、「虚弱で脆い軍隊」と解読。④⑥⑦⑧も同様に解読。

・「長」の“高い”は、①「解読の注」より、其六6-2①「高い位置」を指すと考察。「高い位置」は「充実して堅固な軍隊」を喩えるため、「充実して堅固な軍隊」と解読。③⑤⑧も同様に解読。

・「月」の“月球” は、其五2-3の「日月」の解釈より「奇策部隊」と解読。③④⑤⑥⑦⑧も同様に解読。

・「死」の“消える”は、①「解読の注」より「隠れている(状態)」と解読できる。③⑦も同様に解読。

・「生」の“出現する”は、①「解読の注」より「出撃している(状態)」と解読できる。

<③について>
・「短」の“減らす”は、其五5-4⑥「兵士数が多い堅固な軍隊を出現させて獲物となる敵部隊に進む方向を変えさせた時、多くの場所に配置させた奇策部隊が山をなすほどに多ければ、必ずその瞬間を認識している奇策部隊の間者が存在する」等の教えを実行することで敵軍の兵士数を減らすことと考察。結果、「敵軍の兵士数を減らす」と解読。⑤も同様に解読。

<④について>
・2つ目の「有」の“備える”は、戦闘が始まる前に奇策部隊を隠れさせることと考察。結果、「事前に隠れさせる」と解読。⑥も同様に解読。

<⑤について>
・「死」の“草木が枯れる”は、其五2-4③「死」で記述された「次に訪れる季節に向けて土の中に隠れている植物が生育して元の状態に戻るように、正攻法部隊の中で消耗した部隊が生じた時は戦線から離脱させて兵士達を回復させて立て直す」の喩えを指すと考察すれば、「消耗した部隊」を指すとわかり、さらに奇策部隊に攻め取られる話の流れを踏まえれば、消耗しているのは敵部隊だと考察できる。結果、「死すもの」で「消耗した敵部隊」と解読。

・2つ目の「有」の“豊作であるさま”は、日を追うごとに奇策部隊が敵兵を攻め取っていけば、取得した敵兵の人数が多くなることと考察。結果、「取得した敵兵の人数は多い」と解読。

<⑥について>
・「日」の“ある特定の日”は、其十一3-11①「日」の「戦地「死地」に達する出撃命令を出す日」の意味を積み上げていると考察。結果、「「死地」に対する命懸けの出撃命令を出す日」と解読。⑧も同様に解読。

<⑦について>
・「生」の“存命である者”は、⑥「奇策部隊を事前に隠れさせても敵兵を死なせるだけ」との対比であり、奇策部隊が攻め取って生き残っている敵兵達と考察。結果、「生存している敵兵達」と解読。

・「長」の“無駄”とは、奇策部隊が攻め取って生き残っている敵兵達が虚弱で脆そうな自軍を見て寝返らないことと考察。

<⑧について>
・特に無し。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。