旗を之いる正す正を要える毋かれ、 陳を之いる堂の堂を撃つ毋かれ。此、変えて治する者なり。

其七6-6

毋要正正之旗、毋擊堂堂之陳。此治變者也。

wú yào zhèng zhèng zhī qí、wù jī táng táng zhī chén。cǐ zhì biàn zhě yĕ。

解読文

①旗を使って隊列の型や陣形の型をきちんと整える敵の正攻法部隊は迎え撃ってはならない、陣立の型を使って山間の広くて平らな場所で整った隊列でぎっしり密集して広がっている敵の正攻法部隊は攻めてはならない。これが、考えていた計画を変更して合理的に行動する将軍である。

②きちんと整えた敵の正攻法部隊を迎え撃たない理由は、敵の正攻法部隊が出現した時、旗を使って自軍に回避させるからである。整った隊列でぎっしり密集して広がっている敵の正攻法部隊を攻める軍隊が存在しない理由は、山間の広くて平らな場所に敵の正攻法部隊が出現した時、高い土台の上に築かれた御殿の大広間に赴かせて事態を申し述べさせるからである。重大事件が突然に起これば、このように合理的に行動させるのである。

③旗を使って自軍に敵軍を回避させた時は、敵軍が存在しない険しく守りの固い地で自軍をきちんと整えるのである。高い土台の上に築かれた御殿の大広間に赴かせて事態を申し述べさせた時は、敵軍が存在しない山間の広くて平らな場所を強奪するのである。このような将軍は、重大事件が突然に起こっても軍隊を整えるのである。

④敵軍が存在しない険しく守りの固い地で自軍をきちんと整える時は、旗印の仕事を担当する兵士が存在する。敵軍が存在しない山間の広くて平らな場所を強奪する時は、高い土台の上に築かれた御殿の大広間で事態を申し述べる兵士が存在する。旗印の仕事を担当する兵士と事態を申し述べる兵士には、移動する手段を研究させるのである。

⑤旗印の仕事を担当する兵士に対して、使う旗の合図を質問した時、その回答内容が要領を得て簡略でなければ、その兵士から任務を取り上げるのである。事態を申し述べる兵士に対して、山間の広くて平らな場所から高い土台の上に築かれた御殿の大広間に移動する手段を言わせた時に何も回答しなければ、その兵士から任務を取り上げるのである。このような兵士達が存在すれば、担当者を変えることで、その兵士達の考え方や態度を改めさせるのである。

⑥旗印の仕事を担当する兵士が、まともに旗の合図を使うならば、正すこと無く重要な部分を任せるのである。事態を申し述べる兵士の言った移動する手段が、断ち切れる箇所が何も無く、山間の広くて平らな場所から高い土台の上に築かれた御殿の大広間に至るならば、事態を申し述べる任務を任せるのである。このように研究した兵士達は融通が利くのである。

⑦旗印の仕事を担当する兵士は、たとえ険しく守りの固い地が存在しなくても、事態を申し述べる兵士に従って山間の広くて平らな場所に到達して、整った隊列でぎっしり密集して広がっている敵の正攻法部隊を攻めることが無い。融通を利かせるこの兵士達は、このように合理的に行動するのである。

⑧迎え撃つ敵の正攻法部隊が存在しない時は、自国の正攻法部隊に、旗を使って隊列の型や陣形の型をきちんと整えさせるのであり、攻める敵の正攻法部隊が存在しない山間の広くて平らな場所に出現して、陣立の型を使って整った隊列でぎっしり密集して広がっている自国の正攻法部隊を出現させるのである。このように自軍を整える将軍は、突然、敵軍に重大事件を起こすのである。
書き下し文
①旗(き)を之(もち)いる正す正を要(むか)える毋(な)かれ、陳(じん)を之(もち)いる堂の堂を撃つ毋(な)かれ。此、変えて治(ち)する者なり。

②要(むか)えること毋(な)きは、正あるに、旗(き)を之(もち)いて正せばなり。撃つもの毋(な)きは、堂にあるに、堂に之(ゆ)かしめて陳(の)べしめばなり。変あれば、此(か)く治(ち)せしむなり。

③旗(き)を之(もち)いて正せしむに、毋(な)き要に正すなり。堂に之(ゆ)かしめて陳(の)べしむに、毋(な)き堂を撃(げき)するなり。此(か)く者は変あるも治(ち)せしむなり。

④毋(な)き要に正すに、旗(き)を正(せい)す之あり。毋(な)き堂を撃(げき)すに、堂に陳(の)べる之あり。此、変わること治めしむなり。

⑤之(もち)いる旗(き)を正すに要毋(な)ければ正(とど)むなり。堂より堂の之を陳(の)べしむも毋(な)ければ撃(げき)するなり。此(か)く者あれば、変えて治めしむなり。

⑥正しく旗(き)を之(もち)いれば、正(ただ)すこと毋(な)くして要たらしむなり。撃つこと毋(な)くして堂より堂に之(いた)れば、陳(の)べるものたらしむなり。此(か)く治める者は変(へん)ずるなり。

⑦旗(き)を正(せい)す之は、正(たと)い要の毋(な)くしても、陳(の)べるものに堂に之(いた)りて、堂を撃つこと毋(な)し。変(へん)ずる者は此(か)く治(ち)するなり。

⑧要(むか)えるもの毋(な)きに、正をして旗(き)を之(もち)いて正せしむなり、撃つもの毋(な)き堂にありて、陳(じん)を之(もち)いて堂あらしむなり。此(か)く治める者は、変たらしむなり。
<語句の注>
・1つ目の「毋」は①~してはならない、②~しない、③④存在しない、⑤⑥~しない、⑦⑧存在しない、の意味。
・「要」は①②迎え撃つ、③④険しく守りの固い地、⑤要領を得て簡略なさま、⑥重要な部分や内容、⑦険しく守りの固い地、⑧迎え撃つ、の意味。
・1つ目の「正」は①②其五1-3①「正」、③④きちんと整える、⑤制止する、⑥正しくさせる、⑦たとえ~でも、⑧其五1-3①「正」、の意味。
・2つ目の「正」は①きちんと整える、②③正しくさせる、④労役に従う、⑤質問する、⑥まともに、⑦労役に従う、⑧きちんと整える、の意味。
・1つ目の「之」は①②③使う、④彼、⑤⑥使う、⑦彼、⑧使う、の意味。
・「旗」は①②③、④各種の旗の総称、⑤⑥印、⑦⑧各種の旗の総称、の意味。
・2つ目の「毋」は①~してはならない、②~しない、③④存在しない、⑤⑥何もない、⑦~しない、⑧存在しない、の意味。
・「撃」は①②攻める、③④⑤強奪する、⑥断ち切る、⑦⑧攻める、の意味。
・1つ目の「堂」は①②③④⑤⑥山間の広くて平らな場所、⑦四方形の壇、⑧山間の広くて平らな場所、の意味。
・2つ目の「堂」は①四方形の壇、②③④⑤⑥高い土台の上に築かれた御殿の大広間、⑦山間の広くて平らな場所、⑧四方形の壇、の意味。
・2つ目の「之」は①使う、②③赴く、④彼、⑤代名詞、⑥⑦ある地点や事情に達する、⑧使う、の意味。
・「陳」は①戦陣の型、②③④申し述べる、⑤言う、⑥⑦申し述べる、⑧戦陣の型、の意味。
・「此」は①代名詞、②このように、③このような、④代名詞、⑤このような、⑥⑦⑧このように、の意味。
・「治」は①②合理的な行動、③整える、④研究する、⑤病気を癒す、⑥研究する、⑦合理的な行動、⑧整える、の意味。
・「変」は①改める、②③突然に起こる重大事件、④移動する、⑤改める、⑥⑦融通する、⑧突然に起こる重大事件、の意味。
・「者」は①助詞「もの」、②③仮定表現の助詞、④助詞「こと」、⑤⑥⑦⑧助詞「もの」、の意味。
・「也」は①②③④⑤⑥⑦⑧断定の語気、の意味。
<解読の注>
中國哲學書電子化計劃「銀雀山漢墓竹簡(孫子)」は「毋要◆◆之旗、毋擊堂堂之陳、此治變者也。」と二文字欠落。孫子(講談社)及び新訂孫子(岩波)を参考にして補った。
・この句には八通りの書き下し文と解読文がある。①②③④⑤⑥⑦⑧と付番して、それぞれについて解説する。

<①について>
・2つ目の「正」の“きちんと整える”は、文意より、其七3-2①「隊列の型」や其六6-4①「刑」の「陣形の型」をきちんと整えることと考察。結果、「隊列の型や陣形の型をきちんと整える」と補って解読。⑧も同様に解読。

・1つ目の「正」は、其五1-3①「正」の「正攻法部隊」と同意と考察。但し、敵軍を指す文意であるため「敵の正攻法部隊」と解読。②も同様に解読。

・2つ目の「堂」の“四方形の壇”は、其五5-3④「方」の意味の一つ“四角形であるさま”と同意と考察。但し、“壇”は土を集めて固めて盛り上げた場所であり、これは兵士達がぎっしり密集している状態と解釈できる。これらを踏まえると、其五5-3④「自軍は整った隊列で広がっている」に基づき、“自軍”を「敵の正攻法部隊」に置き換えて「整った隊列でぎっしり密集して広がっている敵の正攻法部隊」と解読。⑦1つ目の「堂」も同様に解読。

・「陳」の“戦陣の型”は、“戦いのための陣営“や”戦いの陣立て“の類型と考察。また、「刑」の「陣形の型」と類似するが、「陣形の型」は”戦闘の隊形“を指すと考察。結果、「陣立の型」と言い換えて解読する。⑧も同様に解読。

・「此」は、「毋要正正之旗、毋撃堂堂之陳」を指示する代名詞と解釈。ここでは「これ」と解読。

・「変」の“改める”は、其七6-4①「合理的に行動して考えていた計画を実行する将軍」を受けており、其七6-4①「心」の「考えていた計画」を変えることと考察。結果、「考えていた計画を変更する」と補って解読。

<②について>
・「要」の“迎え撃つ”は、①「要」で記述された「旗を使って隊列の型や陣形の型をきちんと整える敵の正攻法部隊は迎え撃ってはならない」の意味を積み上げていると考察。結果、「きちんと整えた敵の正攻法部隊を迎え撃つ」と補って解読。

・2つ目の「正」の“正しくさせる”は、話の流れを踏まえると敵軍を回避する行動を“正しい“と解釈できる。結果、「自軍に(敵軍を)回避させる」と補って解読。③も同様に解読。

・「撃」の“攻める”は、①「撃」で記述された「陣立の型を使って山間の広くて平らな場所で整った隊列でぎっしり密集して広がっている敵の正攻法部隊は攻めてはならない」の意味を積み上げていると考察。結果、「撃つもの」で「整った隊列でぎっしり密集して広がっている敵の正攻法部隊を攻める軍隊」と補って解読。

<③について>
・1つ目と2つ目の「毋」の“存在しない”は、敵軍を回避した自軍が向かう場所と考察できるため、「敵軍が存在しない」と補って解読。④も同様に解読。

<④について>
・「旗を正す之」の直訳は“旗の労役に従う彼”となる。其七5-1②「旗印の仕事を担当する兵士」と同意と考察。結果、「旗印の仕事を担当する兵士」と解読。⑦も同様に解読。

・「堂に陳べる之」の直訳は“高い土台の上に築かれた御殿の大広間で申し述べる彼”となる。これは事態を報告する兵士を指すと考察。結果、「高い土台の上に築かれた御殿の大広間で事態を申し述べる兵士」と解読。

・「此」は、「旗印の仕事を担当する兵士」と「高い土台の上に築かれた御殿の大広間で事態を申し述べる兵士」を指示する代名詞と解釈。結果、「旗印の仕事を担当する兵士と事態を申し述べる兵士」と解読。

<⑤について>
・「毋要正正之旗」の箇所は、解読文④から話が続いていると解釈して「旗印の仕事を担当する兵士に対して」と補った。

・「毋撃堂堂之陳」の箇所は、解読文④から話が続いていると解釈して「事態を申し述べる兵士に対して」と補った。

・1つ目の「正」の“制止する”は、「旗印の仕事を担当する兵士」に任務をさせないことと考察できる。結果、「任務を取り上げる」と言い換えた。

・2つ目の「之」は、④「変」の「移動する手段」を指示する代名詞と解読。

・「撃」の“強奪する”は、「事態を申し述べる兵士」から報告する任務を取り上げることと考察。結果、「任務を取り上げる」と解読。

・「治」の“病気を癒す”の”病気“は、任務を取り上げられた兵士達の考え方や態度を指すと解釈すれば、”癒す“は改めることとなる。結果、使役形で「考え方や態度を改めさせる」と解読。

<⑥について>
・「毋要正正之旗」の箇所は、解読文⑤から話が続いていると解釈して「旗印の仕事を担当する兵士が」と補った。

・「毋撃堂堂之陳」の箇所は、解読文⑤から話が続いていると解釈して「事態を申し述べる兵士の言った移動する手段が」と補った。

・「要」の“重要な部分や内容”は、まともに旗の合図を使う「旗印の仕事を担当する兵士」に重要な部分を任せることと考察。結果、「要たらしむ」で「重要な部分を任せる」と解読。

・「陳べるものたらしむ」は、事態を申し述べる兵士にさせると解釈できる。これでは回りくどい表現になるため、「事態を申し述べる任務を任せる」と言い換えた。

<⑦について>
・「陳べるもの」の“申し述べる者”は、「事態を申し述べる兵士」を指すと考察。

<⑧について>
・「要」の“迎え撃つ”は、①「敵の正攻法部隊」が対象と考察できるため、「要えるもの」で「迎え撃つ敵の正攻法部隊」と解読。

・1つ目の「正」は、其五1-3①「正」の「正攻法部隊」と同意と考察。結果、「自国の正攻法部隊」と解読。

・「撃」の“攻める”は、①「敵の正攻法部隊」が対象と考察できるため、「撃つもの」で「攻める敵の正攻法部隊」と解読。

・2つ目の「堂」の“四方形の壇”は、①2つ目の「堂」の「整った隊列でぎっしり密集して広がっている敵の正攻法部隊」から類推して「整った隊列でぎっしり密集して広がっている自国の正攻法部隊」と解読。

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